有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2022年7月号がオンライン公開されました。
筆者は研究費関係に追われまくってる日々ですが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。有機合成化学協会誌を読んで一息つきたいものです。。。
今月号も充実の内容です。
キーワードは、「アニオン性相間移動触媒・触媒的分子内ヒドロ官能基化・酸化的クロスカップリング・エピジェネティクス複合体・新規リンコマイシン誘導体」です。
今回も、会員の方ならばそれぞれの画像をクリックすればJ-STAGEを通してすべてを閲覧することが可能です。
巻頭言:卒業研究が始まる前に「甲種危険物取扱者」の国家資格取得を
今月は、千葉大学大学院工学研究院 赤染元浩教授による巻頭言です。
タイトルから、いつもの巻頭言と雰囲気が違うぞ?と思った人も多いのではないでしょうか。赤染先生による寄稿記事、必読です。筆者も研究室に広めようと思います。
アニオン性相間移動触媒の創製と不斉フッ素化反応の開発
分子中の水素をフッ素で置換すると、代謝安定性や脂溶性などの物性を改善し、さらには、生物活性を向上させることが可能です。本論文では、難関とされていたアルケン類の不斉フッ素化について、立体制御法に向けた触媒デザイン、さらに、フッ素化反応の実例と反応機構が詳細に述べられています。是非、ご一読ください。
非活性化アルケンおよびアルキンに対する触媒的分子内ヒドロ官能基化反応の開発
単純なアルケンやアルキンといった炭素-炭素多重結合に対する分子内ヒドロ官能基化反応は、生物活性化合物に多く含まれるヘテロ環を原子効率100%で与える有用な反応です。高価な遷移金属触媒を用いる方法とは対照的に、本論文では典型元素化合物を巧みに利用し不飽和結合を活性化する多置換ヘテロ環合成法が反応機構の考察とともにわかりやすく述べられています。是非、ご一読ください。
ホウ素およびケイ素エノラート間の酸化的クロスカップリング
金属エノラートは調製容易かつ官能基化された優れた炭素求核剤です。本総合論文ではホウ素エノラートとケイ素エノラートの反応性の違いをうまく利用することでこれらを交差選択的に酸化的カップリングする筆者らの研究が紹介されていますので、ぜひご一読ください。
エピジェネティクス複合体を標的とする創薬化学研究
遺伝に抗わず、“育ち”の環境を制御する分子の創製です!筆者らは、ヒストンの脱メチル化酵素阻害剤を機能化し、エピジェネティクス複合体を標的とした創薬リードを創製されました。合理的で精緻な分子設計により、ドラッグデリバリー・二重標的同時制御・タンパク質間相互作用阻害・標的タンパク質分解を実現されました。
ErmB遺伝子を有する耐性肺炎球菌および耐性A群溶血レンサ球菌に有効な新規リンコマイシン誘導体の創出
久村 興*・梅村 英二郎1・平井 洋子・味戸 慶一2
*Meiji Seika ファルマ株式会社 製薬研究所
1現所属:公益財団法人微生物化学研究会微生物化学研究所
2現所属:一般財団法人北里環境科学センター
「サイレント・パンデミック」といわれる薬剤耐性菌に対抗するため、創薬化学者は、何を手掛かりとして、どのように考え、如何に複雑な有機分子を精密に合成していくのか。有機合成化学の醍醐味を堪能できる教科書的な総合論文です。最適化された誘導体に関しては、動物を用いた感染治療実験でも有効性を確認しています。
Review de Debut
今月号のReview de Debutは1件です。オープンアクセスですのでぜひご覧ください。
・C19ジテルペンアルカロイドTalatisamineの全合成 (近畿大学薬学部)高島克輝
Message from Young Principal Researcher (MyPR):有機化学の研究への誘い
今月のMyPRは、名古屋市立大学の雨夜 徹 教授です。筆者も学生時代から色々なお話をさせていただいている先生です。記事を読んで、雨夜先生のように研究室をもちたいと強く思いました。必読です。
感動の瞬間:生物有機化学研究から生物無機化学研究への展開で味わった幾つかの感動
今月号の感動の瞬間は、大阪大学大学院工学研究科 伊東 忍 教授による寄稿記事です。
ホールインワンの感動という言葉に感銘を受けました。私も自身の研究を見つめ直そうと思いました。必読です。
これまでの紹介記事は有機合成化学協会誌 紹介記事シリーズを参照してください。