シリーズ累計20話!!タイトルの○数字がなくなりました。節々の回は出来る限り実験ネタや個人的なグッとくる出来事を綴るように努めていましたが(これとかこれとか),長期連載では毎回都合よくネタが浮かばず限界を迎えました。シリーズ屈指の大不人気回間違いなし!
ポンコツシリーズ
第14話:ポンコツ博士,釣りをする
ポンコツ博士,釣りを思考する
呂尚蓋嘗窮困、年老矣、以漁釣、奸周西伯。西伯將出獵、卜之。曰、所獲非龍、非彲、非虎、非羆、所獲霸王之輔。於是周西伯獵。果遇太公於渭之陽。與語大説曰、自吾先君太公曰、當有聖人適周。周以興。子眞是邪。吾太公望子久矣。故號之曰太公望。載與俱歸、立爲師。
有二リ呂尚トイフ者一。東海ノ上ノ人ナリ。窮困シテ年老イ、漁釣シテ至レル周ニ。西伯将レニ猟セント、卜レス之ヲ。曰ハク、「非レズ竜ニ、非レズ彲ニ、非レズ熊ニ、非レズ羆ニ、非レズ虎ニ、非レズ貔ニ。所レハ獲ル覇王之輔ナラント。」果タシテ遇二フ呂尚ニ於渭水之陽一ニ。与ニ語リ大イニ悦ビテ曰ハク、「自二リ吾ガ先君太公一曰ハク、『当下ニ/シ有二リテ聖人一適上レク周ニ。周因リテ以テ興ラント。』子ハ真ニ是ナル耶。吾ガ太公望レムコト子ヲ久シト矣。」故ニ号レシテ之ヲ曰二フ太公望一ト。載セテ与倶ニ帰リ、立テテ為レシ師ト、謂二フ之ヲ師尚父一ト。
出典:『史記』斉太公世家第二,Web漢文大系,漢文はフロンティア古典教室より引用
上述の文章は太公望と紀昌(後の文王)との遭遇エピソードである。筆者はChem Stationという化学Webサイトに釣りに関する記事を書くのだ。正直,完全な暴挙である。しかし,釣り文化は史記に記載されており,少なくとも殷以前から続く人類が磨きあげてきた趣味と実益を兼ね揃えた文化である。したがって,思った以上にその行動1つ1つが論理的だ。釣り中に研究へのインスピレーションが湧いたり,釣り○カ日誌のような関係を構築したりするかもしれない。
このような言い訳のもと,筆者は,コロナ陰性になるまでの暇を潰すという名目で,コロナウイルスに無縁の魚達と遊ぶことを目指した。ちょっとだけ科学記事?っぽいことを書いたらと許してくれると信じている。
ポンコツ釣り師,うんちくを説く
釣り人の朝は早い。何故早いのか。それは食物連鎖の原理に基づいている(Fig. 1)。植物性プランクトンは太陽が登る時間帯に光合成をするため日光を浴びに水面近くへ浮上する。プランクトンが海面に溜まっている状況は小魚(イワシ,アジ)にとって絶好のご馳走タイムであり,小魚も海面に浮上する。食物連鎖はここで終わらず,フィッシュイーターの大型魚も明るくなって見つけやすくなったイワシを追いかける形で海面に浮上してくる。大型魚は捕食スイッチが入って食べることに必死であり,人の仕掛け(ルアーと呼ばれる擬似餌や餌釣り)に引っかかりやすく,釣れやすい時間帯となる。ちなみに青物(ブリやカンパチ)と呼ばれる魚はこの早朝に1日の食事の7割を済ますようだ。
したがって,アングラー界で朝まずめと呼ぶ時間帯(日出±1時間前後)は釣りのゴールデンタイムであり,釣りがうまいと言われる人は仕事前の早朝に大物をヒットさせてミッションを完遂するのである。また,近い理由で夕まずめの時間帯(日の入±1時間前後)も釣れやすい。仕事終わりの釣りは爽快であるため,家に帰りたくないリーマンアングラーに夕まずめが多そうだ。一方,有機化学界隈のアングラーは実験終了後の夜釣りか人間オーバーナイトで朝まずめアングラーが多い。ほんと変態ばっかり(n=3)。その他,夜行型の魚やイカを釣る夜釣り文化や潮の潮位による流れの変化を用いた喰わせ技術や,寄生虫がイワシに寄生することで大型魚や鳥に捕食されやすくなったくるくるイワシパターン等の高度な知識も存在するが,説明しだすと一向に釣りができないので割愛させていただく。今回の無駄知識として朝まずめ,夕まずめという言葉を覚えて,釣り人に「おっ」と思われれば十分であろう。
ポンコツ探索者,釣り場を探す
今のご時世,アメリカで釣り場を探索することは容易でGoogle mapとYoutubeを駆使してサクッと探すことができた。研究においてもGoogle ScholarやPubMed, Sci Finder, Reacxys等の台頭で気になる論文をサクッと調べられるようになったため,IT技術の進歩の恩恵を感じた。
