コロナ禍から始まったこの2年間の海外留学,多くの学びがありました。筆者が感じたありのままの経験談をエッセイに落としこみ,従来のコンセプトである「1%程度は参考になってしんどい時にクスッと笑って研究に戻るきっかけ」を読者のみなさまへ提供できていたのであれば,この上なく幸いです。
海外編,最後の投稿になります。ご愛読ありがとうございました。あと少しだけ,お付き合いいただければ僥倖です。
ポンコツシリーズ
第25話:博士,海外留学を終える
ポンコツ博士,そこそこ終える
アカデミアの研究において研究の区切りとなるポイントはどこであろうか。研究分野によってもその区切りは大きく異なるであろう。化学・生命科学分野であれば,学会発表や論文投稿が一区切りになるであろうか。有機合成化学という小分野では,目的化合物の合成完了というのも小区切りもあろう。
筆者が携わった仕事の区切りは,目的化合物の合成と活性評価の結果を論文化することだった。ボッスは,筆者らが1年前に合成した化合物の活性評価の内容を超高速で書き上げ,某雑誌に投稿して無事受理された。内容もさることながらボッスの第一人者的なレジェンドポジション/研究継続度も大きかったのか,筆者の携わった研究の中で最も高IFな論文となった。経験したことがない圧倒的スピード感で論文が作られていったので「はぇー…英語nativeってすっごい…」と思った。
ポンコツ博士,改めて研究活動を考える
研究活動において目指すのが好ましい区切りとは何か。筆者は最近これらを考えている。
① 研究者らがその時代に革新的で最先端だと思える研究知見や,知見に基づいた確かな実験事実を後世に残る財産として学会発表や論文化し,社会への還元を目指す。
② 研究知見を特許という形で現代社会に役立つ知財として確保し,知財をちゃんと利用して研究に携わった人間と環境への実際の還元を目指しつつ,社会への還元を目指す。
③ メディア戦略等,あらゆる手段を駆使して「正しい研究知見」を真に欲する方へ繋ぎ,①, ②のinvention (発明・発見)からinnovation (社会的価値創出)を起こす可能性を切り開き,社会への還元を目指す。つまり,このようなエセ科学,テメェは絶対だめだ。ヤバすぎだぜひやっしー
研究をやってようがいまいが「え?研究してるんならそれって普通だし,当たり前じゃーん!」と言われそうな内容であり,それを言われればそこまでであるが「言うは易く行うは難し」の典型例だと筆者は認識している。
今回の場合,結果として①を満たしたため,筆者はそれなりに満足であった。ただし,入ったタイミングが良かっただけで大した労力を使っていないことを忘れてはいけなかった。また,成果自体も「IFが高いから良いもの」という概念に囚われてはならないことを心に留めることにした。IFという指標は,あくまでもその時代で名を上げるための宣伝効果であり,研究の本質はやはり中身にあるということである。今年ノーベル賞を受賞したmRNAワクチンの研究関連は,IF,社会的ポジションに恵まれた研究展開ではなかったが,研究の芽から本質を探し続けた先に時代とのニーズが一致したことで一挙に開花した好例ではないだろうか。
近年では,日本のあらゆる社会情勢が逼迫しており,基礎研究者にも③を強く要求するようになった。確かに,高度な科学技術が日進月歩で成長する現代社会において,①の宝探しを続けるためには最先端の技術を用いない場合ですら高額のお金が必要であり,誰でも①だけで喰っていける状況ではなくなってきた。一方で③は様々な方面からの投資や運もあって実現できる訳であり,高度複雑化した社会でどこまで個人に求めるかというバランスは本当に難しい。しかし,ゲイツやマスクなどの歴史に残る社会的勝ち組は間違いなく先導して③を実践しているため,未来に夢を描く仕事である研究職において,目指すべき頂であることも間違いない。
結局,Ponkotsu of Ponkotsuの筆者は”Make Lemonade out of Lemons“の精神で,実現への確率を上げるために,あーだこーだ文句を言いながらも地に足を付けた仕事をコツコツと泥臭く続けなければならないのであろう。携わった仕事が将来,社会のGame Changerになるまでといかなくとも,もしかしたらスイカゲームのように,業界内の想像を超えた爆発的なブレイクスルーを引き起こせるかもしれないのだから。
