有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2023年2月号がオンライン公開されました。
みなさま怒涛の2月を過ごしていることと思います。落ち着いた際には、有機合成化学協会誌を読んで有機化学に対する理解を深めましょう。
有機合成化学協会誌は今月号も充実の内容です。
キーワードは、「セレノリン酸誘導体・糖鎖高次機能・刺激応答型発光性液体材料・生物活性含酸素環式天然物・第9族金属触媒」です。
今回も、会員の方ならばそれぞれの画像をクリックすればJ-STAGEを通してすべてを閲覧することが可能です。
巻頭言 縦糸と横糸、そして・・・
今月号の巻頭言は、高知工科大学環境理工学群 西脇永敏 教授による寄稿記事です。
読者のみなさんにとって、縦糸と横糸は何になるのか、考えながら読んでくださると良いと思います。オープンアクセスです。
ビナフチル基を有するセレノリン酸誘導体の合成化学
ビナフチル基を有するリン酸やチオリン酸に対して、リン上にセレンを有する誘導体は未開拓分野だった。そのなか、ビナフチルセレノリン酸塩化物の発見が端緒となって、ラセミアルコールのキラル識別化、アキラルアルコールの非対称化、光学活性配位子である亜リン酸アミドの新合成法を開発した。さらにリン–炭素結合を有する誘導体のリンのα炭素への選択的な求電子剤の導入、ビナフチル基のキラリティーがリンの中心性キラリティーに転写する反応も開発された。
糖鎖の高次機能に迫るケミカルバイオロジー研究
2023年度有機合成化学奨励賞
*大阪大学大学院理学研究科科学専攻
本総合論文は、糖タンパク質糖鎖および類縁体の化学合成を基盤としたケミカルバイオロジー研究について述べられております。ケミカルバイオロジー研究では、化学合成によって、天然では入手困難な単一な糖鎖構造を合成し、糖鎖の構造機能相関を明らかにしております。さらに、異なる機能を有する天然由来構造(糖鎖、ペプチド、脂質)からなるハイブリッド分子を創成することによって、人工ワクチンの合成に成功しております。
実験および理論に立脚した刺激応答型発光性液体材料の合成と刺激応答挙動の解明
*公益財団法人相模中央化学研究所
この時、査読を務めた片平恒夫査読者(仮名)はこの総合論文の事をこう語っている――。え…?『固体になると思ったか?』、って…このπ共役系分子がですか?……..ん〜〜〜〜(コリコリ) やっぱりあなた達はワカってない!室温で液体になるπ共役系分子の機能を研究している磯田恭佑(相模中研グループリーダー)という人物を!
不斉中心の立体制御を軸とした生物活性含酸素環式天然物の全合成研究
環状エーテル系天然物3種類の全合成。研究過程で明らかとなった問題点をいかに解決したかも含めて詳しく紹介されています。勉強にもなりますよ。
第9族金属触媒を用いる1,6-ジイン誘導体の環化異性化反応による多彩な環骨格構築法の開発
本総合論文では,様々な1,6-ジイン類の環化異性化反応が報告されている。著者らは触媒金属がどのように振る舞うかを予測して反応基質を緻密に設計し,多様な多環式分子を巧みに合成している。また,予測に反する結果が得られた場合においても,その反応を一般化して新たな多環式分子合成法として積極的に活用する過程が興味深い。
ラウンジ:振り返ってみれば
今月号のラウンジは、東京大学名誉教授 福山 透 教授による寄稿記事です。超大作です。すでにtwitter等で話題になっていますが、名言に溢れています。いかなる立場・状況にある化学者にとっても響く記事ですので、ぜひご覧ください。オープンアクセスです。
Review de Debut
今月号のReview de Debutは1件です。若手研究者によるミニレビューになっています。オープンアクセスですのでぜひご覧ください。
・単原子編集による環拡大反応の進歩 (大阪大学大学院工学研究科)藤本隼斗
感動の瞬間:フッ素に出逢って
今月号の感動の瞬間は、筑波大学数理物質系化学域 市川淳士 教授による寄稿記事です。副題の、Boy Meets Fluorine!のセンスに脱帽しました。
もちろん内容も感動にあふれていますので、ぜひご覧ください。
これまでの紹介記事は有機合成化学協会誌 紹介記事シリーズを参照してください。