有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2023年5月号がオンライン公開されています。
研究者のみなさまには五月病という言葉はないですよね。みなさま連休明け、いかがお過ごしでしょうか。
今月号の有機合成化学協会誌は、特集号「日本の誇るハロゲン資源: ハロゲンの反応と機能」です!
今回も、会員の方ならばそれぞれの画像をクリックすればJ-STAGEを通してすべてを閲覧することが可能です。
巻頭言:ハロゲン研究のさらなる飛躍を
今月号の巻頭言は、立命館大学上席研究員、大阪大学名誉教授・招聘教授の北 泰行 先生による寄稿記事です。日本がハロゲン大国であることを知らない大学院生も多いかもしれないと思いました。自身も大学講義で話したいと思いました。必読です。
三価の超原子価有機臭素および塩素化合物の合成、構造およびその反応
宮本和範1*、内山真伸1,2*、落合正仁3
1*東京大学大学院薬学系研究科
2*信州大学先鋭材料研究所
3徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部
超原子価塩素・臭素の化学が70年の眠りから、今目覚める!1952年の初めての合成から、その高反応性ゆえに研究が立ち後れていた超原子価塩素・臭素化合物について、その歴史的背景から通常は困難なアリール化反応など驚くべき化学特性を明らかにした最新の研究成果を知ることができます。研究における“温故知新”の好例として、学ぶべき点の多い総説です。
直線的分子連結を実現するテトラフルオロスルファニル化合物群:合成と開拓
*名古屋工業大学大学院工学研究科
本総説は、テトラフルオロスルファニル結合(-SF4-)を有する有機化合物の構造化学的な特徴や合成の歴史に加え、著者らが近年精力的に展開されているピリジン-SF4-クロリドやピリジン-SF4-アルキンを合成素子とする一連の分子変換反応を含む最新の研究状況が簡潔にまとめられており、新たな機能や生理活性の発現が期待されるSF4結合分子のすべてが分かります。是非、ご一読下さい。
OやNと手を繋いだハロゲン種を駆使する実用的有機合成法の開発
*大阪大学大学院工学研究科応用化学専攻
筆者らの研究室では、酸素原子あるいは窒素原子と、ハロゲン原子が結合した求電子的なハロゲン種を用いた反応を長きにわたり開発されてきました。2003年と2009年にも本誌に成果が報告されていますが、それ以降に開発された反応について本報告にまとめられています。入手容易な試薬を用いて容易に調製可能な活性種からヘテロ原子導入が簡便に行えるため、創薬探索などの研究現場において利便性が高い反応です。
光化学的活性化を駆動力としたヨウ素を利用する新規分子変換反応の開発
*岐阜薬科大学薬学部
近年、光反応が脚光を浴びていますが、高価な金属錯体触媒を必要とする場合がほとんどであるため、シンプルな条件は魅力的です。著者らは最近のブームに先駆けて光反応の研究に取り組んできており、可視光に敏感であり、また安価なヨウ素(源)を用いることでいろいろな光駆動型分子変換が可能であることを示しています。本総合論文ではそれらの成果がまとめられていますので、是非ご一読ください。
ジアリールヨードニウム塩を用いる求核剤のアリール化反応 ― リガンドによる反応性と選択性の制御 ―
*立命館大学薬学部
本総合論文では、立命館大学の菊嶌、土肥先生らが進めている超原子価ヨウ素反応剤であるジアリールヨードニウム塩を用いたアリール化反応に関して、詳細に解説されています。ヨウ素に結合した2つのアリール(芳香族)基をいかにして選択的に反応させ、対アニオンの影響をどう反応活性向上に生かすか、独自の分子設計が語られ、芳香族分子を用いたより簡便で実用的な分子構築反応のヒントが得られる論文です。
触媒的エナンチオ選択的α-ハロゲン化反応に潜むハロゲン結合の影響
*名古屋大学大学院工学研究科有機・高分子化学専攻
最近、ハロゲン結合を利用した触媒反応に関する学術論文が増えており、その関心の高さが伺える。本論文ではハロゲン結合が反応を阻害する事例とそれをどのように克服したかが述べられており、大変興味深い。本論文を読むと、自分が扱う化学反応にもハロゲン結合が潜んでいないかチェックしてみたくなるに違いない。
分子内ハロゲン結合を利用した新規ニトレンおよびカルベン等価体の開発
*京都薬科大学薬化学分野
*京都大学大学院薬学研究科薬品分子化学分野
特異な構造や電子状態を有する化学種は基礎化学的な研究の対象としてのみならず,時に新しい合成反応剤として魅力的です.本総合論文で紹介されている新規イミノヨージナンとヨードニウムイリドは,適切に導入された置換基の効果によって安定化された特異な化学種であり,それぞれ安定に単離,取り扱いできるニトレンおよびカルベン等価体として魅力的な反応性を示します.
ハロゲン化チエニルジケトンの機械刺激に応答する室温りん光機能
本総合論文は、りん光機能骨格チエニルジケトンについて、その室温りん光および刺激応答機能とハロゲン原子の役割について述べています。りん光の基礎から丁寧に説明されているので、この分野の専門家はもちろん、分野外の研究者や学生にもお勧めの論文です。
大気安定な発光性ポリクロロトリアリールメチルラジカルの開発と機能創出
ラジカルが不安定というのは化学の常識と思われますが、ハロゲンを導入したトリアリールメチルラジカルは高い安定性を示します。高い安定性は機能性物質を創る際の大きなアドバンテージとなります。この論文ではラジカルの機能としては例の少ない発光現象に着目し、ラジカルの特徴を巧みに利用した、磁場に応答する独特の光機能性が紹介されています。
ケミカルズ覚書
レア企画のケミカルズ覚書があります!!ケミカルズ覚え書きとは、商品として流通している工業的、実験室的に興味のある化学物質に関する技術情報をまとめたものです。
豪華な企業の方々にご寄稿いただいています。ぜひご覧ください。
・ヨウ素工業とハロゲン結合 (株式会社同資源)海宝龍夫
・環境対応型フッ素系溶剤AMOLEA®AS-300 (AGC株式会社)河口聡史、光岡宏明
・ハロゲンを利用した5,6-ジヒドロ-1,4,2-ジオキサジン環の合成(日産化学株式会社)中屋潔彦、玉田佳丈
・東ソー・ファインケムのハロゲン利用技術と機能性製品群(東ソー・ファインケム株式会社)長崎順隆、曽我真一
・日宝化学のハロゲン化技術(日宝化学株式会社)緑川晃二
これまでの紹介記事は有機合成化学協会誌 紹介記事シリーズを参照してください。