有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2023年6月号がオンライン公開されています。
早くも梅雨入りし、ジメジメする毎日ですが有機合成化学協会誌を読んでリラックスしましょう!
有機合成化学協会誌は今月号も充実の内容です。
キーワードは、「環状ペプチド天然物・フロキサン分子・分子内パラジウム触媒移動機構・C(sp3)–H結合官能基化型環化反応・一置換アセチレン類」です。
今回も、会員の方ならばそれぞれの画像をクリックすればJ-STAGEを通してすべてを閲覧することが可能です。
巻頭言:コロナ禍で手にした働き方改革
今月号の巻頭言は、早稲田大学理工学術院 鹿又 宣弘 教授による寄稿記事です。筆者もですし、読者の誰もが働き方改革、研究の仕方改革を行なってきた3年間だったと思います。今一度、得られたものや失ったものを考えてみようと思いました。
環状ペプチド天然物Asperterrestide Aの全合成と構造訂正
*2019年度有機合成化学協会企業冠賞 シオノギ・低分子創薬化学賞
*東北大学大学院薬学研究科
環状ペプチド天然物の立体配置が2ヶ所間違っていたら? Asperterrestide Aの全合成に始まり、それに伴う構造訂正や計算科学による3次元構造の考察、13C NMRスペクトルの予測、そして類縁体も含めた生物活性評価と、有機化学を架け橋とする幅広い内容の総合論文となっております。
フロキサン環への置換基導入反応の開発と光に応答して一酸化窒素を放出するフロキサン分子の創製
*神戸大学大学院理学研究科化学専攻
フロキサン合成法の発展とNO源としての利用での新展開に関する総合論文です。「フロキサン」という面白い構造の複素環化合物について、魅力的な性質が紹介されています。置換基導入に関する著者らの奮闘記は、複素環化学に偏在する課題への取り組み方も学べる内容です。さらに、フロキサン骨格を壊す変換との組み合わせは、多官能基化した広範な分子の合成法としても魅力的です。
分子内パラジウム触媒移動機構を利用した非等モル下での右田–小杉-Stilleカップリング重縮合
*山形大学大学院有機材料システム研究科
2成分重縮合で重合度の高い高分子を得るには、2つのモノマーを正確に等モル量用いることが基本です。一方、分子内金属触媒移動機構を経るクロスカップリング重縮合では、等モルでなくても高分子量体が得られる場合があります。本総合論文では、パラジウム触媒による右田‐小杉‐Stilleカップリング重縮合を用いた著者の研究を中心に、このホットな話題がまとめられています。是非、ご一読ください。
分子内の酸化還元を介するC(sp3)–H結合官能基化型環化反応
1*東京農工大学工学部応用化学科
2学習院大学理学部化学科
本論文で紹介されているヒドリド転位から始まる多様な分子変換は,著者の言葉をそのまま使わせて頂くと「やや(かなり?)マニアック」かもしれませんが,基質設計の緻密さと反応機構に関する丁寧な議論,そして著者らの反応開発への情熱を味わうことのできる総合論文です。学生の皆さんは是非,本論文に書かれた反応機構を自分で紙に書いてみて下さい。
高分子末端の構造を自由に設計できる一置換アセチレン類の精密重合法の開発
*金沢大学ナノ生命科学研究所
本総合論文では、アリールロジウム(I)種が二分子および三分子のジフェニルアセチレンと連続的に反応することによって生成したロジウム(I)錯体が重合開始剤であることを見出し、さらに一置換アセチレン類を作用させることにより、ポリマーの末端構造を自由に設計でき、かつ狭い分子量分布を保った置換ポリアセチレン類の精密重合に成功している。その研究に至った経緯や、反応機構の解明を行うことで、基質適用範囲の拡大について述べられている。
Review de Debut
今月号のReview de Debutは1件です。オープンアクセスですのでぜひ。
・3次元に共役する大環状分子の芳香族性 (東京大学大学院理学系研究科)福永隼也
ラウンジ:Lectureship Award MBLA 2019, 2020受賞講演ツアーを終えて
今月号のラウンジは、大阪大学大学院工学研究科 平野 康次 教授、名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所 大松 亨介 准教授による寄稿記事です。今回のLectureship Award MBLAは2019年と2020年の受賞者である両先生が一緒に行かれたということで、ラウンジも非常に貴重な記事となっています!ぜひご覧ください!
今月号は、東北大学大学院薬学研究科 岩渕 好治 教授による寄稿記事です。研究を始めたばかりのみなさんも、AZADOという分子の名前を一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。研究を冒険と呼び、辛くも楽しい冒険を送ってきた岩渕教授の言葉に打たれます。
これまでの紹介記事は有機合成化学協会誌 紹介記事シリーズを参照してください。