[スポンサーリンク]

一般的な話題

有機合成化学協会誌2023年8月号:フェノール-カルベン不斉配位子・カチオン性ヨウ素反応剤・水・アルコール求核剤・核酸反応場・光応答型不斉触媒

[スポンサーリンク]

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2023年8月号がオンライン公開されています。

まだまだ暑いですが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。もうすぐ学会シーズンですね。

有機合成化学協会誌は今月号も充実の内容です。

キーワードは、「フェノール-カルベン不斉配位子・カチオン性ヨウ素反応剤・水・アルコール求核剤・核酸反応場・光応答型不斉触媒です。

今回も、会員の方ならばそれぞれの画像をクリックすればJ-STAGEを通してすべてを閲覧することが可能です。

巻頭言:分子が化学者を育てる

今月号の巻頭言は、工学院大学先進工学部生命化学科南雲紳史 教授による寄稿記事です。
非常に首肯の内容でした。筆者も、分子にここまで育てられたと思っています。ひとつひとつの分子と向き合うことの重要さを教えてもらえます。
オープンアクセスですのでぜひ。

フェノール-カルベン不斉配位子とエナンチオ選択的銅触媒反応の開発

澤村正也

2018年度有機合成化学協会賞(技術的なもの)受賞

*北海道大学大学院理学研究院化学部門・WPI-ICReDD

 フェノール-カルベン不斉配位子の開発から不斉銅触媒反応への展開までの一連の経緯があますことなく紹介されています。新規配位子の着想から様々な反応開発につなげていくお手本のような内容となっています。分子触媒・反応開発といった分野の研究者や、それを目指している学生にとって参考になる総合論文です。

一価のカチオン性ヨウ素反応剤を用いるアルキンの求電子的環化反応

沖津貴志

富山大学学術研究部薬学・和漢系

 本論文は,著者らが開発してきた一価のカチオン性ヨウ素反応剤によるアルキンの求電子的活性化を鍵とする様々な分子内環化反応についてまとめたものです。ヨウ素反応剤の種類やアルキンの置換基を選ぶことで,化学選択性や位置選択性の巧みな制御や,難しい中員環の合成などが達成されています。普段なかなか目にすることのない「3秒以内に完結する」反応が満載です。

水やアルコールを求核剤として用いるエステル基の触媒的不斉変換反応

山本 英治1*、蒲池高志2徳永 信1*

1*九州大学大学院理学研究院化学部門

2福岡工業大学工学部生命環境化学科

 人工分子触媒を用いたエステル類の不斉加水分解はこれまで達成困難とされてきたが、著者らはキラルな相間移動触媒を用いてそれを見事に達成した。本反応は動的速度論分割型で進行することで、高収率、高立体選択性で生成物を与える。今後様々な場面での利用が期待される。また、反応機構や遷移状態の解析に用いた計算化学的手法もユニークであり、大変興味深い。

核酸反応場を利用した特殊核酸構造体の創製

鬼塚和光

東北大学多元物質科学研究所

 著者らは核酸の二本鎖形成により生じる反応場を巧みに利用し、特徴的な分子構造体(擬ロタキサン、カテナン、塩基フリップアウト架橋体)の構築に成功しています。近年、このような分子構造がもつ特異な性質・利用方法が明らかになりつつあり、著者らの合成した化合物が、核酸化学に新たな研究分野を生み出す期待が高まります。

アゾベンゼンを基盤とする光応答型不斉触媒の開発

近藤 健1*中村顕斗2、笹井宏明2、滝澤 忍2

1*茨城大学大学院理工学研究科

2大阪大学産業科学研究所

本論文は、筆者らが開発しているアゾベンゼンを光スイッチユニットとする有機分子触媒や不斉配位子を紹介しています。また、これらの触媒を用いた不斉反応の反応性や選択性の光制御についても述べています。不斉合成の研究者だけでなく、超分子化学や材料化学の研究者にも興味をもっていただけると嬉しいです。

