今回はGaussian及び、GaussViewを用いて、マロンアルデヒドの分子内水素移動反応における遷移状態を求める方法を紹介します。
なお本記事は、大学の先生方の力を借りて、初めて量子化学計算を行った学部生の備忘録的な記事です。
こんな人に読んでほしい
・Gaussianのライセンスを持っていて自由に使えるが、何をしたら良いかわからない人
・とりあえず量子化学計算をやってみたい人
計算の流れ
今回遷移状態を求める反応はこちらです。
まず初めに、GaussViewでマロンアルデヒドの構造を作成します。このとき、ベンゼン環から構造を作ると比較的簡単に構造を作ることができます。
また、分子内で移動する水素は遷移状態と思われる位置に後から置きます。このとき実際の遷移状態に近ければ近いほど計算の精度が上がります。具体的には、環のやや内側寄りに置くと良いと思います。O-H結合は後から加えます。
次に計算のインプットファイルを作成します。Job TypeはOptimization+Frequencyにします。ここでOptimizationは構造最適化計算、Frequencyは振動数計算のことです。「Optimize to a」ではTS(Berny)を選択し、遷移状態を求めるよう指示します。「Calculate Force Constants」ではOnceを選択し、計算方法ではHartree-Fockを選択します。以上の設定で計算を行い、遷移状態を求めます。
次に先程の計算結果(logファイル)でresultのvibrationsを見て、虚の振動数(Freqの値が負)があることを確認します。虚の振動数があることは、得られた構造が局所的な安定構造 つまり遷移状態である可能性を意味します。虚の振動数を選択した状態でさらに計算を行います。
次の計算ではJob TypeでIRCを選択します。これは遷移状態が正しい反応物と生成物(ここでは水素が移動する前後のことを指す)までつながっているかを確認する計算のことです。また、Compute more pointsを選択すると計算する範囲を変えることができます。初期設定は10になっています。今回は30にして計算を行いましょう。次にGuessとSolvationをDefaultに、Additional Keywordsに何か入っている場合があるのでそこを空欄にして計算を行います。この計算結果から以下のグラフが得られます。
このグラフは分子全体のエネルギーの大きさを表したもので、大きいほどその構造が不安定、小さいほどその構造が安定していることを示しています。極大値が遷移状態です。また、遷移状態のマロンアルデヒドの構造をみると、水素が2つの酸素から等しい距離に位置しており、直観にもあう遷移状態になっています。
このグラフの下にもう一つグラフが出てきます。これは簡単に言うと一つ目のグラフを微分したもの(変数をそれぞれ微分したものの平均)であり、縦軸が0の点は一つ目のグラフにおいて極値であることを表します。
応用編
マロンアルデヒド分子内水素移動の反応式は対照的であるため、グラフも線対称なものが得られます。炭素鎖についている水素を別の原子に置換して計算しても面白いかもしれません。
画像 1 水素を一つフッ素に置換したもの
片側のホルミル基の水素をフッ素に置換したことで、グラフの概形が対称ではなくなっています。
裏話
私はこの計算をするために何度も大学の先生に質問をしました。普通の電卓と違って一筋縄ではいきませんね…。備忘録的な感覚で記事を書かせてもらいました。計算をやってみたいけど、何から手を付ければよいのかわからない、と困っている人の役に立ったら幸いです。
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