注意1:この記事は人によってはやや苦手と思われる画像を載せております ご注意ください
注意2:厚生労働省の発信しているダニに関する情報が最も大事です リンク 是非ご一読ください
注意3:ダニの概要を楽しく解説されている森林総合研究所 岡部女史のこちらのエッセイも必読
Tshozoです。前回はSFTSの宿主と治療薬の話でしたが今回は宿主をターゲットにしたお話を後編として書いていきます。つまりはこれはでもしダニに刺されたらどうなるのか、薬はあるのかなどについて述べてきましたが、今回は殺ダニなどの方法が中心です。
ダニをどうにかする対処方法は
SFTSに対するお薬の開発は進んでいるものの、根治&完全防衛にはウイルスを持つマダニを抹殺駆除するしかない。どうしたらいいのか。
原理的には1匹ずつ物理的に殺したいですが多勢に無勢。例えば野焼きは地上にいる連中に対しては有効ですが、ダニも地下に潜って火炎、昇温から逃れるケースがあるようなのでやはり殲滅は難しいとのこと。となると薬で駆除するかまたは追い払うか、という話になります。化学的には最後の2個を選ぶことになりますが、ただ経験的(n=1)にディートとかイカリジンといった忌避剤が効いた覚えがない(…に加えてこういう経験談(リンク)もあったりするので…)ので、ここでは駆除の方を中心に調べてみます。
しかし、調べだしてみると(下図・(文献1))ハダニとかの農業における害ダニに対する特異的な薬効があるものはかなりの数開発されて、しかも時代ごとにその主流が移り変わりつつありますが、今回採り上げる吸血性ダニ類に対し特効性・選択性をもつ殺虫薬というのはそもそもないということがわかりました。なお下図が示すように農作物ダニ(≒ハダニ)類の抵抗性形成力というのはメチャクチャに高いらしく、ここまで早いタイミングで主要薬が入れ替わるのはそうそうある話ではないようですね。
参考までに、農業上の害ダニ類に対する主要な殺ダニ剤の時代変遷
瞬く間に出荷額が減衰するのは耐性獲得が早いこともあると予想される
(文献1)より引用
ということで吸血ダニ類には専用殺虫剤が使用・開発されることはなく、以前の記事(こちら や こちら)で紹介したピレスロイド系殺虫剤が現時点でもよく効くようです。しかし耐性種は存在するらしく、南アフリカの一部地域ではその不適切な使用が原因で耐性の高いダニが発生していることがわかっています(NHK・リンク)。日本国内でも、たとえば某界隈でやってるように矢鱈滅法環境内にぶちまけるのははっきり言って愚中の愚(私有地かつ管理された敷地内なら許容されますが)。ということはきちんと量や範囲をコントロ-ルしたうえで、耐性種が出来ないよう組み合わせて使う等の対応が必要。そのうえで、最近使われる殺ダニ剤(注:サシバエやブユ、ワクモなど他の害悪動物への効果もありますが、今回はこの呼び名に統一)の最新状況を書いてみます。
牧畜・家畜に対する殺ダニ剤の種類とその使用
吸血ダニは農地に果樹とか穀物の汁を吸いに来ないとは書きましたが、酪農の方々には面倒な相手。つまり牛や豚に集って吸血する。特に放牧している場合ほぼ野生環境に身を置くことになり、何も対策しないとその際にかなりの量が取り付くことになります。ダニは家畜にとっては痒いし伝染病の観点からも最悪な害虫で、その結果乳量や肉質が悪くなったりしては農家さんにダメージになる。ということでこうした際にはやはり殺ダニ剤が使われなければならないわけです(種類は後述)。
(文献2)より引用 家畜につくダニの極端な被害の例・牛の陰部に大量に寄生
筆者で似たようなことが発生したらと思うと俺ぁもう
アメリカとかだと昔はそれこそシラミ用DDTよろしくキツい殺虫剤を頻繁に牛に大量噴射、のケースもありましたが、乳牛や肉牛でそれをやられると消費者側としてはちょっと気分が悪い。なので最近はかなり分量とタイミングを絞って体表に撒くか、またはポアオン法かイヤータグ法(後述)などの方法が採られるようです。いずれもきちんと管理すれば分量としては極めて少なくまた分解されるケースが多いため人体に影響がある量を遥かに下回りますので許容出来ることと考えましょう(どこかの段階で残留成分をチェックしてたはず)。農家さんが疲弊して儲からなくなるほうがずっと社会にとって害ですからね。ただ、ピレスロイド系殺虫剤は水生生物には極低濃度でも極めて有害であるというのは以前の記事で述べた通りですのでその点の注意は必須です。
