オンライン会議は、離れた相手と気軽にコミュニケーションをとることができるため、コロナ禍がひと段落した今でも多用されています。そんな、オンライン会議で必要なヘッドセットやスピーカーといったオーディオ機器について使い勝手を比較してみました。
はじめに
コロナ対策がひと段落し、現在では多くの人が集まる会議や学会は対面で実施されるようになりました。しかし、ZOOMやTeamsといったオンライン会議のツールが発展したため、国や地域が異なる相手と気軽に話すことができるようになり、依然としてオンライン会議には参加する機会はそれなりにあると思います。
オンライン会議を行う最も大きな目的は声で相手とコミュニケーションをとることであり、相手の声が聞き取りづらいと内容が理解できず、聞き返すことが多くなったり聞き流してしまったりと、せっかくの時間を無駄にしてしまいます。英語であれば、なおさら音質の影響が顕著に出てしまいます。
音質を左右するのは主にインターネット回線とオーディオ機器であり、前者は回線速度が遅いと送受信できるデータの容量が少なくなってしまうため音質は悪くなります。ビデオをオフにするなどで音質を改善することはできますが、自宅以外の場所において回線速度自体を改善することは難しいのが現状です。一方、後者のオーディオ機器に関しては、ヘッドセットやスピーカーなどいろいろな種類があり、最近の機器にはノイズを低減するノイズキャンセリングや音声をクリアにする機能が搭載されています。そこで、本記事ではオーディオ機器で音声の聞き取りやすさに差が出るのか比較しました。
使用機器
今回、6種類のオーディオ機器で比較しました。
1.有線ヘッドセット(ヘッドセット)
マイク付きの有線ヘッドセットです。数年前に3000円ほどで購入したものですが、今でも現役です。有線なのでバッテリー切れの心配はないですが、重いので長時間のオンライン会議には不向きです。
2.Bluetoothイヤホン(無線イヤホン)
電車で音楽を聴く用途で購入しましたが、無線接続で音もクリアに聞こえるのでオンライン会議にも使っています。バッテリーの持ちが悪く2時間以上は使えないのが欠点です。
3.ノートPC内蔵オーディオ(PC内蔵)
現在の多くのノートPCにはスピーカーとマイク、ビデオが内蔵されており、外部機器無しでもオンライン会議に参加することができます。オーディオ機器として体に身につけるものは無くバッテリー残量も気にする必要は無いので、利便性は高いと言えます。ただしノートPCのオーディオ機器は簡易的とのイメージがあり、どれ程の性能なのか気になるところです。今回は、MacBook Airでテストしました。
4.Bluetoothスピーカー(無線スピーカー)
こちらも音楽を聴く目的で購入しました。音量が大きくなるので大きな部屋で使用するのに便利です。バッテリー容量も大きく無線接続ながら一日中使えます。マイク機能もありますがスピーカーがメインの機器であり、その性能は未知数です。
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オンライン会議向けのヘッドセットです。BluetoothとUSBアダプタ両方に対応し、ノイズキャンセリング・ノイズリダクション機能搭載、最大24時間の通話が可能、持ち運び用のポーチ付属と高機能ですが、価格は1万3千円程で通話用のヘッドセットとしては高価な機器です。
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6.会議用 Bluetoothスピーカーフォン(会議用スピーカー)
オンライン会議向けのスピーカーです。全方位から集音できるのが特徴で、会議室の中央に置き、4,5人で囲んで使用できます。エコーキャンセリングや残響抑制、ノイズリダクション機能を搭載、最大24時間の通話が可能、持ち運び用のポーチ付属などとヘッドセット同様に高機能な機種と言えます。価格は1万4千円程でした。
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比較方法ですが定量的な結果が知りたかったので、Googleの文字起こし機能を利用しました。具体的には、各オーディオ機器にiPhoneを近づけて集音し、Googleの音声認識で流れてきた音声を文字に書き起こしました。題材としては、TOEICの問題集リスニング試験パート4・社員へのアナウンスを使用しました。音声は、問題集そのものだけでなく、悪条件をシミュレートするために音声編集ソフトで劣化させた音源も使用しました。下記がその音声の印象です。
- オリジナル:クリアな音声
- Telephone:一昔前のテレビドラマでの電話通話のシーンに近い音質
- AMラジオ:Telephoneとほぼ同等だが、より音がこもっている印象
- トランシーバー:かなり音がこもっていて単語の聞き取りが難しい
- 32 kbps:ビットレートを32 kbpsまで低下させた音源、ノイズが大きい
音声ファイルの加工方法
またマイク機能も評価しました。具体的には、iPhoneからYoutubeを流し、それを各機器のマイクで集音しPCで録音します。その録音データをマイクと同じ機器で再生し上記同様に文字起こしを行いました。題材は、2022年ノーベル化学賞を受賞したキャロライン・ベルトッツィ教授のNobel Prize lectureです。7:00から一分間を1.25倍速で再生させました。
