アカデミアから民間企業への移籍には、ある種の壁が存在するという。また、転職を考えながらも躊躇したり、転職後につまずきを感じたりする研究者や技術者が少なくないと聞く。実際はどうなのだろう。
誰もがいきがいを持って働く「『人財躍動化』を通じて、社会を変える。」をビジョンとして掲げるThe Adecco Group Japan。同社で人財紹介に特化したサービスを展開する「LHH転職エージェント」は、「ビジョンマッチング」という同社が共通して掲げる独自の手法で、求職者と求人企業のベストマッチを実現する。
アカデミアと民間企業の間に障壁があるとするなら、それを取り払うのも同社コンサルタントの役割だという。ライフサイエンス&メディカル紹介部 製薬課の古森 一穂氏にその実例をうかがった。
キャリアも実力も申し分なし それでも起こった予期せぬできごと
Y氏は、ある公的研究機関に長く勤務していた研究員。年齢は40代後半だが、その任期が2023年3月末で満了を迎えることから、前倒しで転職を決意した。
古森氏が最初にY氏と面談したのは2022年はじめ。Y氏は任期満了より1年余りも早く転職の準備をはじめたわけだが、それは「年齢的にもアカデミアから民間への移籍は容易ではなく、時間がかかるだろうと考えてのこと」だったという。
「Yさんは実験などの手技に長け、近年では遺伝子データ解析に携わっていました。外部機関や企業との共同研究などの経験もあって、民間企業で働くことに抵抗感がないというより、むしろ民間で自分のキャリアを生かしたいと望んでいました。」
LHH転職エージェントのコンサルタント、古森氏が所属するライフサイエンス&メディカル紹介部 製薬課は、製薬企業を中心に、CROやライフサイエンス関連の商材を扱う企業を担当する部署。そのなかで古森氏は、先端技術を持つバイオベンチャーへの転職案件を担当することが多いという。
前職は、人材派遣サービス会社の営業職。製薬企業や研究機関などに、研究者や技術者を送り出し、就業後のフォローアップも行っていた。アカデミアを含む研究開発の現場に明るく、就業後の研究者・技術者の悩みやつまずきもよく知っていることから、Y氏の担当には古森氏が入った。LHHでの人財コンサルタント歴は6年目。これまでに80件ほどの転職案件を成約に導いてきた実績を持つ。
Y氏へのヒアリングを通して、専門性の高さもキャリアも申し分はないレベルだと古森氏は感じた。そして、あるバイオベンチャーを思い浮かべた。
「その会社を私は以前から知っていて、経営者とも面識がありました。Yさんに打ってつけだと思って紹介すると、当人も強い関心を示しました」
話はトントン拍子に進み、Y氏の一次面接が決まった。面接はリモートで行われたので、古森氏も立ち会うことができた。同社の各部門に所属する4人の研究者も加わり、面接官を務めた。それぞれの専門的な立場から、多角的にY氏の資質・能力を知りたいという意図からだと古森さんは推測した。それはとりもなおさず、企業側もY氏のキャリアと技術力に興味を持っていることの表れでもある。Y氏の面接に、古森さんは何の懸念も抱いていない。滑り出しも良好だった。
ところが……である。
面接半ばで、気になる場面があった。ある質問に対し、Y氏が面接官が望んでいる答え以上の説明をしているように感じたことだ。
双方向のコンサティングだからできた ネガティブイメージの払しょく
古森氏がY氏の転職先の候補としたのは、遺伝子解析サービスを提供している企業だった。小規模なベンチャーとはいえ、創業して20年近い実績がある。バイオインフォマティシャンを求めていた。
「たまたま、このときは求人があったのですが、仮に募集がなかったとしても、こちらから『このような人財がいます』とYさんを紹介するつもりでいました」と古森氏はいう。
LHH転職エージェントの360度式コンサルティングは、求職側と求人側を分担するのではなく、ひとりのコンサルタントが双方を担当する。それが、求職者と求人企業の意向を綿密にすり合わせていく「ビジョンマッチング」を成立させる大きな要件となっている。加えてこのように、募集がなくてもその企業に適した人財紹介を直接かつ迅速に提案できるのも、その双方向性に理由がある。
一次面接の席上、Y氏が長い時間をかけて説明をされていた際、このやり取りは合否に関わるポイントになるのでは、と感じた。
「4人の研究者は、かなり専門的で仔細な質問をしていました。時間も限られていましたから、聞きたいこと、確かめたいことはいろいろあったと思うのですが、この場面では相手が望む対話のキャッチボールとは少々ズレが生じているように感じました。」
相手に理解してほしいがための説明ではあったのだが、ともすれば「コミュニケーション力に問題あり」「スピード感に欠ける」といったネガティブな印象を与えかねない。
一次面接後の企業側へのヒアリングで、それとなくその場面について尋ねると案の定「コミュニケーションの取り方について、うちのメンバーと合うかどうかは少し気になりました」という答えが返ってきた。古森氏はY氏の人柄などについて説明し、ネガティブな印象が払しょくされるように努めた。