で、国内で使われている吸血ダニ用殺剤は神経軸索のナトリウムイオンチャンネルをターゲットとするピレスロイド系が多く、次に塩素イオンチャンネル付近に影響を及ぼすアベルメクチン・イベルメクチン系、次にアセチルコリン付近にアタックする有機リン系、最後に神経系とは違うところで影響を及ぼすオキサゾリン系という順がだいたい出荷量と一致しこれらで9割程度を占めるもよう。その中で多く使われているのはやはりピレスロイド系のフルメトリン、シペルメトリン、ペルメトリン。これらは以前にも書いたようにかなり前にバイエル(当時)等に開発されて相当前に上市が済んでいる材料で、開発から40年近く経っているものもありますが未だに吸血ダニ類にかなり高い効果を発揮する点は商売的にもユーザー的にもかなり幸運な状況なのかもしれません。もちろん油断は禁物ですが。
また古くから使われている有機リン系殺ダニ剤も実は今もかなり使われていて、下図に示すフェニトロチオンやプロペタンホス(商品名サフロチン/ノバルティスの前身サンド社が1982年に開発)という薬剤は吸血ダニに対しても現在でも高い致死性を示すことがわかっています。これらの有機リン系は使い方によっては十分安全ですがそれでも劇物であり、他のものに比べ厳密な扱いを要求されますので十二分に注意して使いましょう。
いつものピレスロイド系殺虫剤と、有機リン系のスミチオン(フェニトロチオン)
特に有機リン系は殺傷能力が高く抵抗性を獲得しにくい(場合による)特徴があるが
使い方によっては危険性が高いので正しい用法・容量を守る必要がある
節足動物 神経軸索付近での各殺●剤の効くポイントの要旨 前回から図を編集して再掲
実際にはIRAC分類というもので細かく区分けされており、
またミトコンドリア等へ作用する殺虫剤などは未記載なので注意
で、最後に挙げたオキサゾリン系のエトキサゾール(八州化学工業・現 協友アグリが開発)という材料はなかなか面白い特徴を持つので少し長めに紹介しようと思います。
エトキサゾールというのは神経軸索付近にはたらくのではなく、キチン生合成、つまり甲殻の合成を阻害し脱皮を起こしにくくさせるという特徴を持ちます。成長の重要な過程で脱皮が出来ないということは節足動物にとっては死を意味するわけで、降りかかっても即ノックアウトには至らないのですが、甲殻を作れなくなるということは卵から孵る時点から有効であり、更に成長途中の幼ダニから成熟手前のダニまで全部やっつけることが出来、珍しい遅効性タイプの農薬と言えるでしょう。もっとも脱皮が完了して一番活発な成体をこの薬の単剤で抑えられないのはなかなか厄介な話ですので、合剤にして使うようなケースも検証されているようです。
商品名バロック 正式名エトキサゾールの分子構造
色掛けのところがオキサゾリン構造 (文献3)より引用
エトキサゾールがダニの生活環のどこに効くかを示した図
脱皮時だけでなく卵の孵化時にも甲殻主成分であるキチン合成を阻害する
(文献4)の図を筆者が編集して引用
そもそもキチン合成の阻害剤としては、(文献3)によるとバイエルが開発していたクロフェンテジンという材料による効果(ウンカなどの成長を阻害)が基本になっています。一方合成上は元々その隣(10-A)の日本曹達によるヘキシチアゾクスという材料がお手本になっていて、それへの抵抗性が蔓延し出したことに対し、当時の八州化学の開発者が創薬に取り組みその結果作用機序が異なる(抵抗性機構が異なる)と推定されるこの材料を見出した、というのが流れです(文献5)。その結果エトキサゾールは前述のIRACでは10-Bというグループにただ1個だけ登録されることになりました。
ここで興味深いのが、旧八州化学殿は過去に製剤事業をメインに商売をしておりましたが、当時はまだ創薬機能(農薬)を持っていなかった点。創薬にも設計、製造・生産、営業という製品フローの各所で非常に多数のノウハウがあるはずで、特に創薬設計は技術的にも法制的にも暗黙知の部分が多く、かつ豊富なノウハウがあり、また想像以上に費用が掛かる点でも一朝一夕に足を踏み入れられる領域ではありません。しかし同社はそこに果敢に挑みます。(文献5)にはこのエトキサゾール開発に係る苦闘の歴史が詳細に記載されており、技術的にも読み物としても非常に興味深い内容になっていました。また同時期にバイエルクロップサイエンスから引き継いだ水稲用除草剤ピラクロニル(製品リンク)もみごと開発に成功しており、当時これらを率いた淺山哲夫氏の手腕の凄さはもちろん、(文献5)著者のエトキサゾール主開発者 石田達也氏の性根の強さが伺われます。
