[スポンサーリンク]

スポットライトリサーチ

鉄触媒によるオレフィンメタセシス

[スポンサーリンク]

第386回のスポットライトリサーチは、沖縄科学技術大学院大学 サイエンス・テクノロジーグループの竹林智司(たけばやし さとし)博士にお願いしました。

竹林博士は、有機金属化学を用いた新規触媒反応、新規化合物の開発を主に研究されており、具体的にN2窒素の水素化を目指した均一触媒の開発と卑金属の錯体を利用した触媒反応の開拓を進めています。プレスリリースの研究内容はオレフィンメタセシス反応についてで、この反応を促進する触媒には貴金属であるルテニウムが頻繁に使用されていますが本研究では、より豊富な金属である鉄の新しい錯体を設計し、オレフィンメタセシス反応の触媒として使用できることを実証しました。この研究成果は、「Nature Catalysis」誌およびプレスリリースに公開されています。

 Iron-catalyzed ring opening metathesis polymerization of olefins and mechanistic studies

Satoshi Takebayashi, Mark A. Iron, Moran Feller, Orestes Rivada-Wheelaghan, Gregory Leitus, Yael Diskin-Posner, Linda J. W. Shimon, Liat Avram, Raanan Carmieli, Sharon G. Wolf, Ilit Cohen-Ofri, Rajashekharayya A. Sanguramath, Roy Shenhar, Moris Eisen, and David Milstein

Nat. Catal. 2022.
DOI: 10.1038/s41929-022-00793-4

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

鉄触媒によるオレフィンメタセシス反応の開発です。Grubbsによって開発されたルテニウム触媒によるオレフィンメタセシス反応はノーベル化学賞受賞の理由となった重要な反応ですがルテニウムは貴金属であり、より安価でグリーンな触媒が求められています。鉄はルテニウムの同族元素であり、また地球上で最も豊富に存在する遷移金属でもあるため、Grubbsはいち早くこの点に着目し、鉄触媒によるオレフィンメタセシス反応の開発を2000年ころから行っています。またこの研究課題は多くの有機金属化学研究者()、計算化学研究者()を引き付ける魅力的な挑戦でもあります。しかしながらこれまで鉄触媒によるオレフィンメタセシス反応は触媒活性が低く、またその反応機構は不明でした。本研究では鉄触媒によるオレフィンメタセシス反応を開発し、その反応機構を研究しました。

ターゲット反応と今回開発した触媒

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

この研究、4年間のポスドク期間の終了とともに未完で終わる予定でしたが、終了直前に生成物を発見し、大逆転で論文掲載までたどり着きました。やはりその発見が一番思い出として残っています。詳細はNatureグループのブログを読んでみてください。メインの課題とは離れますが不溶性の生成物ポリマーのNMRを5気圧下100℃のCDCl3中で測定したのは溶解性を向上させるための面白い工夫だと思います。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

難しかったのは最初の発見をしてから、実験の再現性、なぜ上手く行ったのかを理解することでした。それに3年位かかりました。最終的には偶然に助けられましたが、そこまで研究を続けたということが大事だったのだと思います。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

有機金属化学を利用して Holy Grail的な課題に挑戦していきたいです。また、他の研究者も魅了できるようなHoly Grailを創造出来たらいいと思います。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

有機金属化学好きな方、一緒に研究しに来てください!

研究者の略歴

名前:竹林智司(たけばやし さとし)

所属:沖縄科学技術大学院大学・サイエンステクノロジーグループ

研究テーマ:有機金属化学を用いた新規触媒反応、新規化合物の開発

ホームページ:https://groups.oist.jp/stg/satoshi-takebayashi

科研費プロジェクト:https://nrid.nii.ac.jp/nrid/1000010609283/

竹林博士、インタビューにご協力いただき誠にありがとうございました!
それでは、次回のスポットライトリサーチもお楽しみに!

関連リンク

Avatar photo

Zeolinite

投稿者の記事一覧

ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

関連記事

  1. 日本化学会 第104春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン P…
  2. Reaxys Prize 2011発表!
  3. 鉄、助けてっ(Fe)!アルデヒドのエナンチオ選択的α-アミド化
  4. 芳香族性に関する新概念と近赤外吸収制御への応用
  5. ペプチド模倣体としてのオキセタニルアミノ酸
  6. 【PR】Chem-Stationで記事を書いてみませんか?【スタ…
  7. 有機レドックスフロー電池 (ORFB)の新展開:高分子を活物質に…
  8. 混合原子価による芳香族性

注目情報

ピックアップ記事

  1. 高分子を”見る” その1
  2. 2013年(第29回)日本国際賞 受賞記念講演会
  3. (+)-マンザミンAの全合成
  4. 【第11回Vシンポ特別企画】講師紹介③:大内 誠 先生
  5. Mestre NovaでNMRを解析してみよう
  6. 有機合成化学協会誌2021年4月号:共有結合・ゲル化剤・Hoveyda-Grubbs型錯体・糸状菌ジテルペノイドピロン・Teleocidin B
  7. クレーンケ ピリジン合成 Kröhnke Pyridine Synthesis
  8. 植物繊維を叩いてアンモニアをつくろう ~メカノケミカル窒素固定新合成法~
  9. トリメチレンメタン付加環化 Trimethylenemethane(TMM) Cycloaddition
  10. ザンドマイヤー反応 Sandmeyer Reaction

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2022年6月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
27282930  

注目情報

最新記事

Host-Guest相互作用を利用した世界初の自己修復材料”WIZARDシリーズ”

昨今、脱炭素社会への実現に向け、石油原料を主に使用している樹脂に対し、メンテナンス性の軽減や材料の長…

有機合成化学協会誌2025年4月号:リングサイズ発散・プベルル酸・イナミド・第5族遷移金属アルキリデン錯体・強発光性白金錯体

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年4月号がオンラインで公開されています!…

第57回若手ペプチド夏の勉強会

日時2025年8月3日(日)~8月5日(火) 合宿型勉強会会場三…

人工光合成の方法で有機合成反応を実現

第653回のスポットライトリサーチは、名古屋大学 学際統合物質科学研究機構 野依特別研究室 (斎藤研…

乙卯研究所 2025年度下期 研究員募集

乙卯研究所とは乙卯研究所は、1915年の設立以来、広く薬学の研究を行うことを主要事業とし、その研…

次世代の二次元物質 遷移金属ダイカルコゲナイド

ムーアの法則の限界と二次元半導体現代の半導体デバイス産業では、作製時の低コスト化や動作速度向上、…

日本化学連合シンポジウム 「海」- 化学はどこに向かうのか –

日本化学連合では、継続性のあるシリーズ型のシンポジウムの開催を企画していくことに…

【スポットライトリサーチ】汎用金属粉を使ってアンモニアが合成できたはなし

Tshozoです。 今回はおなじみ、東京大学大学院 西林研究室からの研究成果紹介(第652回スポ…

第11回 野依フォーラム若手育成塾

野依フォーラム若手育成塾について野依フォーラム若手育成塾では、国際企業に通用するリーダー…

第12回慶應有機化学若手シンポジウム

概要主催:慶應有機化学若手シンポジウム実行委員会共催:慶應義塾大学理工学部・…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー