[スポンサーリンク]

一般的な話題

ポンコツ博士の海外奮闘録② 〜博士,鉄パイプを切断す〜

[スポンサーリンク]

ポンコツシリーズ 実験編 日本のラボでも役立つ(…?)ことを書いていきます。

ポンコツシリーズ一覧

国内編:1話2話3話  国内外伝:1話2話留学TiPs

海外編:1話

 第2話 ポンコツ博士,ベンチ整理を始める

実験スペースが与えられた筆者は,まず実験環境の整備に注力しようと考えた。筆者は器用な人間ではなく,どちらかというと「自分,不器用ですから。」のタイプである。したがって,学んだことを最大限に発揮するためには,完全なアメリカンスタイルに染まるのではなく,ジャパニーズスタイルを持ち込むことが遠回りのように見えて1番の近道だと確信していた。

世の中には,2パターンの人間しか居ない。自身で環境を変える努力をせず与えられた恵まれた環境に不平不満を言う人間か,環境に不満があれば自ら居心地の良い環境に作り変える人間か,だ。

これは恩師のありがたいお言葉の1つで,極論だが確かに的を射たコメントだと思う。何故かなんとなく少々腹が立つが(笑),この意見を参考に今の筆者ができる居心地の良い環境作りを始めた。

ポンコツ博士(薬学),鉄パイプを切断する

小柄な筆者にとってアメリカンなベンチはすべてが大きく,実験するには非常にやり辛かった。また,ハサミなどの文房具類やデスク用のちりとりを引っ掛けるちょうどよい棒や整頓箱がなかったため,まずこの不満を解決することから研究生活が始まった。

初めに筆者は,廊下に出ていた空きドラム缶をゴミ回収のおっちゃんから強奪し,高所用の足場を確保した。次いで,ラボ内の引き出しやゴミ箱を探索することでパイプカッターやサンプル瓶の空箱を発見した。パイプカッターは鉄パイプを挟んでくるくるするだけで切断できる名工具である。筆者はラボメンから壊れたクランプや鉄パイプの廃棄場所を聞き,廃材から15cm程度の鉄パイプ作製を試みた。パイプを固定する万力がなかったので実験ジャングルを用いて固定し,パイプをひたすら切り刻んだ(Fig. 1A)。また,廃材の中からAkinori Onlyと書かれたかなり綺麗で使える実験クランプを発見し,「Akinori氏が居ない今,これはやはり日本人の私が使うべきでしょう」とありがたく頂戴した(Fig. 1B)。

Fig. 1) A. 鉄パイプ切断風景 B. Akinori氏の偉大な遺産

後日,Visittingで来ていた日本の博士課程生(反応有機化学)やルームメイト(物理学)に話すと「嘘でしょ?工学部ですか?」みたいな感じだったが,筆者(化学系薬学)はガチであった。どうやら最近の日本人理系学生は,試薬調製やPC仕事,デジタル化に慣れているが鉄パイプを切り慣れてないようである。「マジで何を言ってるんだ…」と思った読者も,類比思考してほしい。使いたい試薬がなければ試薬から作るのと,短い鉄パイプがなれけば長い鉄パイプを切断するのは,”使いたいものを作りだす”という点においては同じだということを(知らんけど)。

隣のアメリカ人ポスドクは「お前,ラボに来て初日から鉄パイプを切るのか!クールだぜ!」と言った後,秘蔵のDIY工具達を貸してくれた。第二次世界大戦後にイギリスから発祥したDIY文化は,やはり世界共通のコミュニケーションツールだった。

変態博士,海外研究室のゴミ漁りを堪能する

とりあえず10本ほど切り出して満足した筆者は,ドラフト整備に取り組んだ。当ラボでは,新入生が実験器材を全部使って筆者の分が在庫切れになっていたので,ラボメンに実験器具・器材の発注をお願いした。しかしながら,納期が1ヶ月以上かかるそうで,少々絶望した。資材の納期は日本の方が遥かに優秀である。

次の日,自分のデスクに到着後,ボーッとしていると「〇〇がなければ〇〇でいいじゃない。ボーッと生きてんじゃねぇよ!」と悲劇の貴族チ○ちゃんの幻聴が聞こえ始めた。これは色々ヤバいと思い,しぶしぶデスクから立ち上がって発注品を代替(だいたい)できそうな物を探すことにした。結局,どんな場所でも筆者の研究生活は居なくなった人の引き出しを開けまくってハイエナと化すことから始まるのだ。