Review de Debut

今月号のReview de Debutは1件です。オープンアクセスですのでぜひ。

光照射による触媒的脱ラセミ化反応 (千葉大学国際高等研究基幹)栗原崇人

感動の瞬間:有機超強塩基の可能性に魅力を感じて

今月号の感動の瞬間は、東北大学名誉教授 根東義則 教授による寄稿記事です。
根東先生の展開してきた化学を一望することができます。ぜひご覧ください。

これまでの紹介記事は有機合成化学協会誌 紹介記事シリーズを参照してください。

関連書籍

[amazonjs asin=”4759819320″ locale=”JP” title=”企業研究者たちの感動の瞬間: モノづくりに賭ける夢と情熱”] [amazonjs asin=”4759810803″ locale=”JP” title=”化学者たちの感動の瞬間―興奮に満ちた51の発見物語”]

Avatar photo

めぐ

投稿者の記事一覧

博士(理学)。大学教員。娘の育児に奮闘しつつも、分子の世界に思いを馳せる日々。

関連記事

  1. 【日産化学 26卒】 【7/10(水)開催】START your…
  2. 機械学習は、論文の流行をとらえているだけかもしれない:鈴木ー宮浦…
  3. 高機能・高性能シリコーン材料創製の鍵となるシロキサン結合のワンポ…
  4. 徒然なるままにセンター試験を解いてみた(2018年版)
  5. MI×データ科学|オンライン|コース
  6. 触媒量の金属錯体でリビング開環メタセシス重合を操る
  7. DNAに人工塩基対を組み入れる
  8. 『Ph.D.』の起源をちょっと調べてみました① 概要編

注目情報

ピックアップ記事

  1. 1,3-双極子付加環化反応 1,3-Dipolar Cycloaddition
  2. 相良剛光 SAGARA Yoshimitsu
  3. フラストレイティド・ルイスペア Frustrated Lewis Pair
  4. ウイルスーChemical Times 特集より
  5. 木材を簡便に透明化させる技術が開発される
  6. 有機合成化学協会誌2021年5月号:『有機合成のブレークスルー』合成反応の選択性制御によるブレークスルー
  7. ライセルト インドール合成 Reissert Indole Synthesis
  8. 高難度分子変換、光学活性α-アミノカルボニル化合物の直接合成法
  9. 原野 幸治 Koji Harano
  10. 大分の高校生が特許を取得!

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2023年8月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031  

注目情報

最新記事

第18回 Student Grant Award 募集のご案内

公益社団法人 新化学技術推進協会 グリーン・サステイナブルケミストリーネットワーク会議(略称:JAC…

杉安和憲 SUGIYASU Kazunori

杉安和憲(SUGIYASU Kazunori, 1977年10月4日〜)は、超分…

化学コミュニケーション賞2024、候補者募集中!

化学コミュニケーション賞は、日本化学連合が2011年に設立した賞です。「化学・化学技術」に対する社会…

相良剛光 SAGARA Yoshimitsu

相良剛光(Yoshimitsu Sagara, 1981年-)は、光機能性超分子…

光化学と私たちの生活そして未来技術へ

はじめに光化学は、エネルギー的に安定な基底状態から不安定な光励起状態への光吸収か…

「可視光アンテナ配位子」でサマリウム還元剤を触媒化

第626回のスポットライトリサーチは、千葉大学国際高等研究基幹・大学院薬学研究院(根本研究室)・栗原…

平井健二 HIRAI Kenji

平井 健二(ひらい けんじ)は、日本の化学者である。専門は、材料化学、光科学。2017年より…

Cu(I) の構造制御による π 逆供与の調節【低圧室温水素貯蔵への一歩】

2024年 Long らは、金属有機構造体中の配位不飽和な三配位銅(I)イオンの幾何構造を系統的に調…

可視光活性な分子内Frustrated Lewis Pairを鍵中間体とする多機能ボリルチオフェノール触媒の開発

第 625 回のスポットライトリサーチは、名古屋大学大学院 工学研究科 有機・高…

3つのラジカルを自由自在!アルケンのアリール-アルキル化反応

アルケンの位置選択的なアリール-アルキル化反応が報告された。ラジカルソーティングを用いた三種類のラジ…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP