新年度あけましておめでとうございます。映画The First Slam Dunkでは出番がなかったKosugeでございます(岸本選手は一瞬出ていましたね)。本年度もどうぞよろしくお願い申し上げます。
さてタイトルの「宇宙なう」ですが、何事かと思いますよね(笑)前澤社長じゃあるまいし、私ではないです(笑)
私の「結晶」がです。
ということで今回は、これまでにケムステ記事でも紹介していた、結晶生成サービス「Kirara」を利用させていただく機会がありましたので、その流れなどについて紹介させていただければと思います。
記事にありますとおり、結晶生成サービス「Kirara」は地上では結晶化が困難なタンパク質の結晶化を対象にすることが多いです。しかし私は有機合成屋です。普通の低分子化合物でちょっと変わった結晶化挙動をするものがありましたので「ちょっとこんなのどうでしょう…?」といった、比較的フワッとした感じでも熱心にお話を聞いていただけました。
さて、本サービスにあたって実際に結晶化のサンプル調整などを行っていただきますのは、「株式会社コンフォーカルサイエンス」になります。
田仲 広明 社長は、これまでに、タンパク質結晶化、宇宙結晶化に関して多数の論文を執筆されている専門家で、研究者目線で、効率的かつ有意義な議論をしていただけます。
打ち上げまでの具体的な流れを図に示すと以下の通りです。
まずは、2022年11月ごろにZoomで田仲代表取締役夫妻を交えて研究意義などに関してディスカッションさせていただきました。
こちらのフワッとした「もし、なんかこうなったらすごいかも」と言った、およそ人類の直面する課題解決にはつながらなさそうな、完全にサイエンティフィックな興味に対しても格別の理解を示していただいて、「面白そうなのでぜひやりましょう」と言っていただけました。
しかしながら、これまで「低分子の結晶化を宇宙で試したことはない」ということで、色々予備実験をしていただくことになったのですが、その予備実験がかなり大変でした。が、オチから言いますと、実働で結晶化条件を検討してくれるのは、株式会社コンフォーカルサイエンス田仲社長です。
有機合成屋ならわかると思うのですが、大抵の有機結晶は蒸気拡散法などで結晶化させます。一方、宇宙ではカウンターディフージョン法という、ゲルの中で結晶化させるという、見たことも聞いたこともない結晶化法です(その概要はリンク内の「高品質タンパク質結晶生成サービス
ご利用案内」の10pにあります)。
無理だよそんなの見たことも聞いたこともないのにできるわけないよと思ったのですが、株式会社コンフォーカルサイエンス様で非常に多くの条件を検討していただきました。結晶化の条件検討はかなり大変なのは有機合成屋の皆さんならご存知と思いますが、その検討を株式会社コンフォーカルサイエンスサイドでやっていただけるということで非常にありがたい限りで頭が下がりました。
なかなか良い条件が見つからないので、何度もメールやzoomなどでやり取りしました。有機低分子化合物は、タンパク質とは異なって、結晶化しやすいです。さまざまな末、最終的には、タンパク質で上手くいく手法では有機低分子化合物ではうまくいかないという結論に辿り着き、有機低分子化合物の結晶化を宇宙で行うための新しい結晶化手法を開発する、ということにまで至りました(もちろん株式会社コンフォーカルサイエンスが、です!)。そういう経緯で、打ち上げまでのタイムリミットでもある2023年2月ごろに最終的な条件を決定しました。
やり取りの間に、実際のカウンターディフージョン用の容器から得られた結晶なども送っていただき、こちらで単結晶X線構造解析なども行い、カウンターディフージョン法で地上ではどのような結晶が得られるかなども確認できました。
宇宙へ持って行っても安全な試料かどうかに関する審査もあるのですが、その承認の手続きに関しては有人宇宙システム株式会社(JAMSS)のサポートでスムーズに行えました。
数々の苦労を乗り越えて、無事、化合物を宇宙に持って行ける流れとなりました。米国SpaceX社のドラゴン補給船というロケットに乗っていくそうです。今回は「Kirara 第4号機」になるようです。
さて、いざ結晶打ち上げの数日前、JAMSSからのメールが。内容を見てみると、なんと「オンライン打ち上げライブ配信」が見られるとのこと。
当日は、応用物理学会に参加していたのですが、スマホで見させていただきました。「かわいい(分)子には旅をさせよ」とは言いますが、まさか宇宙に行くことになるとはと感無量でした。
現在は下記のyoutubeから見ることができます。
★打上げ映像はこちら:https://www.youtube.com/watch?v=HcTqj30dJYM
(31分頃から再生すると、打上げ1分前となりちょうど良いです)
また、宇宙で無事実験ができているという報告が届き、軌道上からの実験の写真が届きました!ここに自分達の合成した化合物が入っているのかと思うと感慨深いものがありますね。
結晶化開始の実験操作はJAMSSの方が、ケネディ宇宙基地でされたのですが、本当は自分で現地(宇宙)に行って色々実験をやりたかったですね(泣)と、名大のY下教授もきっと思っていることでしょう(笑)
現在はISSで結晶化の実験が続いておりますが、地球に帰還するのは4月15日ということで、どのような実験結果になるか非常にワクワクしております。先日、はやぶさ2がリュウグウから持ち帰った有機物質を分析してみると、リュウグウから検出されたと見られるアミノ酸がラセミ体だったということで大きな盛り上がりを見せておりました(Science, DOI:10.1126/science.abn9033)。個人的に、宇宙から帰ってきたサンプルを調べるのは、そのくらいのワクワク感があると思います。皆さんも、有機結晶でも宇宙での結晶化に興味がありましたら、Kiraraチームまでご連絡してみてはいかがでしょうか。株式会社コンフォーカルサイエンス、有人宇宙システム株式会社の方々の手厚いサポートにより有意義な宇宙実験が実行できると思います。
最後に、終始に渡り、非常に熱心に多くの実験条件を検討していただき、新手法まで開発していただき、温かい言葉をいただきました株式会社コンフォーカルサイエンス田仲昭子博士に格別の感謝を申し上げます。