なおこの物質の作用機構ですが、実は現在も分子生物学的に詳細がわかっておりません。ただ同薬の抵抗性を調査した詳細な遺伝子解析によると(文献6)(文献7)、大意「特定のキチン合成酵素において塩基配列のたった一部分がひっくり返った(イソロイシン→フェニルアラニンに変わった)DNA構成を持つダニがこのエトキサゾールに対する抵抗性を持つ」ということが2012年の時点で明らかになっており、このキチン生合成酵素のはたらきを阻害していることは概ね間違いないようです。
(文献8)より引用 この最後のキチンポリマーを合成する酵素の生成またははたらきを阻害するのが
エトキサゾールの作用 キチンは甲殻類の殻を形成する重要な物質ですが
その出発点がトレハロースということを今回初めて知りました…
実はこれとほぼ似たような効果を示す農薬の種類があり、IRACグループ15, 16のベンゾイル尿素系とブプロフェジンの項目。(文献8)によるとほっとんど作用としては一緒で、抵抗性に関係するポイントも一緒のようなので分類する必要があるのかな、という気もしますが登録当時はそこまでサイエンスとして詳細がわかっていなかったのでしょう。ただこのキチン生成阻害薬というのは対象(カメムシか、ウンカか、ダニか等)によって効く効かないは大きく違うらしく、残効性等もセットにして考えるとそれぞれ個別のお薬であると考えた方がよさそうです。
で、これらの殺虫剤の使用方法もなかなか興味深く、上述した通りだいたい3手法、1個目が全身散布、2個目がポアオン法、そして3個目がイヤータグ法。
(文献4)から筆者が編集して引用
実際には正しく使わないと正しい効果が出ないので注意
全身散布はよく見る普通の方法で(ただし使用方法/使用時期/頻度についてはかなり厳密に決められている)、またポアオン法については以前の記事(こちら)で概要を述べたとおり、鼻筋~背骨付近に殺ダニ剤の液体を落として体全体に行き渡らせる方法です(注:薬剤のタイプによって背中に落としてから体内に吸収されないもの(直接塗らないと効かない/ピレスロイド系の大半)と吸収されるもの(血管からも効く/アベルメクチン系の大半)があるので注意・実際の農家さんの使用体験談がこちらに書かれており非常に参考になります)。なお最後のイヤータグは牛同士の習性(頭部付近をこすり合わせる)をうまく利用したもので、ダニだけでなくアブ・カにも効果があるとか。ずいぶん前から市販されているらしいのですが、これに関してはよくホームセンターで見るこの吊り下げタイプの殺虫剤が頭に浮かびます。もしかしたらこのイヤータグを参考にしたのかもしれませんね(注:体を擦り合わせるわけではないので効果のホドはよくわからんです)。
ただ最近ではこうした薬剤・手法を複合的に使わないと対処できないくらいダニが増えているケースもあるらしく、また使ったら使ったで益虫(糞を分解するハエや昆虫類)を一緒に処分してしまうという問題もあるとのこと。自然や生き物相手だとどうにも思うようにいかないということを改めて自覚する必要があると感じた次第で。
ではヒトはどうすればいいのか
・・・ということで家畜における殺ダニ剤と駆除方法はだいたいわかったんですが、当然ながらこれらは全部家畜用! SFTSVの家畜への伝搬抑制にはなりますが人間にとっての抑制には法律的にもなかなか使用は難しい。忌避剤は個人的な偏見からあんまり使っても効果が実感しにくいことを考えると、何とか上記の殺ダニ効果の高い材料を正しく安全に使いたい。しかし希釈しているとはいえ農薬の全身散布はもってのほかですしポアオン法はなんか危なそうですしまさかイヤータグを付けて人間同士で体をこすりつけるわけにはいかない。ではどうしようか。
(注:まずは日本ダニ学会誌より発行されたこちらの総説(マダニの総合的管理に関する現状がまとまった重要な内容)を必ずお読みください・下記はこの総説における一部分を紹介した形になります)
そこで筆者が真っ先に考えたのが保湿クリームのようなもん。つまり殺虫剤を乳液などと混ぜて衣類や肌に直接塗布しておけば、のこのこやってきたダニ連中を駆逐することが出来るというわけです。ということで探しましたが、実は日本で法的にそういった用途に承認されているものがありませんでした…違う用途で「スミスリンローション」というものはありましたが(下図)これは疥癬の原因 ヒゼンダニ相手に承認されている”医薬品”なので、さすがに一般用の日焼け止めクリームやシャンプーみたいには使うことは出来ない(というか処方箋が無いと入手できません)。
スミスリンローション(クラシエ薬品製造)
ピレスロイドの仲間のフェノトリンが入っているが
耐光性が高く残留しやすいほか、水生生物や益虫(ミツバチなど)への毒性が強い
