第486回のスポットライトリサーチには、「電子部品で作る分子模型(フラーレンとダイオキシン)」という研究課題で、第3回(令和4年度)東レ理科教育賞・企画賞を受賞された、大阪産業大学 デザイン工学部 環境理工学科の堀越 亮(ほりこし りょう)先生にご登場いただきました。
堀越先生は、ユニークな化学ツールを開発されており、今回のご受賞はその成果の一部です。それではインタビューをお楽しみください!
Q1. 今回受賞となったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。
電子部品とチューブでつくる構造模型に関する研究です。 トランジスタを sp2 炭素、各色 LED を水素やヘテロ原子に見立てて、それらをチューブで連結していくと、ナノ炭素材料(フラーレン・ナノチューブ・グラフェン)やダイオキシン類(PCDD・PCDF・PCB)の模型ができあがります。この電子部品★構造模型は、作製に時間を要しますが、安価で軽量なので、高校や大学での実習、そして科学イベントでも利用できます。
Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。
電子部品の連結方法を工夫したら模型づくりがとても簡単になりました。 当初は、電子部品をハンダないしは接着剤で連結して、構造模型を組み立てようと思っていました。しかしながら、ハンダは技術を要するし、接着剤は乾燥に時間がかかるので、実習や科学イベントでの実施は現実的ではないと考えていました。あれこれ試して、熱収縮チューブとシリコンチューブで電子部品を連結することを着想しました。熱収縮チューブは取り外さない結合部分に、シリコンチューブは取り外す結合部分に利用しました(J.Chem.Educ.[JCE] 2022.)。
Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?
あれこれ考えたり試したりしましたが、結局のところ、電極が3本しかないトランジスタを使って sp3 炭素を表現することはできませんでした。 そこで sp3 炭素を持たない物質を模型にすることにしました。「バックミンスター」って響きが格好いいと思ったので、C60 つくってみました。そして、就寝前に「でんしぶひん」と何度もつぶやいていたら、いつの間にか「ダイオキシン」に代わっていたので、TCDD つくってみました。また、みんなには内緒ですが、TTF-TCNQ つくりました。ここ最近、夢枕によく出てくるので、(sp3 炭素をいくつか含みますが)NanoKid つくっています。
Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?
スマートフォン全盛の時代に、あえて手作り模型を使った化学教育で高校生と大学生を魅了していきます。
これまで筆者は、ブロック玩具★均一系触媒シリーズ(JCE 2013, 2014, 2015.)、ペットボトル★Uボート(JCE 2016.)、そしてピタゴラ装置★質量分析計(JCE 2017.)を使って化学の楽しさを紹介してきました。最近は、前述の電子部品★構造模型シリーズとブロック玩具★MOFシリーズにはまっています(乞うご期待)。このように、これからも手作り模型にこだわった化学教育を展開していきます。余談ですが、就寝前に「ブロック玩具」と何度もつぶやいていたら、いつの間にかドイツ系っぽい「ヴォルフガング」に代わっていました(笑)。
Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。
読者の皆さんも、先生に叱られない程度に「オフ・ザ・ケム」しませんか?
筆者は「オフ・ザ・ケム」を合言葉に、化学教材をデザインしています。「オフ・ザ・ケム」は「オフ」と「ケミストリー」をつないだ筆者の造語で、「本題から外れた化学」転じて「はしゃいだ化学」を表しています。はしゃいで化学を考えようというのが筆者のやりかたなのです(諸説あり)。
就寝前に「オフ・ザ・ケム」と何度もつぶやいていたら、いつの間にか「オフザケ」に代わっていました。ちなみに、就寝前に以前の合言葉「ケム道楽」を何度もつぶやくと、draw soft の商品名っぽくなります。合言葉は変わりましたが、「はしゃいだ化学」精神で楽しくやってます。
ここでは「オフ・ザ・ケム」しましたが、普段の筆者は大変真面目であること、ここで申し添えます(要出典)。今夜は就寝前に「皆さんに感謝」と何度もつぶやきますね。
研究者の略歴
名前:堀越 亮(ほりこし りょう)
所属:大阪産業大学 デザイン工学部 環境理工学科 教授
研究テーマ:化学教育、錯体化学、ベンゼン性格診断、TLC おみくじ、 実験が上手くいく待ち受け画像、結晶成長を促す魔法の言葉
略歴:
2002年 東邦大学大学院 理学研究科 化学専攻 博士後期課程修了
研究員・会社員・公務員を経験して
2023年 大阪産業大学 デザイン工学部 環境理工学科 反面教授
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