ポンコツシリーズ一覧
第9話:ポンコツ博士,Yosemiteに行(ゆ)く
ポンコツ理系人(りけひびと),旅に出る
月日は百代の過客にして,行かふ年もまた旅人なり。
舟の上に生涯を浮かべ,馬の口とらえて老をむかふるものは,日々旅にして旅を栖(すみか)とす。古人も多く旅に死せるあり。
予もいづれの年よりか,片雲の風にさそはれて,漂泊の思ひやまず,海浜にさすらへ,去年の秋江上の破屋に蜘の古巣をはらひて,やゝ年も暮,春立る霞の空に白川の関こえんと,そゞろ神の物につきて心をくるはせ,道祖神のまねきにあひて,取もの手につかず,もも引の破をつづり,笠の緒付けかへて(以下略)
━奥のほそ道 序文(一部抜粋)━
米国に辿り着き,はや半年,筆者の心情を表す文章として引用した。筆者がリアルタイムで研究記を着実に書いてきたのは海外旅行回を書くための言い訳に過ぎなかった。すなわち,在米中に必ず行きたいリストにあったYosemite National Park旅のお誘いが隣のラボの方からあったのだ。時はきた,それだけだ。
筆者は芭蕉のように旅の神に取り憑かれてそわそわし,平常心で実験できなくなったので,この問題を解決するために衣服と帽子をリュックに詰め込み,早速Yosemiteへ向かった。
うんちく
Yomemite National Park (詳細はWikipedia)
場所:カリフォルニア州シエラネバダ山脈 (google map)
敷地面積:3,080km2 (東京都の約1.4倍の広さ)
移動時間:車でサンフランシスコから3時間半,ロスから6時間
中学校の英語教科書がSunshine(YukiとTakeshiだったので多分)で,授業で公園とセコイアについて知った。また,10年前から今なお愛用中のMacの初期Ver.がYosemiteだった。Mac PCで平成を駆け抜けたアラサーは自ずとYosemiteのEl Capitan, Sierra, High Sierraに縁がある。
ポンコツ氏のYosemite Trip Day 1-2
筆者らは3泊4日(木〜日)の日程でYosemiteを攻略することにした。若い人ならガンガン日程を詰め込めるだろうが,アラサーにはキツい。1日目は4時頃に仕事を切り上げてYosemite手前の町で宿泊,2日目は土日激戦になる駐車場の様子見と平地散策。3日目に初級者用のMist Trailを攻略し,4日目に筋肉痛で悲鳴を上げる可能性が高い足腰を労わるためにKing Canyon National Parkでジャイアントセコイア達を拝見して癒されてから帰宅する充実満喫プランである。
宿泊先はYosemiteから車で1時間程度の少し離れたモーテルに宿泊するのが経費を節約できてちょうど良いそうだ(一室料金で約200ドル/最大4人)。近くのモーテルは400ドル超えが当たり前になってくるらしい。もしYosemite内でキャンプ場を確保したいのであれば,予約開始からタップ連打をする必要があるらしい。自然公園でキャンプすることは極めて趣があると思うので,ライブチケットの確保で鬼タップが得意な人は検討して欲しい。
では早速Yosemite内の風景を見ていこう。う〜ん,神々しい…。Half Doomと呼ばれる花崗岩の一枚岩でできた石山が筆者らを出迎えてくれた(fig. 1A)。また,インスタ映え必須のポイントであるトンネルビューからEl Capitan(Fig. 1B 左の岩山)を見ることができた。
その他,実物のEl Capitanを間近から撮影したり,6月頃しか見ることができないYosemite Fallを拝見することができた(Fig. 2)。*今年はYosemite Fallの全容が見られるGlaceir Pointが閉鎖されており,上からの撮影はできなかった。残念である。
ポンコツ氏のYosemite Trip Day 3
午前7時に起床し,目的のMist Trailに向かった。Mist Trailは初級者でも登山可能なYosemiteで最も人気のトレッキングコースであり,水飛沫でびちゃびちゃになるVernal Fall,Emerald Poolを経てNevada Fallまで上がるコースである(Fig. 3)。所要時間は往復約5-6時間で1L程度の水を持っていけば問題なく登頂でき,小学生高学年程度から攻略可能である。また,途中の分岐でHalf doomへ行けるルートもあるがガチの登山道4mile以上が追加され,攻略には事前の登山許可証と下山時間も考慮した早朝スタート,本格的な装備が必要である。
