パソコンは学生・社会人にとって必要不可欠なツールですが、化学の研究においてはラボで使用したり、ChemDrawといった特殊なソフトをインストールして使うことがあります。そこで化学の研究ではどんなパソコンが適切なのか調べてみました。
はじめに
新学期になり、パソコンを買い替える人もいるかもしれませんが、パソコンにはいろいろな種類があり、価格も数万円から数十万円までと幅があるものです。そこでどんなPCが、化学の研究を遂行する上では最適なのかカタログを調べてました。前提として本記事では現場の研究者・学生の普段使いを考え、ノート型パソコンを調査対象としました。また実機を触って確かめたわけではないのでカタログとの差異があるかもしれません。
以下、最適な性能や機能、材質について見ていき、最後にZeolinite特撰のPCを紹介します。
OS
細かな比較の前にそもそもOSは、Windowsが良いのかMacが良いのかという話がありますが、ChemDrawも主要NMR解析ソフト(Topspin, Delta, Mnova)も両OSに対応しているため、有機合成の研究ではどちらでも問題ないようです。一般的なソフトウェアではどちらのOSにも対応していることが多いですが、自作解析ソフトや専門的なアプリケーションでは対応するOSが限られているかもしれません。パソコンの購入前に確認が必要です。
スペック
CPUやメモリー容量、ハードドライブ容量は良いに越したことはありませんが、価格に直結するためどのレベルにするかが悩ましいところです。上記のソフトの推奨動作環境を見ると、現在販売されているほとんどのPCは動作するようですが、マルチタスク下での負荷や将来、高負荷なソフトウェアをインストールするかもしれないことを考えてIntel i5シリーズやAMD Ryzen 5シリーズのCPUを搭載したモデルをお勧めします。メモリーも大容量は必要なく、8 GBもあれば十分だと思います。必要なハードドライブの容量は、研究内容によって変わり、大量のデータを取り扱う方は大容量のHDDを搭載したパソコンの方が便利かもしれません。
画面
画面は大きい方が作業が捗りますが、ノート型パソコンでは、大きすぎると持ち運びも大変になります。15.6インチのノートPCを所有していますが、それなりの大きさのビジネスバックが持ち運びには必要で、ラボやデスクなど頻繁に持ち運んで使用する場合には14インチ以下のディスプレイを搭載したパソコンが良いではないでしょうか。最近のノートPCには、画面がタッチパネルになっている場合もありますが、化学の研究ではタッチパネル操作で作業効率が大きく向上する場面はなさそうで、必須の機能ではないと思います。
画面のタイプには、光沢と非光沢(ノングレア)があります。光沢液晶は画像や動画が美しく表示されるため、顕微鏡の画像をよく確認する場合にはこちらのタイプが良いかもしれません。一方、非光沢は、外部の光を反射しにくい特性があり、室内の照明や自分の顔の映り込みを防ぐことができます。ノートPCでは画面を垂直からやや傾けて使用するため、より天井の照明が映り込みやすくなります。もちろん光沢液晶でも部屋の状況や機種によって映り込みの度合いは変わりますので、今のパソコンでの現状の確認や周囲の方の状況を聞き、実機を見てから決めたほうが良いと思います。
その他機能
上記以外にも細かい機能において機種ごとに違いがあります。それをまとめると下記のようになります。
- 前面カメラ:必須
- HDMI出力端子:必須
- SDカードスロット:あった方が良い
- テンキー:あった方が良い
- 光学ディスクドライブ:あった方が良い
- 有線LAN:あった方が良い
- USB type-C端子:あった方が良い
- 指紋認証:無くてもよい
- 専用グラフィックス カード:無くてもよい
- Microsoft officeプリインストール:無くてもよい
特段、化学の研究だから必須の機能はありませんが、対面とWeb会議が頻繁に行われている世の中では1と2は必須の機能です。とはいってもほとんどのノートパソコンが搭載している機能です。3から6は、データや写真のやり取りにおいてあると便利な機能ですがUSB接続の外付けアクセサリーも販売しているため、必須ではないです。指紋認証はパスコードの入力が省けて便利ですが、グローブを装着していると機能しないので、活躍できる場面は少ないです。Officeは学生や大学に所属している研究者の場合、割引価格で購入できるのでプリインストール版を購入するメリットは少ないです。
材質
パソコンの材質が本記事では一番のポイントであり、それは化学実験で使用する有機溶媒によってパソコンの材質が溶けてしまうからです。もちろん、溶媒をジャバジャバ使用しているところでパソコンは使用しないとは思いますが、誤って洗瓶からこぼれたり、グローブに付着しているのに気づかずにそのままパソコンを触ってしまうこともあります。天板に付着して少し溶けるくらいであれば問題ないですが、キーボードの中に有機溶媒が入ると使えなくなってしまいます。ノートパソコンに使われているプラスチックは、強度や耐衝撃性が高いポリカーボネートやABS樹脂ですが、アセトンといったよく使われる有機溶媒に対しては適さないようです。そのため、アルミなどの金属を材質として使用したノートパソコンの方が安心かもしれません。
お勧めノートパソコン(2022年4月版)
以上を踏まえて化学研究用途に良さそうなパソコンをいくつか選んでみました。Zeolinite独断のチョイスですので、ソフトの動作保証はなく、研究が劇的に捗る保証もありません(笑)
ケミストはスタバで優雅にコーヒーを飲みながら作業する時間なんかないぞ!と言われてしまいますが、MacBookシリーズはアルミニウムを筐体に使用しているため、溶媒で溶ける可能性が低いです。パソコンのスペックも高く、それでいて厚さや重量も持ち運びに難がないレベルとなっているのは圧巻です。ただし、USB type-C端子が二つしかないことと、最も安いMacBook Air 256GB ストレージでも値段が11万円なのは懸念点となります。
こちらもアルミボディのパソコンで、AMD Ryzen CPUを搭載したWindowsパソコンです。スペックは十分で、HDMI、USB type-A(従来の形)2ポート、USB type-C 1ポート、SDカードと拡張性も問題ないです。最大の特徴は、名前の通り、360℃ディスプレイが回ることで、タブレットのように使用することもできます。15.6インチが直販価格で8万9千円とアルミボディとしてはリーズナブルな価格となっています。ただし13.3インチでは、直販価格で10万3千円です。
こちらは細かい機能にこだわったシリーズで、有線LAN、SDカードスロット、HDMI、RGB、DVDドライブとあると便利な機能をすべて備えたパソコンです。その分大きく、それなりの重量があるところが懸念点です。
その他、ノートパソコンをあまり持ち運ばない場合には、本体はスペックに特化して外付けの機器で作業性を補完する方法もあります。10万円位のパソコンが現状ではやや高スペックで良いと思います。そして研究室のデスクのスペースに応じて外付けモニターやキーボードを使用すれば作業効率が向上するのではないでしょうか。
だいぶ一般的な内容になってしまいましたが、パソコン選びの参考になれば幸いです。パソコン作業に不自由を感じたら新しいパソコンの購入を検討してみてはいかがでしょうか。