一方、Y氏に対しては、一次面接で古森氏が感じたことを伝えた。当人には、自覚が無い様子だった。
幸い企業側は、Y氏のキャリアと技術力を買い、採用には前向きだった。二次は対面の役員面接。Y氏の職業観や今後のキャリアビジョンなども尋ねられることになる。古森氏からいくつかのアドバイスを受けて、Y氏は二次面接に向けた準備に入った。
見極めにくい企業風土とのマッチングが 研究者・技術者の転職を成功に導く
“アカデミアの経験が長い研究者は、スキルはあるがカルチャーの点で一般企業にはなじみにくい”とよく言われる。自身の関心に基づき研究を進められるアカデミアの世界に対し、企業の研究開発には利益の追求という目的があり、採算性も外せない。カルチャーギャップになじめず、転職してからつまずく人が少なからずいるというのである。
しかし、古森さんは「民間企業側から見れば、研究者に対する偏見、研究者側から見れば民間企業に対する誤解があると思う」という。
「アカデミアから民間企業に転職し、活躍されている方はたくさんいます。少なくとも、私が担当したケースで、転職後の企業になじめなかったという人はいません。そのようなケースがまったくないとは思いませんが、あるとすれば、求人企業の風土やビジネスに対する姿勢などを、よく知らないまま転職してしまった場合ではないでしょうか」
知識も気持ちの準備もないまま、異文化のなかに投げ込まれれば、誰もが戸惑う。似たようなことが、アカデミアから民間企業への転職でも起こりうる。しかし、企業風土や社内事情は、一般に公開される求人情報からは推しはかりにくい。求人企業と自身との相性も、求職者がひとりで客観的な判断を下すには荷が重い。転職にあたり、Y氏もその点を気にしていた。
「Yさんは、民間企業に移り、自分のゲノム解析の専門性を社会に生かしたいと考えていました。ですから、利益ばかりを重視しすぎる企業でも困る。その企業がゲノム解析でどう社会に貢献しようとしているのか、また遺伝子テクノロジーを扱ううえでの倫理観はどうなのか、そこをしっかり見極めたいと言っていました」
研究者・技術者はこのように、給与や雇用条件ばかりではなく、仕事に社会性とやりがいを求める傾向が強い。古森さんが「ビジョンマッチング」において重視するのもその点だ。
求職者の職業観と企業ビジョンのマッチングである。そこに、LHH転職エージェントのコンサルタントが、第三者として介在する価値がある。そして、それはThe Adecco Groupが掲げる「人財躍動化」、すなわち誰もが働きがいを感じて活躍できる社会環境を創るという企業ビジョンと重なる。
二次面接を終えたY氏は、意気揚々としていた。ゲノム解析技術の汎用化について「自分より一歩も二歩も先を見据えている」と企業側を評した。
その後まもなくY氏の入社が決まった。長期戦を覚悟していたY氏だが、転職が決まるまでの期間は、古森さんとの最初の面談から3か月もかからなかった。給与も現職と同等の年収が認められた。
「実はYさん、転職で年収が100万円くらい下がってもやむを得ないと考えていたんですよ」と古森さん。「まずは現職と同等で交渉をはじめましょう」とアドバイスし、それが叶ったのだと言う。
就業後に、Y氏から「新しい職場で元気にやっている」というメールがあった。1通だけ届いたそのメールの文面から、満足げにほほ笑むYさんの表情が想像された。企業側からも、「入社後、専門性を活かして即戦力としてご活躍いただいている」と高い評価を受けているという。
「バイオベンチャーは知名度が低いけれど、先鋭特化した部分が各社にあって事業内容がわかりやすい。そして、なかにはキラリと光る将来性を感じさせる企業も少なくありません。ただし、ベンチャーの求人情報には、表立って目につきにくいものも多い。弊社では、そのような一般にはあまり公開されない情報も提供できます」と古森氏。
そして今回のY氏の事例のように、業種・業態ごとに専門性の高いコンサルタントが求職者とともにベストマッチする企業を見出していく。今すぐに転職をというのでなくてもかまわない。「自身のキャリアを生かした転職の可能性を探りたいと思ったら、ぜひ声をかけてください」と古森氏はいう。心強いサポーターだ。
LHH転職エージェント コンサルタント:古森 一穂
大学卒業後、理系の研究者・技術者・専門職派遣の人材サービス会社に入社。営業職として、提案営業と就業後フォローに従事。担当したクライアントは、製薬・食品・化粧品・化学・バイオベンチャー業界、大学・公的研究機関等。
2017年にLHH転職エージェントにコンサルタントとして転職。現在はバイオベンチャーを中心に、創薬研究や遺伝子、再生医療といったライフサイエンス分野の転職支援を担当。医療分野には深い知見が持っており、アカデミア出身者の転職支援実績も豊富で採用企業からも高い評価を得ている。
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