使用した音源
起こした文字は、正しい文章と比較し正しい単語で文字起こしがなされているか正答率を算出しました。結果によっては、起こされた文字が少なかった結果もあり、単語数が半分以下では一律正答率0%としました。その上で、二次的な評価として文字起こしされた単語数の割合を意味する文字起こし率を算出しました。
結果
まず平均正答率ですが、有線ヘッドセットと無線スピーカーがほぼ同じ結果で最も高い正答率を示しました。次に良い結果だったのが無線ヘッドセットで、次に会議用スピーカーと無線イヤホンが同等で、最も低い結果になったのはPC内蔵スピーカーでした。平均文字起こし率も同様の傾向でした。
各音源での差を見ていくと、オリジナル音源ではどのオーディオも同じ結果となりました。最もシビアな音源だったのはトランシーバーで、優先ヘッドセットと無線スピーカーのみ正答率を算出できました。優先ヘッドセットと無線スピーカーの傾向はほぼ同じ結果ですが、32 kbpsで差が出ました。こちらに関しては後述します。PC内蔵はオリジナルとAMラジオのみ正答率を算出となりました。無線イヤホンの場合、低音質なトランシーバーと32 kbpsはほとんど音声認識が働きませんでした。
上記の結果を見ると、PC内蔵では音質が悪いと全く聞こえなかったように見えますが、実際に聞いたところそんなことはなく、全く単語が聞き取れない条件はありませんでした。以下に各オーディオ機器を使って自分の耳で聞いた感触を示します。
- ヘッドセット:概ねクリアに聞こえる。音質が悪くなっても大体は聞き取れるが、細かい単語は聞き取れない。
- 無線イヤホン:音は小さいが、実際に耳で聞くとしっかりと聞こえる。トランシーバーは、音のこもりが強い。32kbpsはノイズが耳に響く。
- PC内蔵:聞こえた割には音声認識が働かなかった。AMラジオで音のこもりが強いように感じた。
- 無線スピーカー:AMでだいぶこもった音の印象、トランシーバーは音声認識で後の修正が多くかかった気がする。32kbpsは低音が強調されて聴きやすかった。
- 無線ヘッドセット:AMラジオがだいぶ聴きやすく、デフォルトとほぼ同じように聞こえた。逆にトランシーバーは音のこもりが強く聴きにくい。強いノイズキャンセリング効果を感じた。
- 会議用スピーカー:AMラジオがだいぶ聴きやすく、デフォルトとほぼ同じように聞こえた。32kbpsは、スピーカーのような効果はなかった。Telephoneは特に他と差はなかったが、音声認識が効かなかった。
イヤホンは、耳にかけて使用するものであり、iPhoneでの集音では十分な音量を確保できず、良い結果にはならなかったのかもしれません。無線ヘッドセットの場合、ノイズキャンセリングが強みのようで、騒々しいところではより大きな効果を発揮する可能性があります。
次にマイクの性能ですが、音声認識を行ったところどの機器も正答率を算出できるほど文字起こしができませんでした。最も良い結果を示したヘッドセットで半分くらい文字に起こされたようです。1.25倍速でも、もちろん全く聞き取れないわけではなく下記がマイクで録音した音を聞いた感触です。
- ヘッドセット:オリジナルに近い感じ。
- 無線イヤホン:低音が無く、ライトな感じ。
- PC内蔵:音量が低くボリュームを大きくする必要あり。ゴーという音が聞こえるが、低音もよく聞こえる。
- 無線スピーカー:だいぶ音量が低い。バックグラウンドノイズも大きいが音声は聞こえる。
- 無線ヘッドセット:よく聞こえる。
- 会議用スピーカー:高音がキンキンする感じがあるが、よく聞こえる。
確かにヘッドセットの音質が高いことは耳でも確認できましたが、PC内蔵と無線スピーカー以外では、大きな差は無く英語での会議でも十分に使えると思います。iPhoneの音量にも限界はあり、PC内蔵を使う場合は少し大きな声でしゃべると相手に良く聞こえるのかもしれません。無線スピーカーは、音楽スピーカーとしての仕様を想定しており、マイクはおまけ程度の機能かもしれません。
総合評価
上記の結果を踏まえて筆者の評価をまとめました。
ヘッドセットが性能面では最も優れたスコアになりましたがこれは有線だからというわけではなく、低価格ながらゲーミングヘッドセットとしているため、そこそこのドライバーユニットが使われているからだと考えられます。その分、本体は大きく重いため長時間の使用で耳が痛くなり、また持ち歩くには大きすぎるサイズとなっています。意外な性能だったのが無線スピーカーで、音楽を流すのに適しているからか、低音が強く聞き取りやすい場面もありました。ただ、音楽鑑賞用からかマイク性能には難がありました。発言する機会が無いタイプの会議・セミナーではこの無線スピーカーは有用かもしれません。無線ヘッドセットと会議用スピーカーには期待していましたが、音声認識では有線のヘッドセットに軍配が上がりました。今回は検証しなかったノイズキャンセリングやノイズリダクションで本領を発揮するのかもしれません。PC内蔵は、この6つの中では最低評価でしたが、だからといって全く使えないわけではなく、自分の期待以上の音質でした。
もちろん今回使用した製品はそれぞれのタイプの一例であり、他の製品では全く異なる性能であることも十分に考えられます。自分のWeb会議の頻度、タイプに応じてオーディオ機器を選んでみてはいかがでしょうか。