有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2023年10月号がオンライン公開されています。
学会シーズンですね。いろんな人に会えて、活性化されています。
有機合成化学協会誌は今月号も充実の内容です。
キーワードは、「典型元素・テトラシアノシクロペンタジエニド・二重官能基化・パラキノジメタン・キナゾリノン」です。
今回も、会員の方ならばそれぞれの画像をクリックすればJ-STAGEを通してすべてを閲覧することが可能です。
巻頭言:個性を創るもの、継ぐもの
今月号の巻頭言は、名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所の大井 貴史 教授 による寄稿記事です。
大井先生のメッセージに心打たれると同時に、読み物としての美しさに暫し感動していました。オープンアクセスです、必読です。
電気陽性な典型元素の励起状態を利用する光反応の開発
* 1東京工業大学物質理工学院
2東京大学大学院薬学系研究科
ヘテロ元素が関わる光化学反応はNorrish反応をはじめ、ユニークで機構的にも興味深い。本論文はホウ素、スズ、ケイ素などの電気陽性元素が関わる光化学反応に関するものである。今後の光反応化学の発展にする資する論文である。
超強酸共役塩基テトラシアノシクロペンタジエニド類を用いる有機合成研究
*名城大学薬学部
カウンターアニオンというと何を思い浮かべるでしょうか。有機金属錯体やルイス酸のカウンターアニオンとしては、ハロゲン化物イオン、PF6–、BF4–、TfO–など様々強酸の共役塩基を思いつくでしょう。本論文では、特異な超強酸共役塩基テトラシアノシクロペンタジエニド類(TCCP類)の基礎的な性質の研究から反応・全合成への応用まで、有機アニオンの真髄が一挙に詰まった、名城大薬 坂井健男先生の超大作です。是非ご一読ください。
ハロゲンの酸化を駆使した二重官能基化反応
第17族元素(ハロゲン)は、その柔軟に酸化還元を起こす元素特性のため、容易にラジカルやカチオン種に変化し、炭素−炭素多重結合や炭素−水素結合に対して優れた反応性を示すようになります。本総説では、最近著者らによって見出された臭素・ヨウ素の元素特性を活用した、飽和および不飽和化合物の連続的分子変換反応が紹介されています。
パラキノジメタン構造を基軸とした近赤外エレクトロクロミック分子の創出と機能制御
*北海道大学大学院理学研究院化学部門
NIR(近赤外)色素の創出とそのエレクトロクロミズム現象が詳細にまとめられている。パラキノジメタン構造に着目した様々な分子設計で色調(吸収帯)や応答電位が制御可能であり、新しいNIR色素群が開発された。
炭素–窒素不斉軸を有するアトロプ異性キナゾリノンの化学
1東京薬科大学薬学部
2*芝浦工業大学工学部応用化学科
本論文は、炭素−窒素単結合に起因するアトロプ異性を有するキナゾリン化合物のエナンチオ選択的な合成とその立体化学的挙動に関する研究について、著者らの最近の成果がまとめられている。エナンチオマーの自己不均化やH/D識別によるアトロプ異性体の分離の試みなど、有機化学に興味深い内容が紹介されている。
Review de Debut
今月号のReview de Debutは1件です。オープンアクセスですのでぜひ。
・配糖化方法論を鍵とした樹脂配糖体Merremoside Dの全合成 (北里大学薬学部)小西成樹
Messege from Young Principal Reseacher(MyPR):Have fun!
今月号のMyPRは、静岡県立大学薬学部の滝田 良教授による寄稿記事です。
Principal Researcherに焦点を当てた記事ですが、滝田先生の寄稿記事は学生さん含め多くの研究者にとって気づきのあるものだと感じました。みなさんぜひご覧ください!
感動の瞬間:硫黄官能基をα位に有するケトンのパン酵母不斉還元
今月号の感動の瞬間は、豊田理化学研究所フェロー、鳥取大学名誉教授の伊藤敏幸先生による寄稿記事です。「隠れ窓際実験」が生む感動の瞬間、とても共感できます。
これまでの紹介記事は有機合成化学協会誌 紹介記事シリーズを参照してください。