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スポットライトリサーチ

三原色発光するシリコン量子ドットフィルム―太陽光、高温、高湿への高い耐久性は表面構造が鍵―

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第461回のスポットライトリサーチは、広島大学理学部化学科 光機能化学研究室に在籍されていた早川 冬馬(はやかわ とうま)さんにお願いしました。

光機能化学研究室では、分光・光物性の観点から新たな物性の創製,機能の利用を目標として研究を行っています。特に最近では、金ナノ粒子・シリコンナノ粒子の光物性において数多くの論文を発表しています。本プレスリリースの研究内容は、シリコン量子ドットについてです。近年、量子ドットは盛んに研究が行われており、アジアならびに欧米諸国での産官学の参入が急増しています。一方、量子ドットの本格的な普及には、汎用的な材料で重金属フリーな材料の採用をしつつ高効率の発光を確保する必要があります。そこで本研究グループでは、シリコン量子ドット(SiQD)の研究を進めており、多彩な色で発光するSiQD、最大80%を超える発光量子収率を持つSiQDなどを報告してきました。この度、三原色発光する溶液分散型のSiQDを合成し、それらの量子ドットフィルムの作製、加速劣化試験を行い、更に発光と劣化の機構を解明しました。

(a)三原色で発光する溶液分散型のシリコン量子ドット(SiQD)の発光スペクトル。挿入図は発光時の写真。(b) 赤色発光SiQD、(c) 緑色発光SiQD、および (d)青色発光SiQD の透過型電子顕微鏡像。(e) 赤色発光SiQD、(f) 緑色発光SiQD、および (g) 青色発光SiQDのサイズ分布。(出典:広島大学プレスリリース)

この研究成果は、「ACS Sustainable Chemistry & Engineering」誌に掲載され、プレスリリースにも成果の概要が公開されています。

Stability of Silicon Quantum Dots Against Solar Light/Hot Water: RGB Foldable Films and Ligand Engineering

Keisuke Fujimoto, Toma Hayakawa, Yuping Xu, Nana Jingu, and Ken-ichi Saitow

ACS Sustainable Chem. Eng. 2022, 10, 44, 14451–14463

DOI: doi.org/10.1021/acssuschemeng.2c03791

研究室を主宰されている齋藤健一 教授より早川さんについてコメントを頂戴いたしました!

早川冬馬さんは,学年トップクラスの成績優秀者であり,卒業研究も大変精力的に行いました。彼がまとめた卒業論文は,私がこれまで指導した学生の中でも,質・量ともに間違いなくトップクラスです。現役の学生も,それを熟読しています。なお,早川君は大変優秀な学生でしたが,学部で卒業されたことを大変残念に思ったこと,今もよく覚えています。しかし,早川君の成果と彼の先輩で先駆者あった藤本啓資君の成果を中心に三原色発光するシリコン量子ドットの合成と三原色量子ドットフィルム,ならびにその加速劣化試験と,13ページにも及ぶ立派なフルペーパーとなりました。特に早川君が精力的に行った青色シリコン量子ドットの合成,熱水への高い耐久性,ならびに量子ドットフィルムの作製条件の開発など,今後のシリコン量子ドット研究において世界的に影響を及ぼす内容と信じています。なお,論文出版して一週間程たたないうちに,複数の外国の研究者から個別の問い合わせも頂いています。現在も後輩が本テーマを発展させているため,今後の研究展開も楽しみです。そして,早川君は現在,企業でディスプレー関連の仕事をされています。今後の活躍も楽しみにしています!

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

シリコン量子ドットの合成と、それを用いたフレキシブルフィルムの作製を行いました。さらにそれらを用いた加速劣化試験にて、耐久性のメカニズムについても調査しました。量子ドットを用いたデバイスは既に大型TV等で市場に出回っています。しかしながら現在は、希少金属のインジウムや毒性懸念のあるカドミウム、鉛を含むものが用いられるのが主流です。一方でSDGsの観点から汎用的かつ低毒性な材料を、という所で当研究室では砂や石の主成分でもあるシリコンに着目し、様々な研究を推進しています。

