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スポットライトリサーチ

300分の1を狙い撃つ~カチオン性ロジウム触媒による高選択的[2+2+2]付加環化反応の開発

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第 381回のスポットライトリサーチは、東京工業大学 物質理工学院 応用化学系 博士後期課程3年 (研究当時) の 藤井 航平 (ふじい・こうへい) さんにお願いしました。

藤井さんの所属されていた田中研究室では、遷移金属触媒や光などの外部刺激を利用した新反応やリガンド等の開発に取り組まれており、今回、藤井さんらはロジウム錯体を利用した超・高選択的触媒的 [2+2+2] 付加環化反応を開発し、医薬品・農薬・機能性材料等への応用が期待される 50 種以上の含窒素シクロヘキサジエンの合成に成功しました。それらの結果は非常に高く評価され、Nature 系列誌の新星・Nature Synthesis 誌へ論文が掲載されるとともに、東工大よりプレスリリースされました。

Stereoselective cyclohexadienylamine synthesis through rhodium-catalysed [2+2+2] cyclotrimerization

Kohei Fujii, Yuki Nagashima, Takumi Shimokawa, Junichiro Kanazawa, Haruki Sugiyama, Koji Masutomi, Hidehiro Uekusa, Masanobu Uchiyama and Ken Tanaka
Nature Synthesis, 2022
https://doi.org/10.1038/s44160-022-00043-2

Development of a multicomponent reaction giving a single product is a major goal in synthetic organic chemistry. Catalytic [2+2+2] cyclotrimerization of two distinct alkynes and an alkene with chemo-, regio-, diastereo- and enantiocontrol offers rapid access to highly valued chiral six-membered carbocycles. However, previous [2+2+2]-cyclotrimerization methods have been thwarted by low selectivity and restricted substrate scope. Here we report the rhodium-catalysed [2+2+2] cyclotrimerization of terminal alkynes, alkynoates and cis-enamides to give synthetically valuable chiral cyclohexadienylamines with broad substrate scope and excellent selectivity without the requirement for slow addition or large excesses of reagents. Experimental and theoretical mechanistic studies revealed that the three-component [2+2+2]-cyclotrimerization reaction is highly specific towards use of the cis-enamide.

 

単一分子を与える究極の[2+2+2]付加環化反応を開発
確率1/300を狙い撃ち!たった1種を精密合成

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系の 藤井航平 大学院生、永島佑貴 助教、田中健 教授と、東京大学大学院薬学系研究科の 下川拓己 大学院生、金澤純一朗 特任助教 (当時)、内山真伸 教授を中心とした共同研究グループは、異なる 3 種類の不飽和化合物を混ぜるだけで単一の6員環化合物を与える究極の [2+2+2]付加環化反応を開発した。

以下、プレスリリース全文はコチラ

高度に官能基化されたシクロヘキサジエン環は、天然物や生理活性物質の合成におけるビルディングブロックとして非常に有用であり、藤井さんらのグループが今回開発された触媒反応はそのアクセシビリティを格段に上げるものとして注目に値する成果です。

本研究を指揮された、教授の田中健先生より、藤井さんの研究姿勢や人となりについてのコメントを頂戴しております。

藤井君は修士までは三上・伊藤研に在籍していましたが、三上先生の定年退職に伴い博士から私の研究室に進学しました。当研究室ではアクリルアミドが Rh 触媒反応の優れた基質となることを古くから見出していましたが、藤井君にはエナミドを用いた様々な不斉反応を検討してもらいました。藤井君はよく考えながら膨大な実験をこなす理想的な有機合成化学者であり、数多くの貴重な進展をもたらしてくれました。最も大きなブレークスルーはシス-1,2-二置換エナミドを分子間交差 3 量化反応に使用することであり、さらに反応のアプリケーションや様々な新テーマも独自の発想で見出してくれ、後進の学生が引き続き検討を行っています。藤井君が開発した不斉反応は究極の [2+2+2]付加環化反応と呼べるものだったので、トップジャーナルへの投稿を考えましたが、学位取得が遅れる懸念もありました。藤井君は学位取得が遅れても構わないという気概を見せてくれましたが、彼は優秀なだけでなく強運の持ち主で、なんと学位最終審査の前々日に論文がアクセプトされました。これからは企業研究者として、さらなる飛躍を期待しています。

研究者の気概は、アクセプトのタイミングをも引き寄せてもらえるのでしょうか!? いやいや、それは本研究が気概にも裏打ちされた立派な成果であるからこそですね!
それでは、今回もインタビューをお楽しみください!

