久々の研究室の物品を試してみたシリーズ。第14弾となる今回は、
富士フイルム和光純薬から発売された
「クロマトシート」
について動画と記事でお伝えしたいと思います。
紙製のTLC!? そんなのありか?
薄層クロマトグラフィー(TLC)は、有機反応を簡単に可視化できる技術です。
溶液をキャピラリーで採取して、TLCにスポット、展開するだけで表面のシリカゲルと化合物の相互作用の差を利用して分離する優れものですね。TLCには蛍光剤が塗布されていて、紫外光を吸収する化合物はスポットとしてみえます。もちろんもっと高感度や定量的なツールや機器もありますが、気軽かつ迅速に反応をチェックするには欠かせない一品となっています。
通常はガラスの板にシリカゲルが薄く塗ってあるものが一般的です。ガラスのかわりに薄いアルミシートになっているものもあります。それぞれ利点や欠点はあるのですがとりあえず置いておきましょう。
一方で、今回紹介する「クロマトシート」は、紙製となります。
え、ペーパークロマトグラフィーでは?
と思った方、正解です。そう広義にはペーパークロマトグラフィーなんですが、紙繊維にシリカゲルが練り込んであって、ガラスやアルミと同様にシリカゲルとの相互作用を利用して分離するのです。蛍光剤も練り込んであり、UVで検出が可能というわけです。
そんなの今までなかったんだと思われる方もいると思いますが、実はありました。
ただ、色々な経緯で最近は生産されておらず、それを富士フイルム和光純薬さんが改良を重ね、ついに新製品として発表したのが、このクロマトシートになります。
というわけで、このクロマトシートの特長をデメリットも含めて解説しましょう。
簡単に理解するためには、以下の動画が便利です。ぜひご覧ください。
クロマトシートの特長を隠さず紹介
記事でも簡単にクロマトシートの特徴を紹介しましょう。
メリット1:はさみできれる
クロマトシートははさみで簡単、また安全に切ることが出来ます。ガラスカッター等、裁断の際の特殊な器具は不要です。
メリット2:粉落ちしない
ガラス製TLCは切り口やプレート同士が当たった際に粉落ちしてしまうことがありますが、クロマトシートはシリカゲルを紙に練りこんである為、粉落ちの心配がありません。
メリット3:シートを丸めてスポットできる
クロマトシートは曲げられるため、曲げた状態で展開することでガラス製TLCよりも多くのスポットを打つことができます。カラムクロマトグラフィーのフラクション確認などあらかじめ検出されるスポットが分かっている際の時間短縮に活用できます。
メリット4:がらすゴミの分別が不要
クロマトシートは紙の為、ガラスごみの分別をすることなく手元のゴミ箱に捨てることが出来ます。ガラスを分別して、実験廃棄物として有料なことが多いので、これはよいところですね。
メリット5:整理しやすい
クロマトシートはガラス製TLCと比べて薄く、かさばりません。また、ノートへの貼り付けやファイリングもすることが出来ます。
メリット6:ガラス製TLCと同様に使用できる
紙だからといって特殊な展開器具は必要ありません。クロマトシートはガラス製TLCと同様の手法で、スポット、展開、検出(加熱)を行うことが出来ます。展開にはクロロホルム、酢酸エチル、ヘキサン、ニンヒドリン等一般的な溶媒を使用する事が出来ます。また、呈色試薬にもりんモリブデン酸やニンヒドリンをはじめとする一般的な試薬を使用することが出来ます。
デメリット1:硫酸はさすがにつかえない
紙の為、硫酸等の強酸を用いる検出試薬は使用できません。例えば、セリウムモリブデン酸アンモニウムなどは硫酸が入っているので焦げてしまいます。研究室で一番使う呈色液なので残念です。また、もちろん溶媒を含んだ状態で加熱すると、燃えてしまうので溶媒を十分に乾かした後加熱してください。
デメリット2:少し性能が劣る
ガラス製TLCとクロマトシートはシリカゲルの厚みが異なり、クロマトシートの方が少ないので、ガラス製TLCの感覚でスポットするとテーリングします。なれればしっかりあげることはできますが、やはり分離能はガラス製TLCに劣ると思います。また、蛍光剤の違いのせいか、ガラス製TLCに比べて見にくいです。
はじめに書いたように、TLCは反応をしっかりチェックするための大事なツールですので、精密有機合成化学ではおすすめはできません。一方で、きれいなサンプルやUVがよく見える化合物などはガラス製TLCと同様に使えるものもあると思います。
ぜひ試して見ては?
以上、今回は富士フイルム和光純薬から発売されたクロマトシートを紹介しました。試供品も提供してくれるようなのでぜひ試して見てください。
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