第496回のスポットライトリサーチは、東京工科大学大学院バイオ・情報メディア研究科 バイオニクス専攻 エピジェネティック工学研究室(吉田亘研究室)修士課程2年生の宮田 峻通さんにお願いしました。
DNAやヒストンが何らかの化学修飾を受け、そのことにより遺伝子発現が制御される仕組みはエピジェネティクスと呼ばれています。エピジェネティック工学研究室ではDNAの修飾塩基に着目し、特にメチル化塩基に関連した研究を精力的に進めています。
今回、宮田さん達はゲノムDNA中の修飾塩基を簡便に検出可能な連結タンパク質の作成方法を提唱しました。本研究成果はAnalytical Chemistry誌 原著論文として発表され、この論文はACS Editors’ Choiceに選出されました。また、本成果の概要は東京工科大学プレスリリースで公開されています。
Universal design of luciferase fusion proteins for epigenetic modifications detection based on bioluminescence resonance energy transfer
Takamichi Miyata, Hazuki Shimamura, Ryutaro Asano and Wataru Yoshida*
Anal. Chem. 2023, 95, 7, 3799.
DOI: 10.1021/acs.analchem.2c05066
研究室を主宰されている吉田 亘 准教授から、宮田さんについて以下のコメントを頂いています。
宮田さんは格闘技好きの非常に頭の柔らかい学生です。学部3年生を対象とした遺伝子工学の講義では、毎年「本講義の内容に関する問題とその模範解答を作成せよ」という課題を出しておりますが、これまでで一番面白い問題を作成してきた学生が宮田さんでした。本研究成果は宮田さんの柔軟な発想力と不断の努力(通学に片道2時間かかるなか、毎日朝から晩まで頑張って研究活動に励んでくれました)の賜物です。博士課程に進学しないことは残念ですが、今後は社会人として社会の発展に貢献してくれることを期待しております。
それでは今回もインタビューをお楽しみください!
Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。
タンパク質ライゲーションシステムを用いて任意の組合せで修飾塩基認識タンパク質とルシフェラーゼの融合タンパク質を構築する手法を確立しました。ゲノムDNA中には5-メチルシトシンを始め、様々な修飾塩基が含まれております。がんや中枢神経疾患などの疾患細胞では、これら修飾塩基のパターンが異常になっているため、これは種々の疾病のバイオマーカーとして利用可能です。本研究では室温で混合するだけで自発的にライゲーションするタンパク質である「SnoopTag (SnT)」と「SnoopCatcher (SnC)」を用い、メチルCpG結合ドメイン(MBD)と深海エビ由来のルシフェラーゼ(Oluc)の融合タンパク質、非メチルCpG結合ドメイン(CXXC)とOlucの融合タンパク質を構築できることを示しました(図1)。さらに、こられ融合タンパク質とDNAインターカレーター間で生じる生物発光共鳴エネルギー移動(BERT)を利用することで、試薬を混合するだけでゲノムDNAのメチルCpGと非メチルCpGを定量できることを示しました(図2)。
図1. タンパク質ライゲーションシステムSnoopTag (SnT)/SnoopCatcher (SnC)を用いた、メチルCpG結合ドメイン(MBD)融合ルシフェラーゼ(Oluc)と非メチルCpG結合ドメイン(CXXC)融合Olucの構築法
図2. 融合タンパク質とDNAインターカレーター間で生じる生物発光共鳴エネルギー移動(BERT)を利用したメチルCpGと非メチルCpG測定法
Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。
本手法の特長はタンパク質ライゲーションシステムを用いることで、任意の組合せで修飾塩基認識タンパク質とルシフェラーゼの融合タンパク質を構築できることです。ゲノムDNAには5-メチルシトシンだけでなく、5-ヒドロキシメチルシトシン、5-ホルミルシトシン、5-カルボキシルシトシン、N6-メチルアデニンなど種々の修飾塩基が含まれており、これら修飾塩基を特異的に認識するタンパク質も同定されております。また、最大発光波長が異なるルシフェラーゼが多数報告されております。つまり、本技術を用いて標的修飾塩基認識タンパク質に発光特性の異なるルシフェラーゼを融合させれば、複数の修飾塩基を同時に簡便に測定できるようになると期待されます。
Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?
研究当初に使用したルシフェラーゼとその基質は、発光が直ぐに減衰するフラッシュタイプだったため、安定した測定結果を得ることができませんでした。そのような中、土砂降りの路上教習中に対向車がハイビームからロービームに変更する場面がありました。その時、私の頭がフラッシュタイプになり、使用するルシフェラーゼとその基質をフラッシュタイプから、発光が直ぐに減衰しないグロータイプに変更すれば安定した測定結果が得られるのではと思いつきました。そこで、グロータイプの基質に変更したところ、想定通りの測定結果が得られるようになりました。
Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?
修士課程修了後は診断薬メーカーに就職します。これまでの研究活動を通じて培った知識や経験をもとに、人々の健康に貢献したいと考えています。博士課程に進学し、より専門性を身につけることも検討しましたが、実際に生み出された「もの」を社会に還元したいという想いがあり、就職を決めました。多くの情報から多角的に物事を考え問題点を明確にすること、どのような人にもわかり易く論理的な説明を行うことは、どのような場面でも重要だと思います。研究者としての視点を持ちながら、化学の力を医療の最前線に届け、すべての人が健康に生活できる世界の実現に挑戦します。
Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。
最後までお読みいただきありがとうございました。私がこれまで大切にしてきた言葉は、「早く行きたければ、1人で進め。遠くまで行きたければ、みんなで進め。」です。どのようなことでも1人のほうが物事は早く完結しますが、その分到達できる距離も近くなります。しかし、みんなで取り組めば1人では超えられない壁を超えることができます。今回の研究においても、指導教員や共同研究者、ラボメンバーとの議論や何気ない会話がヒントとなり、多くの壁を乗り越えることができました。
最後になりますが、指導教員としてご指導くださいました吉田亘准教授、多大なご助言とご支援を頂きました東京農工大学の浅野竜太郎教授、ご協力いただきました皆様にこの場をお借りして感謝申し上げます。また研究紹介の機会を与えてくださいましたChem-Stationの皆様に御礼申し上げます。
研究者の略歴
名前:宮田 峻通(みやた たかみち)
所属:東京工科大学大学院 バイオ・情報メディア研究科 バイオニクス専攻 エピジェネティック工学研究室(吉田亘研究室)
略歴
2017年4月 東京工科大学応用生物学部 入学
2021年3月 同上 卒業
2021年4月 東京工科大学大学院バイオ・情報メディア研究科バイオニクス専攻 入学
2023年3月 同上 修了
関連リンク
・東京工科大学大学院バイオ・情報メディア研究科 バイオニクス専攻 エピジェネティック工学研究室
・東京工科大学プレスリリース:ゲノムDNA中の各種修飾塩基を測定する発光タンパク質構築法を開発