ロジウム触媒を用いたアルキルベンゼンと電子不足オレフィンの全炭素(3+2)環化付加反応が開発された。様々な天然物に含まれるジヒドロインデン骨格を簡便かつ高い原子効率で構築できる。
アルキルベンゼンの(3+2)環化付加反応
(3+2)環化付加反応は、1,3-双極子と不飽和結合から高度に官能基化された五員環を構築できる強力な手法である(図1A)[1]。ところが、これまで報告されてきた1,3-双極子はほとんどがヘテロ原子を有しており、全炭素1,3-双極子を用いた例は少ない。一方で遷移金属触媒は、四員環メタラサイクルや金属カルベノイドなどの特異な全炭素双極子やその等価体を生成できる[2]。特にh3配位により生じたトリメチレンメタン錯体は、1,3-双極子として(3+2)環化付加反応を起こす。その代表例として、Trostらが開発したパラジウム触媒を用いたトリメチレンメタンの環化付加反応が知られる(図1B)[3]。本反応では、π-アリルパラジウム錯体の正電荷が脱シリル化により生じた負電荷を安定化する。
以前筆者らは、Rh(III)触媒のh6配位によりアルキルベンゼンのベンジル位が脱プロトン化し、生じたh5-メチレンシクロヘキサジエニル種が電子不足オレフィンに求核付加することを見いだした[4]。一方Cp*Ir錯体にh4配位したo-キノンメチドはN-メチルマレイミドと(3+2)環化付加することが知られており、通常求電子的な3位がh4配位によって求核的な反応性を示す(図1C)[5]。しかし、Rh錯体では同様な反応は進行していない。今回著者らは、配位子の変更によりh5-メチレンシクロヘキサジエニル種が求核剤でなく1,3-双極子として振る舞うことを期待した。実際、適切な配位子をもつRh錯体を用いることでアルキルベンゼンと電子不足オレフィンとの(3+2)環化付加を達成した(図1D)。
“Catalytic Dehydrogenative (3+2) Cycloaddition of Alkylbenzenes via π-Coordination”
Wu, W.-Q.; Lin, Y.; Li, Y.; Shi, H. J. Am. Chem. Soc.2023, 145, 9464–9470.
DOI: 10.1021/jacs.3c02900
論文著者の紹介
研究者:Hang Shi (石 航) (研究室HP)
研究者の経歴:
–2008 B.Sc., Hunan University, China
2008–2013 Ph.D., Peking University, China (Prof. Zhen Yang)
2013–2015 Postdoc, Harvard University, USA (Prof. Tobias Ritter)
2015–2018 Postdoc, The Scripps Research Institute, USA (Prof. Jin-Quan Yu)
2018–2023 Assistant Professor, Westlake University, China
2023– Associate Professor, Westlake University, China
研究内容:h6配位による芳香環の触媒的官能基化、不斉金属触媒を用いたアミン合成、機能性分子の合成
論文の概要
2,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル基が置換したCp*を配位子にもつロジウム触媒存在下、HFIP中、AgBF4を添加すると、120 °Cでアルキルベンゼン1と1,1-ビス(フェニルスルホニル)エチレン(2)から環化体3が良好な収率で得られた(図2A)。本反応は多様な官能基を有するアルキルベンゼン1a–1eに適用でき、対応する環化体3a–3eを中程度から高い収率で与えた。また2-ナフチル基をもつ1fでは、ベンゼン環側で選択的に環化し二環式化合物3fを与える。さらに4級炭素の構築も可能で、スピロ環化体3hやジアリール3iが得られた。
次に、Cp*Rh錯体に配位したh5-メチレンシクロヘキサジエニル種が1,3-双極子としての性質をもつか確かめるため、電荷密度と分子軌道を計算した(図2B)。その結果、ベンジル位とオルト位は負に帯電しており、イプソ位は正の電荷をもつことがわかった。また、HOMOは主にベンジル位に分布している一方で、LUMOの一部はオルト位に局在化していた。これらの性質は代表的な1,3-双極子であるジアゾメタンに酷似している。
また、反応経路をDFT計算により解析した(図2C)。まず、脱プロトン化により生じたh5-メチレンシクロヘキサジエニル-Rh錯体Int1に対し、2が段階的に付加し、h5-メチレンシクロヘキサジエニル錯体Int3を形成する。続く再芳香族化において、Int3からのヒドリド移動は活性化エネルギーが非常に大きく、h3錯体Int4を経由することが示唆された。アゴスティック相互作用によるInt4の安定化が、ヒドリド移動の鍵であった。そして、TS4を経て再芳香族化し環化体3が得られる。
以上、アルキルベンゼンを1,3-双極子として用いた全炭素(3+2)環化付加反応が開発された。得られた環化体は様々なインデン誘導体へと変換でき、本反応の天然物合成への応用が期待される。
参考文献
- (a) Gothelf, K. V.; Jørgensen, K. A. Asymmetric 1,3-Dipolar Cycloaddition Reactions.Chem. Rev. 1998, 98, 863–910. DOI: 10.1021/cr970324e (b) Wang, Z.; Liu, J. All-Carbon (3+2) Cycloaddition in Natural Product Synthesis. Beilstein J. Org. Chem. 2020, 16, 3015–3031. DOI: 10.3762/bjoc.16.251
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