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

不飽和化合物による [2+2+2]付加環化反応は原子効率に優れ、合成化学的に有用な多置換 6 員環化合物を 1 工程で合成できるため魅力的な反応です。しかし、それぞれの基質の反応性が類似しているため、単一の交差三量化体の合成は困難です。さらに位置異性体立体異性体を考慮すると 300 種以上の生成物が想定されます (図1B) 。これまでに、一部の基質の過剰量使用や長時間の滴下によって選択性を制御してきましたが、根本的な解決とはなっていませんでした。本研究ではカチオン性ロジウム錯体を触媒とし、エナミド末端アルキンアセチレンカルボン酸エステルを用いることで、基質を「1:1:1」で「同時に混合する」という簡便な操作で単一の6員環化合物を合成することに成功しました (図1A)。

 

図1  研究の概要

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

基質適用範囲に思い入れがあります。最近の風潮から基質はできるだけ多いほうがいいとは思っていましたが、どんな基質でも完全な選択性で 99% ee が出たことには驚愕しましたし、色んな官能基を導入できるためまだまだ可能性がある反応だと思っています。

工夫した点は変換反応 (図2) です。反応の有用性を示すためにいくつかの医薬品類縁体の合成を目指していましたが、どれもうまくいきませんでした。その中でエポキシドアジドを作用させると、予想に反した反応が進行しました。詳細な文献調査によって、類似の生物活性物質を発見し、それを指向した高度に官能基化された化合物へと誘導することで有用性を示すことができました。

図2  変換反応

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

反応機構の解明です。通常の [2+2+2] 付加環化反応ではアルキンによる酸化的環化が進行し、次の基質が挿入してくるというのが一般的ですが、そうするとなぜエナミドの挿入が優先するのかが謎でした (アルキン同士の三量化反応が有利なはず)。そのため、さまざまな条件を検討しても収率が上がりきらないということが続きました。しかし、これらの検討結果と実験的な解析からエナミドの強い配位力が鍵ではないかと考えられました。東大の内山先生のグループでの計算化学的解析により、各基質が精密に順番にロジウムへ配位することで選択的に進行するということが明らかとなりました。実験を進めていくにつれて自分なりの知見がどんどん積み重なっていくのが実感できました。

図3  本反応の反応機構: 段階的に基質が配位することで選択性が発現する

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

大学での研究によって培ってきた有機化学をベースに、さまざまな他分野を含めた知識を取り入れて活躍できるケミストになりたいと思っています。私は現在、製薬企業でプロセスケミストとして一歩を踏み出したばかりですが、大学時代とは異なったものの見方や、交流する世界の違いや広さ、そして深さを感じています。周りにはさまざまなバックグラウンドをもつ人がいたり、色んなチャンスが転がっているので、最大限活用して自分を成長させ、社会に貢献したいと思います。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

大学での研究は、「一つのテーマ」を「初めから終わり」まで、「一人」で完遂するという経験を得ることができる、かけがえのないチャンスです。後悔の無いように研究に取り組んで欲しいです。また、初めは小さな結果かと思っていても突き詰めていくことで、色んな知見が積み重なってインパクトのある成果に結びつきます。それが研究の醍醐味とも言えるので、自分の研究にそのような可能性がないか、向き合うことも大事だと思います。

最後になりましたが、自分の大学での研究を紹介できるという貴重な機会を頂いた Chem-Station のスタッフの皆様に感謝申し上げます。また本研究を進めるにあたり、共同研究者である内山先生、金澤博士、下川さん、植草先生、杉山先生にご協力いただいたことを感謝申し上げます。内山研究室の皆様には計算化学を通じて、本反応の真髄に触れるような機会を頂きました。最後に、博士課程の 3 年間でさまざまなご指導を頂きました田中健先生、永島先生をはじめ、一緒に切磋琢磨した田中 (健) 研究室の皆様に感謝申し上げます。

研究者の略歴

名前: 藤井 航平 (ふじい こうへい)
所属: 東京工業大学物質理工学院 応用化学系 田中 (健) 研究室 博士後期課程 3 年 (当時)
研究テーマ: カチオン性ロジウム触媒によるエナミドを用いた分子間 [2+2+2]付加環化反応
略歴:
2017年3月 東京工業大学工学部化学工学科応用化学コース卒業 (三上幸一 教授)
2019年3月 東京工業大学物質理工学院応用化学系修士課程修了 (三上幸一 教授)
2022年3月 東京工業大学物質理工学院応用化学系博士後期課程修了 (田中健教授)

 

藤井様、田中先生、ありがとうございました!
それでは、次回のスポットライトリサーチもお楽しみに!

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DAICHAN

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創薬化学者と薬局薬剤師の二足の草鞋を履きこなす、四年制薬学科の生き残り。
薬を「創る」と「使う」の双方からサイエンスに向き合っています。
しかし趣味は魏志倭人伝の解釈と北方民族の古代史という、あからさまな文系人間。
どこへ向かうかはfurther research is needed.

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