ではどうするか。その後色々探して出てきたのが「ペルメトリンクリーム」。上述のように日本国内の野山のダニ類の多くはまだピレスロイド系をはじめとした殺虫剤に対する抵抗性を有しておらず(注:米国では殺虫剤を撒きすぎて抵抗性ダニが蔓延している地域がある)、中でもかなり強い効果を持つペルメトリンが混入されていますからクリームとの接触により大半が殺傷できるという有効性は予想できます。
ただしこのペルメトリンクリームは国外では承認・使用されているものの、国内では流通になく個人が利用するとしたら輸入するほかありません。色々調べていると、承認されないのはどうも皮膚炎を併発しやすいのが理由だそうですが…いずれにせよフェノトリン同様環境中の残留性が高く他の生物に影響がありますから素・・・一般の方々がやたらに使ってもらっても困るので、やっぱり最低限でも農薬レベルの管理体制が必要になる気がします。
海外で使用されているペルメトリンクリームの一例
Elimiteという名で1990年前後に既に商品化されていた
(現在はジェネリック化し商品名が変わっていることがほとんど)
FDAが使用を承認している(リンク)のは驚き
いずれにせよこうした物質類は農薬かつ劇物扱い、取り扱いを誤ると危険ですから十分に理解したうえでの使用が必要。とはいえ農業や狩猟業、林業を営まれている方々にはダニにやられるやられないはかなり差し迫った問題ですので、何とかこうしたプロをはじめとする方々に使用してもらえるようになるといいんですけどね。
ともかく日本国内に既にかなりのレベルで入り込んでいるSFTSウイルスを防ぐためには、出来るだけ効果の高い形で防げる武器が必要であり、使用が許可されているDEETなどの忌避剤や個人輸入レベルでしか得られないペルメトリンクリームだけではどうにも役不足。また殺虫剤を山中でばらまく愚行では他の虫や水生生物に多大な影響を与えてしまいますし、野焼きは火事のリスクが高いうえ土中に逃げたダニ類は抹殺できませんから、やっぱり血を吸いに来たやつらを肌に塗った適切量の高性能殺ダニクリームで徹底的に殲滅することが最も良い方法ではないでしょうか。個人的にはピレスロイド系とオキサゾリン系の合材とかが市販されれば一番いい(来て接触して殺傷+逃げ出せても脱皮できずに死亡)のですが…ともかく現時点で適切な薬剤が市販されていないのがどうしてかはちょっとわかりませんのとニーズが少ないため商売として厳しいのは予想できますが、SFTSが面倒で危険なウイルスであることを考えるとその危険性を抑える方法がもう少しあってもいいのにな、と思った次第です。
ただ、最後に改めて述べますが、こうした人為的な取り組みがダニの天敵へも悪影響を及ぼす可能性があることは言及しておかねばなりません。森林総合研究所 生物多様性・気候変動研究拠点の研究チームによって2018年にようやくその生態の一部が明らかになったオオヤドリカニムシという、ネズミと共生するケースのある節足動物がいるのですが、なんとそのメシの8割がマダニ(岡部女史によるダニとカニムシの生態の詳細を載せているこちらのエッセイ(?)は必読)。
同じ節足動物ですからもし肌に塗った殺ダニ剤に触れて苦悶しているマダニ等を食べてしまったらおそらく死んでしまうでしょうし、そのカニムシが生涯食べるダニの数が実はとんでもない数で…ということだって有り得る。なのでもし仮に上記のような薬品類の使用が法的に承認されたにしても、やっつけたダニ類をできるだけ付着回収(粘着性のクリームとかになってしまう気もしますが…)して自宅で処分する程度の節操は必要な気がします。
おわりに
以上、SFTSやマダニに関する現在の概要と研究情報などをまとめてみましたが、個人的にはかなり勉強になった次第です。昔テキトーにやっていた自由研究の、高齢者Restart、みたいなもんでしょうか。
なお本文では詳しく述べませんでしたがダニの農薬に対する抵抗性の問題についてちょっとだけ。
抵抗性のダニがどの程度世界で蔓延しているのか、ということですが(文献9)に詳しく、要旨としては下図のようになっています。
薬剤抵抗性オウシマダニ(Rhipicephalus microplus)の存在確認マップ
赤い色の国で存在が確認された (文献9)より引用
論文ベースでの調査結果かつ様々な薬剤に対する抵抗性の有無なので注意
& 実態はもっとひどい可能性が高い