一方で,20年前の人は気合いで地図から釣り場を探していたことを考えるとその情熱は恐ろしいものだと思った。研究の世界では図書館でクッソ分厚いChemical Abstractsを開いて物性データや元文献を調べることと同等だろう(今の学生でやったことがある子はいるのだろうか。筆者も5回ぐらいしかない)。上司が突然あの本を開いて調べる情熱を急に思い出して「あの頃はなぁ…」と興味もない昔話をやーやー言い始めたらIT定着世代の若者はうんざりするかもしれないが,うんざりしながらも一応意図だけは汲み取ってあげてほしい。この情熱がこれまでの日本の化学業界を支えていたことに。
さて,アメリカで釣りを始めよう。初めに筆者は近所で釣果情報があるビーチで地形を確認するべく昼間に釣りを試みた。しかし,このビーチにたどり着くためには,アメリカに来て最高クラスのアスレチックをするハメになり,正直焦った。油断したら死ぬレベルにもかかわらず,釣竿とルアーボックスで両手は埋まり,靴はCrocsだった。合成研究において,独自の合成ルートを通すためには,針の穴のような実験をしなければならない時もある。この類比思考の末,筆者は体調が悪くても険しい道を通らないといけない時もあると受け止め,命懸けでアスレチックに挑んだ。なお,無事に到着できたものの,隣に舗装されている普通の道があることに気付いて愕然とした。化学研究に例えるなら,ヘロヘロになりながら「やった!とうとう作れた!」と思っていたら,ちゃんと調べると簡便な調製法が既知であったようなものである。物事を行うときには思いつきの衝動も大切だが,事前の入念な調査も必要であることを改めて教えられた。まぁ,筆者の人生は常に行き当たりばったりなのでこんなもんだ。
ポンコツ釣り師,魚介類と格闘する
夕まずめごろになった頃,ガツンと大きなバイトがきた。壮絶なバトルの中で丁寧にやりとりしていたつもりだったが,波打ち際で針が外れてしまい,逃してしまった(いわゆるバラシという行為である)。あのフォルムは間違いなく筆者が求めるカリフォルニアハリバット(ヒラメ)だった。ちなみに,日本では左ヒラメに右カレイと言われるようにお腹を正面に向けた時,左に目と口がついているのがヒラメである。しかし,カリフォルニアハリバットは右ヒラメがスタンダードだそうだ。在米中にぜひ釣って違いを自分の目で確認したい。
次に可愛いサイズのエイがヒットした(Fig. 2)。エイのパワーは竿によってはへし折られるほど強いので引きを楽しむという点では良かった(ビチャビチャの雑巾を無理やり竿で引っ張る感じ)。エイに刺されたら大抵救急車送りにされるのでペンチ等を使用して釣針を外そう。
ポンコツアングラー,次回作を準備する
ピーチ釣りは海岸で夕日や朝日を迎えながらするので非常に楽しいのだが,範囲が広すぎてどのポイントがベストなのかを特定することが難しい。離岸流という流れが強い所で釣りをしたいが,サーファーもこの離岸流で高い波を待ってサーフィンを楽しむため,サーファーが多い南カリフォルニアのビーチで思うように釣りをすることは困難だった。その他,このビーチはどうやらヌー○ィストビーチで浜辺に裸の進撃の巨人がプカプラ歩いており,うまく彼らも避けなければならずポイント探しに大変苦戦した。したがって,堤防からの釣りがベターであると考えた筆者は堤防に移動して釣りを開始した。具体的なヒットの様子等については次回以降(ネタが尽きたら)に回したいが,アメリカのゲームフィッシュとして知られるSpotted sand bassやKelp bassを釣ることに成功した(Fig 3)。あとサバも釣った。
一応,アメリカで釣りをするというミッションをこなした筆者は無事にコロナ陰性になったため,次週から復帰することになった。発症から陰性になるまで約10日間かかり,もはや長期休みのような感じになった。さぁ,気分転換も終わったし,ぼちぼち実験しますかと筆者は改めて仕事に取り組むのであった。
〜〜続く〜〜
アメリカでのタックルセッティング
竿:St. Croix STRIUMPH® SURF SPINNING RODS TSF80M2 (アメリカで購入)
リール:Shimano ヴァンフォード C3000HG or Shimano サステイン 4000 XG (いずれも日本から持ち込み)
糸:Shimano ピットブル 8+ (太さ 1.0号 または1.2号)
リーダー:シーガー Pink label (フロロカーボン 20 LB, 現地購入)
使用ルアー:① メジャークラフト Jigpara Spin 18g, ② Shimano コルトスナイパー 28g (メタルジグ) ③ DAISO バイブレーション 15 g (針はOwner社のものに替えた,いずれも現地で購入)。