ポンコツ博士,新たな就職先を探索する
非常に謙虚かつ客観的目線で社会を解析しているつもりが,第三者から偉そうに見えてしまうジレンマを抱える筆者は,そろそろ「研究でこういうのしたいからこれやってみるか!」というものをきっちり見つけなければなけないお年頃であった。一方,アカデミア社会の循環のためには,限りある枠へしがみつく行為はナンセンスであるとも考えていた。ただし,こちらでモラトリアムを堪能する悦びを知ってしまったので「とりあえずボッスにもう一年ポスドクをお願いしてポスドクサラリーの昇給ストップ+退職金が頂けるポスドク3年生活のタイミングで帰国し,研究職以外で生活費を得る方法をうまく確保した後,地元の生活を基盤に貴重な野良フッ軽PhD研究員として知り合いの研究者を頼りに全国津々浦々できる研究活動を続けようかなー」という最高に見通しが甘いプランを画策していた。
筆者が朧気ながら次の将来プランを考えていたところ,日本の大学のJK枠公募が筆者の元へ届いた。元々アカデミア志望ではないことからそこまでJKになりたい気持ちは特になかったが,論文を拝見したことがあり,不安定な実験系を試せるマシンがあるなぁと考えたことがあるラボからだった。受かろうが落ちようが特に失うものがない筆者にとって「転んだ方がベストだと思える人生を」を目指すための良い経験になると考え,受けることにした。
ポンコツ博士,公式プレゼンを行う
筆者は,公募書類をパパッと書き上げ,プレゼン準備に着手した(やっぱり紙で印刷して最終チェックしないと誤字があった)。プレゼンは3月にある程度スライド叩き上げを作っていたため,もう少しアカデミック用に仕上げつつ,公募ということで人間性が伝わるスライド構成をさらに重視した。今のご時世,ぶっ飛んでない人間には人格や品格を強く求められている(ぶっ飛んで研究できる人にも求められているが,多少免罪符があると思う)。筆者は間違いなくぶっ飛んでいないので,闘う術は一択だった。
某日,筆者はプレゼンをオンラインで行った。プレゼンを終えた個人的な講評として,今回のオンライン発表では,自分が目指す臨場感をそこそこ表現できた気がしたため,筆者のメッセージ性をオンラインの向こう側にそこそこ伝えられた気がした。
ポンコツ博士,海外奮闘録を終える
…某日夕方,筆者は日本に帰国した。なんと無事,公募先に採用され,日本のまんなからへんの街に住むことになった。
正直,筆者の描いていたエンディングと全く違う結果になったが,あの頃のように,筆者の予測できない良い方向へ向かうのであれば,それはそれで面白い。また,今回も筆者未踏の地であることから,留学前に抱いたワクワク感を再度味わえるのは非常に幸運なことではなかろうか。もちろん,このままで良いのかと悩む時もあるが,あらゆることに迷いながらもがむしゃらに,でもしっかりと一つずつ選んでいくことで振り返った時には誰かの為になっているのではなかろうか。
何故なら
なのだから…
〜海外編 完〜
関連リンク・おまけ
いらすとや :アイキャッチ画像の素材引用元。
筆者は,昔からなんとなくボリウッドダンス映画が好きである。したがって,最終話もポップな感じで終わりたいため,ジャパウッドダンス感を提供した方がよいのでは?ということでおすすめのMVをリンクしておく。ただ,文章とMVが一致しない感覚が筆者の中で若干存在したため,執筆中にランダム再生していたYoutube music内で一番筆が乗った曲もリンクしておく。ちなみに読者である某知人に「現在日本で一番,群青を使いこなせている人」と評して頂いたため,群青をEDに使っても良かったのだが,ここでは別のおすすめ曲を提供する(この話のフィット感に及ばないと思った)。…とりあえず,電車の中で下記の曲を聴きながら読み直すと良いかもしれない。
上記の曲をリンクした後,留学したことで得られたうんちくを思い出したので紹介しておく。アメリカ人は呪術廻戦のことをJJK(ジェイジェイケー)と略す。筆者は残念ながらJJKを全く読破・視聴していないが,もし話せる友人がいればこれから「今週のJJK読んだ(みた)?」と使っていこう。
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