日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープンアクセスとなりました 31-2号 (2021年05月発行)の紹介です。
本号では 2020 年度の医薬化学部会賞を受賞された 2 グループから読み応えのある記事が届いております。
各項目のタイトルおよび画像から該当記事へ飛べます (新しいタブで開きます) ので、隅々までご覧ください。
■巻頭言
変化する環境の中から未来を切り拓く
山本 史*
*厚生労働省大臣官房審議官(医薬担当)
本号の巻頭言は、厚労省の 山本史 医薬担当審議官よりご寄稿いただきました。近年、創薬分野は急激な変化を遂げ発展してきました。「今後も変化する創薬環境の中で、産官学が連携して新しい創薬の時代とアンメットニーズ領域の未来を切り拓く」行政方針について説かれています。
■創薬最前線
グローバル・スペシャライズド・プレーヤーを目指す大日本住友製薬の創薬研究 ─リサーチディビジョンを中心として─
志水 勇夫*
*大日本住友製薬株式会社 リサーチディビジョン
日本住友製薬 (株) の創薬最前線を紹介しています。精神疾患領域での創薬展開、ユニークな研究プロジェクト制度、AI などの最先端創薬技術の活用など話題は豊富です。メッセージ性のある読み応えのある記事となっています。ぜひ、ご一読下さい。
■WINDOW
Nanyang Technological University Singapore (NTU) での研究・教育活動
千葉 俊介*
*Nanyang Technological University Singapore
シンガポールの南洋理工大学に着任されて約 15 年、現在 Full Professor として活躍される千葉先生からのご寄稿です。テニュアトラックとして助教授に採用されてからテニュアを獲得するまでの道筋、博士課程の扱い、研究室の運営、研究費の獲得を含め、日本との違いがわかりやすくまとめられています。
ケムステ内関連記事: シンガポールへ行ってきた:NTUとNUS化学科訪問
■ESSAY
体内時計のケミカルバイオロジー研究と創薬の可能性
廣田 毅*,**, 松田 智宏**
*名古屋大学 トランスフォーマティブ生命分子研究所
**名古屋大学大学院 理学研究科
生物の体内には、1 日のリズムを刻む概日時計が備わっており、複数のタンパク質がその分子メカニズムに関わっています。これらの時計タンパク質の機能を制御できる低分子は、睡眠障害だけでなく、がんやアルツハイマー病など、さまざまな疾患に有効な医薬品候補となる可能性を持っています。本稿では、それら体内時計調整分子のケミカルバイオロジー研究の最先端が紹介されています。
ケムステ内関連記事:【速報】2017年のノーベル生理学・医学賞は「概日リズムを制御する分子メカニズムの発見」に!
■DISCOVERY
Janus Kinase (JAK) 阻害薬 delgocitinib (JTE-052) の創製
野路 悟*, 原 義典**, 三浦 智也*, 山中 浩*, 塩﨑 真*
*日本たばこ産業株式会社 医薬総合研究所 化学研究所
**日本たばこ産業株式会社 医薬総合研究所 研究企画部
2020 年度医薬化学部会賞を受賞した delgocitinib (デルゴシチニブ) の開発に関するご寄稿です。ご存じの通り、アトピー性皮膚炎はアンメットメディカルニーズの高い領域です。著者らは Ligand Efficiency と分子の三次元性の高さに着目した構造展開を行うことにより、世界初となる JAK 阻害薬としてのアトピー性皮膚炎治療薬を開発し、承認されるに至りました。スピロアゼチジン骨格構築法の開発も紹介されています。
■DISCOVERY
新規シデロフォアセファロスポリン抗菌薬 セフィデロコル(Cefiderocol)の創製
青木 俊明*, 山脇 健二**, 佐藤 剛章**, 西谷 康宏***, 山野 佳則**
*塩野義製薬株式会社 CMC研究本部
**塩野義製薬株式会社 医薬研究本部
***塩野義製薬株式会社 退職
2020 年度医薬化学部会賞を受賞した、抗菌薬の創薬研究に対する記事です。細菌に薬剤を能動的に取り込ませるために、抗菌薬に鉄キレート部位を導入して、細菌の鉄輸送システムを利用する戦略、おしゃれです。
■SEMINAR
光を用いる次世代抗体医薬 ─がん光免疫療法の登場と発展─
小川 美香子*
*北海道大学 大学院薬学研究院
話題の光免疫療法 (PIT) のための薬剤開発者の一人である小川美香子先生が、PIT の治療原理、分子設計指針、光反応機構などを詳しく解説しています。一読すれば、PIT がいかに革新的ながん治療法かがわかる、研究者のみならず学生にとっても必読の論文です。
■SEMINAR
創薬研究におけるフロー合成技術活用の方向性と課題
高山 正己*
*塩野義製薬株式会社 医薬研究本部
医薬品原薬 (API) の連続生産とは異なり、多種多様な化合物の合成が求められる創薬研究で、フロー合成の使い方は悩ましいところです。実際の創薬で化合物最適化にフロー合成を使った事例や展望を紹介しています。
■COFFEE BREAK
猪肉の成分研究
溝口 正*
*大阪大学名誉教授
冬の味覚「ぼたん鍋」で食される猪肉には、身体に良い油として知られているα-リノレン酸が含まれており、その含有量を地域別、年次別に測定した結果が紹介されています。α-リノレン酸は体内で合成されないので不足しがちですが、美味しいものを食べながら補うことができるようです。
■REPORT
J. Med. Chem. への投稿の勧め 〜メディシナルケミストとしての成長の糧として〜
周東 智*
*北海道大学 大学院薬学研究院
皆さん、創薬化学研究のトップジャーナル J. Med. Chem. に投稿しましょう!本誌に投稿するにあたり、研究背景、自身の研究目的、正確なデータ、結果の解釈と考察を高いレベルで提示する必要があります。要する労力は相当ですが、研究者が充実感を味わい成長する機会を得ることができます。
関連書籍
本号の「BOOKS紹介」より
[amazonjs asin=”4759819657″ locale=”JP” title=”生命の再設計は可能か: ゲノム編集が世界を激変させる”]
MEDCHEM NEWS 紹介記事バックナンバー
・MEDCHEM NEWS 31-1号「低分子創薬」
・MEDCHEM NEWS 30-4号「ペプチド化学」
・MEDCHEM NEWS 30-3号「メドケムシンポ優秀賞」