決して山を舐めていた訳ではないが,歳を取って股関節がかなり硬くなった+何故かジーンズ着用で登山を試みる筆者にとってそこそこキツかった。しかし,多くの自然に触れ合うことができて非常に良い気分転換になった(Fig. 4)。
下山後,Yosemiteで登山家の聖地である有名なピザ屋で昼食を頂いた。下山後の疲労や場所によるバイアス抜きにしても現時点で一番美味しいピザだった(Fig. 5)。また,BarがあったのでYosemite限定カクテルを振って貰い(予想よりデカい…),十分にくつろいでからモーテルに帰還した。
ポンコツ氏のYosemite Trip Day 4
朝起きるとほどよい筋肉痛が筆者を迎えてくれた。おそらく留学前の筆者ならそのまま足を攣ってピクリとも動けなかっただろうが,バーガーショックからの回復と身を清める目的でラボ終わりに24時間営業ジムのプールとスパに通い始めたことが功を奏したようだ。
研究活動において心・技・体が充実した時の方が成果は出やすいのは経験上分かっている(というかミスが減る)。一方で「ゴミみたいな状態でも,いいものを作るのがプロ。」と教えられたので,それはそれで大切なこととして心に留めておきたい。ただ,ずっとゴミ状態が続くとダメな気がするので,今後,体力・気力の維持を何とか努めなければいけないなと思った。
話がかなり逸れてしまったが,戻ってジャイアント・セコイア達を見ていこう(Fig. 6)。
うーん,デカい。彼らはなんと1700歳オーバーの長老達であり,彼らが自身の生合成で生き抜いてきた歴史の中では,人々の科学の進歩などまだまだちっぽけなものなんだなぁと考えさせられた。しかし,もしかすると彼らはそのちっぽけなものが発展する様を面白そうに見ているかもしれないなぁ。と,怪しげな哲学思想を得ることができた。
ポンコツ登山道,まとめる
筆者はYosemiteにていろいろなものを実際に見て経験する大切さを改めて実感した。絶賛円安中のタイミングで一時帰国できれば,知り合いの先生方に挨拶するついでに全国の名所ふらふら旅でもしようか。
読者のみなさんもアメリカ西海岸の学会に参加してもし暇と予算があればYosemiteに行ってみよう。ハイキングで体力の衰えた先生や先輩の心を折りつつ,大自然に触れ合って自分の頭の中や価値観をスッキリすることもまた勉強だ。
最後に,芭蕉を見習ってポンコツ氏の人生初俳句を残し,筆を置く。
俳句①:五月晴れ,Yosemite滝は,艶雪解(つやゆきげ)
俳句②:隙あらば,Mist Trail,滝飛沫(たきしぶき)。
気分転換を終えて憑き物がとれた筆者は,再び実験に戻ることにした。
〜〜続く〜〜
関連リンク・余談
いらすとや :アイキャッチ画像の素材引用元。
俳句の解説:① 6月の晴天にYosemite滝は春を告げる雪解け水によって美しい滝として現れる。この時間差はコツコツ積み上げた研究成果を晴れ舞台の学会で力強く発表して輝く学生のようだなぁ。素晴らしい成果がYosemite滝のように他人を感動させるためには,表に見えない積み重ね期間が必要なのだから世間も筆者も辛抱強くならないといけないなぁ…という気持ちを込めた初の一句である。
とか解説すると,なんか良さげな科学記事っぽくなりませんかね…?景色以外の心情を575で納めることが難しく,面倒臭くなったので時間差を表すためにメイン季語の夏は2,春は1で入れちまえと投げやりになってできた1句である。いきなり基本ルール無視で申し訳ないが化学俳句ガチ勢に添削お願いしたい(10点中2点ぐらい頂けるだろうか?)。②の情況は現地で味わって欲しい。
奥のほそ道:序文解説リンク。芭蕉に興味が湧いてしまった方用に全文現代訳もリンクしておく。
いい日旅立ち:名曲を聴けば俳句をうまく書けそうな気がしたので試みた。しかし,筆者の国語力に影響はなく,国語力の向上も積み重ねであることが分かった。