有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2023年7月号がオンライン公開されています。
あっというまに7月ですね。有機合成化学協会誌を読んで研究の加速をはかりたいものです。
有機合成化学協会誌は今月号も充実の内容です。
キーワードは、「ジボロン酸無水物触媒・E-E (E = Si, Ge, Sn)結合・擬複合糖質・官能基複合型有機分子触媒・植物概日時計制御分子」です。
今回も、会員の方ならばそれぞれの画像をクリックすればJ-STAGEを通してすべてを閲覧することが可能です。
巻頭言:異分野融合と天地人
今月の巻頭言は、新潟大学名誉教授の長谷川英悦先生による寄稿記事です。なぜ天池人なのか?ということが、記事を読むとよくわかります。必見です。
ジボロン酸無水物触媒による脱水縮合アミド化反応の開発
アミド結合は様々な有用分子に含まれる普遍的な結合です。近年、環境調和性の観点から縮合剤を用いず、水だけを共生成物とするアミド化反応が脚光を浴びており、すぐれた触媒の開発研究が盛んに行われています。本稿では、これまでに提唱された反応中間体をもとにデザインされた新規ジボロン酸無水物触媒を用いる、b-ヒドロキシカルボン酸の高効率的なアミド化反応が達成されていますので、是非、ご覧ください。
E-E (E = Si, Ge, Sn)結合への挿入を鍵とする錯体・クラスター合成と機能開拓
本総合論文では、Si、Ge、Snなどの高周期14族元素(E)のE-E結合と各種金属錯体の反応を利用した一連のクラスター錯体合成について解説されています。確立された合成法がない中で、金属錯体のE-E結合への挿入反応をうまく利用することで、高次のクラスターが効率的に合成できることを紹介されています。また、合成困難さから十分でなかった反応性についても一部紹介され、最新のクラスター化学の研究の知見が得られる論文です。
擬複合糖質研究:炭素連結型ガングリオシドGM3アナログの開発
複合糖質の合成研究の新たな方向性を示した論文。O-グリコシド結合をC-グリコシド結合に置き換えることで、多彩な複合糖質の化学が大きく広がることが緻密に書かれています。
計算化学的手法を活用したグアニジンおよびウレア基を有する官能基複合型有機分子触媒による不斉酸化反応の開発
*東京農工大学大学院工学研究院
立教大学大学院理学研究科
グアニジンとウレア基を有する有機分子触媒による不斉酸化に関し、実験化学と計算化学の両輪で触媒的不斉酸化反応を切り開く。実験と理論が融合すると化学が如何に魅力的になるかが示されています。
植物概日時計制御分子の開発
1*早稲田大学理工学術院先進理工学研究科応用化学専攻
2*名古屋大学大学院生命農学研究科
体内時計は様々なシグナル分子によって制御されていると言われていますが、その時計システムを制御する小分子化合物が存在することはご存知でしょうか?早稲田大学 山口潤一郎先生らによる、植物の概日時計制御分子の開発から作用機序の解明まで詳細に解説された、必読の一報です。
Review de Debut
今月のReview de Debutは1件です。オープンアクセスですのでぜひ。
トンネル効果支配: 速度論および熱力学支配に次ぐ第三の反応性パラダイム (長崎大学大学院水産・環境科学総合研究科)西依隆一
Message from Young Principal Researcher (MyPR):環境ストレス応答有機小分子のための分子設計、化学合成と生物活性
今月号のMyPRは、九州大学大学院農学研究院 有澤美枝子 教授による寄稿記事です。有澤先生のご経験とこれまでの研究、現在の研究への繋がり方は多くの読者の参考になるのではないかと思いました。みなさん必読です。
感動の瞬間:発見の魅力に導かれて研究の深淵に触れる
今月号の感動の瞬間は、千葉大学大学院工学研究院 坂本昌巳 名誉教授による寄稿記事です。記事にもありましたが、私自身も学生時代に感動の瞬間を得たことによって、いまがあります。一緒に研究している学生さんたちになんとか感動の瞬間を味わってほしく、裏方ながら奮闘しています。
これまでの紹介記事は有機合成化学協会誌 紹介記事シリーズを参照してください。