日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープンアクセスとなりました 31-1 号 (2021年02月発行)の紹介です。
今回の特集は「低分子創薬」に関連するメディシナルケミストリーの話題です。多様なモダリティが林立する中での低分子創薬の未来とは?
各項目のタイトルおよび画像から該当記事へ飛べます (新しいタブで開きます) ので、隅々までご覧ください。
■巻頭言
上野 裕明*
*田辺三菱製薬株式会社 代表取締役社長 社長執行役員
MEDCHEM NEWS の読者は既にお気づきのように、既に「メディシナルケミストリー = 低分子創薬」という考え方の時代ではなくなっています。一見するとメディシナルケミストの活躍の場は狭くなるような印象を抱きますが、実は創薬において「創薬化学」あるいはその基幹である「有機合成化学」は益々重要な役割を担い、その枠を拡げていくのはメディシナルケミスト自身であるという熱いメッセージが投げかけられています。ぜひご一読ください。
■創薬最前線
今川 昭*
*小野薬品工業株式会社 医薬品化学研究部
創業 300 年を超える小野薬品が目指す熱き挑戦者たちの取り組みの紹介です。抗 PD-1 抗体など特徴ある医薬品を創成してきた輝かしい業績に甘んじることなく、研究領域や体制の見直し、オープンイノベーションの活用、新規な創薬技術の導入と弛みない挑戦を継続しています。
■WINDOW
中村 斐有*
*スクリプス研究所 博士研究員
有機化学を代表するビッグラボ、Baran 研でブチ抜くことに成功した中村斐有先生によるご寄稿です。ラボ選び、天才的なボスと優秀な同僚、teleocidin 合成の JACS 筆頭著者獲得への道、Baran との熱い論文執筆作業など、生々しいお話が満載です。留学予定の有無に関係なく、とにかく面白い記事ですので、ぜひご一読下さい。なお中村先生は現在、香港科技大学の Assistant Professor として活躍されています。
■ESSEY
アカデミア創薬Hit to Lead支援の最前線:東京大学創薬機構構造展開ユニットのあゆみ
宮地 弘幸*, 安田 公助*, 金光 佳世子*, 榑林 陽一*,**
*東京大学 創薬機構 構造展開ユニット
**神戸大学大学院医学研究科
東京大学に設置されているアカデミア創薬を推進する創薬機構構造展開ユニットの紹介です。設置されて 5 年 (2021年当時) が経過した構造展開ユニットがこれまで行ったコンサルテーションや構造展開について、またこれからのアカデミア創薬研究支援に対する意見が記載されています。なお著者の1人である、安田先生はケムステVシンポでも公演されており、動画が公開されていますのでご視聴ください。
■ESSEY 特集:難病疾患治療に取り組む低分子創薬の新展開
大川 滋紀*
*日本たばこ産業株式会社 執行役員 医薬総合研究所
近年、これまで難しかった遺伝子やタンパク質の機能を直接制御し、難病疾患等を治療できる画期的低分子薬が創製されつつあります。本号の特集では「難病疾患治療に取り組む低分子創薬の新展開」について代表例 4 編を紹介します。緒言では、日本たばこ産業の大川滋紀先生が、低分子創薬のポテンシャルと新たな切り口について総論されています。
五十嵐 順悦*
*株式会社久留米リサーチ・パーク バイオ事業部
アミロイドーシスの原因となるトランスサイレチンの四量体を安定化させる低分子薬を紹介しています。薬効にかかわる安定化のメカニズムに迫ります。
日下 真一*
*田辺三菱製薬株式会社 創薬本部 フロンティア創薬ユニット
本論文では、これまで主にタンパク質を標的としてきた低分子創薬において、新たな機会創出となる RNA を狙った創薬について紹介しています。これまでの歴史に加え、RNA が創薬標的として大きな注目を集める契機となった脊髄性筋萎縮症の経口低分子治療薬 risdiplam 創製の経緯、そして今後の展望として期待や課題を示しています。ぜひご一読ください。
宮崎 将*, 判谷 吉嗣*, 川下 誠司*
*日本たばこ産業株式会社 医薬総合研究所 高槻リサーチセンター 化学研究所
抗体医薬の低分子化は医療費の削減をはじめ意義のある創薬活動ですが、一般的に抗体と同じ阻害様式の低分子を取得することは非常に困難です。本稿では、免疫チェックポイント阻害剤 (抗体医薬) に着目し、抗体と同様の薬効を期待して、PD-L1 の二量化を促進し安定化する低分子の取得アプローチが紹介されており、低分子創薬の可能性を感じさせる内容となっています。
“Undruggable”創薬標的分子を“Druggable”に変えるタンパク質分解誘導薬の新動向
上原 泰介*, 大和 隆志*
*エーザイ株式会社 オンコロジービジネスグループ
低分子リガンドの結合部位を持たない Undruggable なタンパク質を創薬研究に用いるには、どのようにすれば良いでしょうか?その答えのひとつは、標的タンパク質の分解誘導 (ケミカルノックダウン) です。本稿では、モレキュラーグルー (分子のり) や PROTAC を含め、Undruggable を Druggable に変えるケミカルノックダウンの手法が紹介されています。
■COFFEE BREAK
旦部 幸博*
*滋賀医科大学 微生物感染症学部門
コーヒーに関する多く執筆されている旦部先生が、薬学的な視点でコーヒーを解説されています。なぜコーヒーは焙煎する必要があるのでしょうか? 高温によって化学変化が引き起こされるだけではないようです。歴史を含めてコーヒーに関する色々なことが紹介されていますので、ぜひご一読を!
■REPORT
門之園 哲哉*
*東京工業大学 生命理工学院
東京工業大学生命理工学院に創設された知の協創拠点「生命理工 オープンイノベーションハブ (LiHub: ライハブ)」を母体とし、気鋭の若手研究者らが立ち上げた分野融合グループ「次世代医療モダリティ創発」の活動を紹介します。東工大から全国に展開する次世代人的ネットワークの創発にご注目あれ!
紹介記事作成者からのひとこと
2021年に FDA で承認された医薬品をモダリティ別に見ると、低分子薬の占有率はおよそ 60% であり、全モダリティの中ではまだまだトップに位置しています。また本号の特集からも読み取れるように、20 年前にはおおよそ不可能とされていたターゲットに対する低分子薬が続々と開発されています。このことからは、「低分子の時代は終わった」のではなく「低分子と新規モダリティの協奏の時代が始まった」と読み捉えることができると思います。形は変われど、より洗練されたメドケムと有機合成が今後も世界の創薬をリードしていくことでしょう。
そして、特にこれから留学される・留学を考えている方々にはぜひとも中村先生の記事を参考してブチ抜いてほしいと思います。
関連書籍
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