米国がえらいことになっていると書きましたが、よく見てみるとそこまでひどくなく、メキシコ以南の南米の方がもっとひどいですね。あとはだいたい牧畜または宗教上の理由で保護活動がある地域で発生していると推定されます。中でもブラジル等では森林開拓→放牧→精肉→商売、という流れで稼いでいる方がかなりいるようで(ここ10年で輸出量が倍以上増えた)、たぶんそれに伴って牛やそれに関わる農薬の使用量が増える→耐性種が出る→殺せない→もっと使う→以下ループ、という形になってしまってるのではないでしょうか。ためしにブラジルのドメイン.brでどの程度のダニ被害が起きてるかちょっと調べましたが恐ろしくてそっと閉じました。
また、こうしたことが起きているということは上記の地域でかなりの量の農薬が使用されているということ。これについて世界で初めて全世界横断的に残留農薬の懸念を農作物に絞って(除草剤+殺虫剤+殺菌剤/畜産用農薬除いているようです)リスクをマップ化したのが(文献10)。牛とか豚を育てるにはだいたい穀物や牧草がついて回るし、それに関連して殺虫剤を大規模に使うはずで抵抗性ともリンクしていると仮定するとそれなりに上記との一致性は見いだせるのではないでしょうか。
(文献10)より引用 RSは散布量と残留性を加味したモデル試算によって
はじき出した指標数値で高ければ高いほど残留リスクが
極北とか砂漠以外ほぼ全部何らかの残留リスクがあるということになる
これの結果を見るとこりゃまぁ抵抗性のダニも南京虫も出るわいな、と納得ですね。農薬の使用には正しいガイダンスと知識と配慮がセットになって初めて安全に使えるわけですが、失礼を承知で言うと世界中の農家の方々全員が全員そうではないということは容易に想像できるかと思います。分量だったり散布頻度だったり種類だったり、法制も国ごとで違いますし全部がコントロール出来るわけがない。となるとダニのような多産で変異性の高い節足動物はあっという間に耐性を獲得してそれをどんどん引き継いで強化していくことになるわけです。SFTSウイルスを抱えたスーパー吸血ダニの世界的蔓延とか、もうそこらへんに迫っていると考えてもいいのではないでしょうか。いたちごっこなので防戦一方になってしまうことはこれまでの歴史から予想できるので、人間に残された対策は物理的手段くらいしかないのではないかと暗澹たる気分になっているのが正直なところです。
まぁこういう話題で暗くなってばかりでは面白くないので、老若男女問わず、なんとか迷惑なダニ連中をやっつけるいい方法を引き続き調べながら考えていっていただきたいと思う次第です。今のところ掃除機とかテープとか、ゴキブリ対応レベルのことしか考えつかないのが筆者の思考の限界を示しているので情けない話ですが。
それでは今回はこんなところで。
【参考文献】
1. “ハダニ類防除技術の最近の動向と薬剤抵抗性管理” 日本曹達 農業新時代, 第1号, (2020), リンク
2. “放牧活用型畜産に関する情報交換会 2014”, 農研機構 動物衛⽣研究所 寺⽥ 裕, 2014年11月5日, リンク
3. “ダニ類成長阻害剤(MGI)ヘキシチアゾクス,クロフェンテジン,エトキサゾール”, 日本曹達株式会社, 植物防疫 第73 巻第 1 号(2019年)リンク
4. “ペルダック製品概要”, 住化エンバイロメンタルサイエンス, リンク
5. “殺ダニ剤エトキサゾールの開発-抵抗性との格闘の記録”, 植物防疫第69巻 第12号 (2015 年), リンク
6. “Population bulk segregant mapping uncovers resistance mutations and the mode of action of a chitin synthesis inhibitor in arthropods”, PNAS March 20, 2012 vol. 109 no. 12 4407–4412, リンク
7. “ナミハダニのエトキサゾール抵抗性と診断法” 刑部正博, 植物防疫 第73巻第6号(2019年), リンク
8. “キチン合成阻害剤タイプ0(BPU)―ベンゾイル尿素系―”, 石原産業, 植物防疫 第72巻第5号(2018年), リンク
9. “Strategies for the control of Rhipicephalus microplus ticks in a world of conventional acaricide and macrocyclic lactone resistance”, Parasitol Res (2018) 117:3–29, リンク
10. “Risk of pesticide pollution at the global scale”, Nature Geoscience volume 14, pages 206–210 (2021), リンク