第433回のスポットライトリサーチは、大阪工業大学大学院 工学研究科化学・環境・生命工学専攻 高分子材料化学領域微粒子材料化学研究室(藤井研究室)の津村侑亮(つむら ゆうすけ)さんにお願いしました。
藤井研究室では、機能性粒子の合成およびその界面吸着現象を利用したソフト分散体(エマルション、泡、リキッドマーブル、ドライリキッド)の安定化に関する研究に取り組んでいます。今回の研究は、表面を固体粒子で覆うことで気中にて安定化した液滴(リキッドマーブル:LM)をマイクロリアクターとして利用する研究で、「ACS Applied Materials & Interfaces」誌に掲載されるとともに、プレスリリースされています。また、掲載誌のTwitterでも紹介されています。
Photo/Thermo Dual Stimulus-Responsive Liquid Marbles Stabilized with Polypyrrole-Coated Stearic Acid Particles. #ACSAMIhttps://t.co/iETSKK7Z4M pic.twitter.com/MurKCN40xo
— ACS Applied Materials & Interfaces (@ACS_AMI) September 12, 2022
Yusuke Tsumura, Keigo Oyama, Anne-Laure Fameau, Musashi Seike, Atsushi Ohtaka, Tomoyasu Hirai, Yoshinobu Nakamura, and Syuji Fujii
ACS Applied Materials & Interfaces 2022, 14 (36), 41618-41628.
研究室を主宰されている藤井秀司 教授より津村さんについてコメントを頂戴いたしました!
津村君は、強い向上心をもって小生の研究室に入研してくれました。研究室での活動を開始してから、水を得た魚のように実験に取り組み、周りの人を巻き込みながら様々なアイデアを出して、リキッドマーブルの研究を大きく前に進めてくれています。今回、研究を学術論文として発表できたのは、津村君の負けん気と執念、そして手先の器用さによるものと思います。今回の論文掲載が刺激となり、さらに研究に熱が入っています。誰も思いつかないようなアイデアを形にして、自分を表現してほしいと思います。
Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。
光応答性のリキッドマーブル (LM)を、マイクロリアクターとして利用することを提案した研究です。
LMとは、疎水的表面を有する固体粒子が気液界面に吸着することで大気中にて安定化した液滴(Liquid-in-Gas 型分散体)のことをいいます。LMの直径は、通常ミリメートルサイズであり、体積は数マイクロリットルから数十マイクロリットルです。LM内部にカプセル化された液体は、固体粒子によって被覆され守られているため、LMが接触する基板にぬれ広がらず、簡単に移動させることができます。
本研究では、光を熱に変換する共役系高分子であるポリピロール(PPy)を相変化物質であるステアリン酸粒子(SA)に被覆したコアシェル型粒子(SA/PPy粒子)を安定化剤として利用し、LMを作製しました。SA/PPy粒子に近赤外線光を照射すると、PPyが発熱し、その熱によってSAが融解し、液体のSAがPPyシェルを破って漏れ出てきます。ガラス基板上に置いたLMに対して下部から近赤外線光を照射すると、基板とLM内部液の接触を遮っていたSA/PPy粒子の融解、基板と内部液の接触、LMの崩壊・内部液の放出がカスケード的に起こることが分かりました (a)。さらに、2つのLMを接触させた後、接触部に近赤外光を局所照射すると、LMの合一、内部液の混合が誘起され、マイクロリットルレベルでの化学反応を起こすことができました (b)。本研究で開発した手法は、望みのタイミングで遠隔的に、微量の反応試薬を用いた化学反応を簡便に起こすことができる点で魅力的だと考えています。
Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。
思い入れがあるのは、LMを合一させ化学反応を行うための光照射装置の開発です。光照射の位置調整が精密にできるように、試行錯誤して装置を作製しました。開発初期段階では、装置の基板に高分子プレートを用いていましたが、親水性が高いため実験の作業性が低く、実験に長時間かかってしまうという問題がありました。そこで、ロウソクの煤で表面を覆った疎水的なガラスプレートを基板として用いることで、この問題を解決することができました。装置の開発にあたり、研究室のメンバーと意見を出し合い協力したことは、とても良い経験になりました。
Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?
本研究で最も苦労したところは、光照射によってLMが合一するメカニズムの考察です。合一メカニズムの解明には、現象の詳細な観察が重要と考えました。そこで、ガラス基板上のLMに対し、下部から光を照射し、LMの状態変化をハイスピードカメラで観察しました。その結果、光照射によってガラス基板とLMの内部液との接触を遮っていた粒子が融解し、基板上にぬれ広がる様子が確認できました。この結果から、粒子の融解により、基板と内部液の距離が短くなり、両者が接触することが分かりました。光照射によるLMの合一も、同様のメカニズムによって起こり、内部液の接触・混合が起こると考察しました。
Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?
私は来年度 (2023年度)から、化学メーカーで働くことが決まっています。すでに仕事内容の概要は伝えられており、主に高分子材料の設計・開発を行うことになっています。研究室で学んだ高分子化学・界面化学の知識や経験と企業独自の技術を融合させることで、人々の生活をより快適にする高分子・界面材料の製品開発に取り組み、社会に貢献したいと考えています。残りの在学期間で、自身の幹を強くするため、常に基礎を大切にして研究を行い、様々な観点から現象を見て、理解できるように努力したいと思います。そして何より、これからも楽しんで化学と関わっていきたいです。
Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。
私は、出来るかどうかではなく、とにかくやってみるということが非常に大事だと思っています。研究以外のことでもやってみないとわからないこと、やったからこそわかることも多くあります。また、自身が取り組む研究とは異なる分野にも目を向けることも重要だと思います。私自身、研究で行き詰まった時は自身の研究とはあまり関係がないように思える論文を読むことで他分野の知識を得ました。そうすることで、新たなアイデアが浮かび、研究に活かせたと思います。
最後に、本研究を遂行するにあたり、ご指導いただき、研究の楽しさ・面白さを教えていただいた藤井秀司先生、研究室生活を支えてくださった研究室の皆様に感謝申し上げます。
研究者の略歴
名前:津村侑亮(つむら ゆうすけ)
所属:大阪工業大学大学院 工学研究科化学・環境・生命工学専攻 高分子材料化学領域微粒子材料化学研究室(藤井研究室)
研究テーマ:共役系高分子-脂肪酸複合粒子で安定化された光・熱応答性リキッドマーブルの開発