共有結合性有機構造体(COF)の柔軟性の段階的な改変が、リンカーの交換および変換反応により達成された。さらに、COFの柔軟性の変化に伴うガス吸着特性の変化が明らかにされた。
MOF/COFの柔軟性改変
MOFやCOFの多くは、長さや角度が固定された構成部品で構築されるため剛直である。しかし、長さや角度にある程度の自由度をもつ構成部品を用いた場合、柔軟なMOF/COFが構築できる。この柔軟なMOF/COFは物理的/化学的刺激に応答して、その構造が大きく変化するため、剛直なMOF/COFと比較して高い刺激応答性をもつ(図1A)(1)。そのため、柔軟なMOF/COFは、その柔軟性と性質の関係および刺激応答性材料としての応用に興味がもたれている。
MOF/COFの柔軟性の改変は、構成分子の組み合わせから別々に合成する手法がよく用いられる(図1B)(2–4)。一方で、ゲスト分子の交換や化学反応により、すでに構築されているMOF/COFの柔軟性を改変させる手法が報告されている(4–8)。一例として、柔軟なMOFへのDiels–Alder反応によりリンカーを変化させ、MOFを剛直にする手法がある(図1C)(8)。しかし、以上の柔軟性の改変法はいずれも一段階であり、MOF/COFの柔軟性を多段階に変化させた例はない。もし、柔軟性の多段階改変が可能になれば、多機能なMOF/COF材料の開発に繋がるだろう。
今回著者らは、すでに構築したCOFに対してリンカー交換とリンカー変換の二つの手法を用いることで、柔軟性の段階的な改変を目指した(図1D)。また、一連のCOFの物性評価から、柔軟性の改変に伴う性質の変化を明らかにした。
“/b>Gradually Tuning the Flexibility of Two-Dimensional Covalent Organic Frameworks via Stepwise Structural Transformation and Their Flexibility-Dependent Properties/b>”/b>
Zhou, Z.-B.; Sun, H.-H.; Qi, Q.-Y.; Zhao, X. i>Angew. Chem./i>,/i> Int. Ed. /i>2023/b>, 62, e202305131
DOI: a href=”https://doi.org/10.1002/anie.202305131″>10.1002/anie.202305131/a>
論文著者の紹介
研究者: Xin Zhao (赵新)
研究者の経歴:
1990–1994 B.Sc., Beijing Normal University, China
1994–2003 Ph.D., Shanghai Institute of Organic Chemistry (SIOC), China (Prof. Zhan-Ting Li and Xi-Kui Jiang)
2003–2008 Postdoc, Harvard University, USA (Prof. William von E. Doering) and The University of Chicago, USA (Prof. Luping Yu)
2008–2014 Associate Professor and Researcher, SIOC, China
2014– Professor, SIOC, China
研究内容:共役系の自己組織化、超分子戦略によるマイクロ/ナノスケール構造体の合成
論文の概要
著者らは、Rigid Precursor COF (P-COF)に対して酸性条件下オキサリルジヒドラジド(ODH)を添加し、リンカーの剛直なビフェニルジイミン構造を柔軟なオキサリルジヒドラゾン構造へ交換してSemi-Flexible COF (SF-COF)を合成した(図2A)。SF-COFは、フェニレンジイミン構造をもつRigid COF (R-COF)からも同条件で合成可能だが、構成分子から直接的には合成できなかった。次にSF-COFに対し、ボラン存在下TMDSを作用させ、C=N結合がC–N結合に変換されたFlexible COF (F-COF)を合成した。
リンカー交換および変換によるCOFの柔軟性変化は、THFに対する応答で評価した(図2B)。R-COFはTHFへの浸漬前後で粉末X線回折(PXRD)スペクトルが変化しなかったのに対し、SF-COFはTHFへの浸漬により(110)面に帰属されるピークがシフトした。これは、SF-COFがR-COFよりも柔軟であることを示す。合成後に真空乾燥で溶媒分子を除去したF-COFはピークを示さなかったが、THFへの浸漬によりピークが出現した。真空乾燥した際はODHリンカーが層間でランダムな水素結合を形成した無秩序な構造体となっており、浸漬した際は層間水素結合がTHFにより弱められ、秩序構造が復元したと考えられる。この無秩序構造から秩序構造への大きな転換はF-COFがSF-COFよりも柔軟であることを示している。以上より、R-COF < SF-COF < F-COFの順で、より柔軟になっていることが明らかになった。
さらに、柔軟性の改変に伴う性質の変化をN2/CO2ガスの吸着実験から明らかにした(図2C)。N2吸着では、秩序構造が保たれているP-COF、SF-COFに対し、無秩序構造となっているF-COFの吸着量は極端に小さい。一方、CO2吸着ではSF-COFの吸着量が最も多く、R-COFおよびF-COFの吸着量は中程度であった。SF-COFは、リンカーに豊富に存在するヘテロ原子がCO2と相互作用するためR-COFより吸着量が多くなったと考えられる。F-COFの吸着量がR-COFと同程度であったのは、双極子を有するCO2の吸着により一部秩序構造が復元したためと考えられる。このF-COFのN2に対して閉じ、CO2に対して開く性質は、N2/CO2混合気体からCO2を選択的に捕捉する技術への応用が期待される。
以上、リンカーの交換および変換によりCOFの柔軟性を段階的に改変する手法を開発し、柔軟性の違いによるCOFの特性変化を明らかにした。柔軟性有機構造体の開発における大きな一歩となったと言えよう。
用語説明
MOF 金属有機構造体(Metal organic frameworks)
COF 共有結合性有機構造体(Covalent organic frameworks)
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