デバイスへの応用を考えた時に、その信頼性というのも重要な要素になります。本研究において、作製したRGB各色発光の量子ドットフィルム(図a)を直射日光下もしくは熱水環境下に置き、加速環境で劣化試験を行ったところ、いずれにおいても高い安定性が確認されています。特に青色発光フィルムの安定性は著しく(図b)、これを表面官能基自身の強固さと未反応部分の後続反応によるものと帰属しています。また、フィルムの母材も安定性において重要な要素です。熱水試験、直射日光試験の結果から、母材樹脂の物理構造や光吸収特性も量子ドットフィルムの安定性に大きく寄与することが示唆されています。

これまでの研究では加速環境下での劣化試験に関しては報告がなく、本内容は実用に向けた有用なデータと考えています。今後はこのシリコン量子ドットがサステナブルな発光体として、様々なデバイスへ応用されることを期待します。

(a)赤色、緑色、および青色SiQDのフレキシブルフィルムの写真(厚さ0.5mm、大きさ40mm×40mm) (b)80℃の熱水に浸漬した青色SiQDフィルムの発光強度の安定性。実線と破線の曲線は、それぞれPDMSとフッ素系樹脂(PVDF)を母材とした量子ドットフィルム

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

本研究で私は主に量子ドットを用いたPL発光フィルムの作製と熱水下での耐久性評価に取り組みました。フィルムに関してはこの先の実用により近い形での評価であることから、あくまでも調査段階でありながら、「薄く均一なフィルムを」という所にもこだわりを持ちました。できる限り薄く均一に、かつ発光色が濁らないようにするために、試薬の分量や濃度、溶液からフィルムを形成する方法など、様々な工夫がちりばめられています。論文にも掲載されているRBG発光のフィルムの写真はそのこだわりの現れであり、思い入れ深いところです。

また、本研究にて用いた量子ドットは当研究室でハロシランから合成したものですが、研究対象である量子ドットを安定して得るという点で合成の部分でも色々と工夫したので、それはQ3に少し記載させていただこうと思います。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

量子ドットの合成は非常に繊細で、何か一つ乱れがあると狙いの生成物が得られません。そのため、反応時間や試薬の滴下方法に至るまで、合成手順を丸ごと精査し、1つ1つのステップを順番に見直していくことで、安定して合成ができるように多くの工夫を重ねました。在学期間の終盤に緑色発光の量子ドット合成に手を付け始めましたが、最初の青色量子ドットで確立した手法が通じず、大変苦労した記憶があります。また、先述のフィルムへのこだわりについても、先行文献に記載の濃度ではうまくフィルムが形成されず、ここも手順や試薬の量を1つずつ見直しながら試行錯誤を重ねました。

思い通りにいかないじゃじゃ馬を、1つ1つ丁寧に手なずけていった研究室生活だったと振り返ります。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

現在はディスプレイ関連の製造技術の職に就いており、化学そのものに触れる機会はあまりありません。ですが、その根底を探ると必ずどこにでも色々な形で化学は存在しています。私が担当している製造技術の改善も、化学的なアプローチでどうだろうという目線を持って他の工学系出身の担当者と連携することで、今までにないハイクオリティな技術を創造できればと思います。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

実験や考察がうまくいかないとき、プロセスのどこかに必ず綻びがあります。ただそれはあまりにも小さく、プロセス全体で見ると気づかないものが多いでしょう。こと研究に関しては確かにスピード感は重要です。ですが、多少時間をかけてでも1つずつ分解して細かく見るほうが逆に解決が早い、ということもあると思います。ほつれた糸をたどっていくと、簡単で当たり前だと流していた部分にたどり着く、なんてこともあるかもしれませんね。

最後になりますが、在学中、そして卒業後も研究に対し素晴らしい環境とご指導を賜りました齋藤健一教授をはじめ、本研究に際して関わり多大なるご助力を賜った研究室内外のメンバーにこの場をお借りし、感謝申し上げます。

研究者の略歴

名前:早川 冬馬 (はやかわ とうま)

経歴:

2018/04 広島大学理学部化学科 光機能化学研究室配属

2019/03 広島大学理学部化学科 卒業(学士)

2019/04 シャープ株式会社入社

現所属 シャープディスプレイテクノロジー株式会社

在学中の研究テーマ:シリコン量子ドットの合成とその耐久性の評価

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ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

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