実験系の化学研究を進める上で機器分析は重要であり、時には特定の分析手段が鍵となって成果が得られる場合があります。しかしながら分析機器は高価であり、すぐに購入できるものではありません。そこで今回は外部の分析機器を活用する方法を紹介します。
はじめに
大学では全学の共通設備として分析センターがあったり、学部単位で共通の分析機器を保有していたりと、化合物合成においてメジャーな分析機器は広く利用できる環境が整っていると思います。それでも、ニッチな物性を測定する機器や最新の大型分析機器に不自由なくアクセスできる環境は多くないと想像します。企業においては分析機器へのアクセスは限られていて、下記で紹介する分析会社以外は、それぞれの分野に特化した機器を保有しているイメージがあります。
しかしながら研究開発を進める上では、自分のチームではアクセスできない機器の測定データを何とか取得したいときが時々あり、そんなときは、以下で紹介する二つの方法があります。
分析会社への依頼
一つの方法は、受託分析を専門に行う会社(分析会社)に依頼する方法があります。下記を例とする分析会社では、顧客のリクエストに基づいて分析を行っており、企業の研究開発においてはよく利用されています。
分析会社では数多くの分析機器をそろえており、化学分析だけでなく、素材、エレクトロニクス、電池、危険性、感性などに関連した評価を行っています。そしてそれぞれの分野に対して確たる技術を持ったエンジニアが分析業務に従事されているため、絶対に信頼できる結果が得られます。また顧客対応を行う営業担当者がいるため、手厚いカスタマーサポートを受けることができ、例えば分析手法が分からなくても、適切な分析方法を提案してくれます。
典型的な分析の流れは、まず依頼者は営業担当者と分析内容と価格についてやり取りを行い、同意したらサンプルを指定された場所に送付します。分析会社では依頼内容に基づいて前処理、機器分析を実施します。分析結果は、考察などが加えられてレポートとしてまとめられて依頼者に送られます。依頼者は、レポートの内容に対して質問があれば担当者を通じて聞き、問題なければ支払い処理を行って分析依頼は完了となります。
このように分析会社に分析依頼をする場合フルサポートを受けられますが、その分相応の費用が掛かります。そのため、限られた予算でいかに分析項目とサンプル数を絞り、知りたい情報を得ることができるかが依頼者の腕の見せ所となります。
大学等の共同利用機器の活用
近年、大学等が保有している分析機器をより有効に活用するため、外部に公開する動きが高まっています。下記は、外部利用をまとめたプログラムの一例であり、大学等が個別に実施している場合も多くあります。
共同利用機器の活用では、使いたい機器が公開されているかを調べ、有れば研究機関の窓口に機器利用を申請し、分析を行うのが典型的な流れです。分析自体は依頼者自身が機器を操作して測定する機器利用とスタッフの方が機器を操作して測定頂く技術代行の2種類が主流の方法です。機器利用の場合は初回に施設利用方法と分析機器の使い方を担当者に教えて頂いた上で利用開始します。
価格は下記の要素で決定され、多くの場合は料金表がホームページに開示されています。分析会社に依頼するより安価で済む場合が多いですが、自分で赴いて測定したり、生データを解析したりと、依頼者自身で行う手間は多くなります。請求は、月ごとにまとめて請求される場合が多いです。
- 機器利用か技術代行:技術代行の方が高価になります。
- 依頼者の所属:大学・公的研究機関が最も安価で、中小企業、大企業と会社の規模が大きいとより高価な単価が設定されています。
- 測定データの取り扱い:測定データを提供したり、何かしらの報告書を書いたりと成果を開示するオプションと非公開、NDA締結などのオプションがあり、公開しないほど高価になります。
どちらの方法が良いかは個々の状況次第ですが、測定数が少なく馴染みの無い機器分析であれば分析会社に依頼する方が確実かもしれません。一方、依頼者がその装置を使用した経験があり、測定数が大量にある場合や測定条件のスクリーニングから始める場合には、共同利用機器を活用し自分で測定したほうが効率が良いと思います。
安易に様々な分析機器に試すのは得策ではありませんが、現状の打破や新しい発見につながりそうな場合には、研究室のスタッフや上司に機器の外部利用を提案してみてはいかがでしょうか。