あらゆる場所を漁り尽くすと,黄ばみ+短いながらも耐圧チューブがザクザク出てきたので回収した。キ○○ツ大百科のお○理行○曲を鼻歌しながらウキウキでゴミ箱や引き出しを漁っていたので,中国人ポスドクに日本人は陽気で怪しいポスドクが多いんだと間違った認識をされてしまった。世の中の日本人に申し訳ない。

日本人博士,ドラフトを完成させる

短いチューブはプラシリンジの外筒を切断したものをジョイントとして使い,マニュホールドに繋ぎ合わせた。その他,ゴミ箱から出てきたプラの中圧カラム管は乾燥剤を充填して窒素ガスの湿気対策に使用した。真空ポンプが傷まないようにマニューホールドとの間に乾燥剤+KOH管を間に挟みたかったが,1本しか見つからなかった。これには参ったので同じチームの学生に当研究室のルールを確認してみると,当ラボのエバポシムテムはすべて油回転式真空ポンプで,バカみたいに溶媒が飛んで冷却トラップを容易にブチ抜いてくるため,月1回オイルを替えてやりくりするようだ(衝撃!)。何れにせよ,これで化学実験に必須なガス置換,溶媒濃縮が可能になった(Fig. 2)。

Fig. 2) ポンコツドラフト第1世代。今はもう少し仕上がっている。

DIY博士,日本式UVランプを自作する

次に取り掛かったのはTLC用UVライトの設計である。当研究室では手持ちUVライトがスタンダードで筆者にも同様のものが与えられた。しかし,筆者はUVをじっくり見たいし,写真も撮りたいのでお手製箱を作ることにした。必要なものは,壊れたジャッキ,ダンボール,黒い板である。当ラボで黒い板が見つからなかったのでダンボールにアルミホイルを巻いて代替した(Fig. 3)。

Fig.3) ポンコツ1号。ライトの奥に携帯を設置可。

作り終えた後,中国人ポスドクが「この箱は何?ペットでも買うの?マウス?ラット?(笑)」というジョークをかましてきたので,「そうだよ。私はここで飼育するの。」という返しを頑張って言ってみたが筆者の英語力ではうまく伝わらなかった。無事スベった後,一応筆者の実験ルーチンとベンチの流れを説明すると「ふーん,なんだかconvenienceなベンチだね」とお褒めを頂いた。やはりDIY文化は言語を超える。

日本人,アメリカン文化を探求す

最低限の実験環境を整えた頃に研究所から雇用のための研究所ミーティングがザクザク入ってきたのでそちらを片付けることにした。試薬等が届き次第,実験を開始しよう。それまでの間,みんな居ないし,あんまりやれることもないので日常生活の充実を目指した。

〜〜続く〜〜

過去記事・関連リンク

ケムステのDIY記事

いらすとや :アイキャッチ画像の素材引用元。

関連書籍

[amazonjs asin=”B002NAOYCA” locale=”JP” title=”SK11 パイプカッター 切断能力 4~32mm PC-32″] [amazonjs asin=”B07RWJ1R3K” locale=”JP” title=”マリー・アントワネット フランス革命と対決した王妃 (中公新書)”] [amazonjs asin=”B09CQ48MLM” locale=”JP” title=”3.4 インチ ハイエナおもちゃ PVCフィギュア玩具 イノシシ 動物 置物 おもちゃ リアル 野生動物 模型 子供玩具 誕生日 プレゼント”]

NANA-Mer.

投稿者の記事一覧

たぶん有機化学が専門の博士。飽きっぽい性格で集中力が続かないので,開き直って「器用貧乏を極めた博士」になることが人生目標。いい歳になってきたのに,今だ大人になれないのが最近の悩み。読み方はナナメルorナナメェ…?

関連記事

  1. 飽和C–H結合を直接脱離基に変える方法
  2. 実験・数理・機械学習の融合による触媒理論の開拓
  3. pH応答性硫化水素ドナー分子の開発
  4. 第二回ケムステVシンポジウム「光化学へようこそ!~ 分子と光が織…
  5. 湘南ヘルスイノベーションパークがケムステVプレミアレクチャーに協…
  6. 有機合成化学協会誌2018年12月号:シアリダーゼ・Brook転…
  7. 化学物質だけでiPS細胞を作る!マウスでなんと遺伝子導入なしに成…
  8. 開発者が語る試薬の使い方セミナー 2022 主催:同仁化学研究所…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 日化年会に参加しました:たまたま聞いたA講演より
  2. ヤコブセン転位 Jacobsen Rearrangement
  3. 生体医用イメージングを志向した第二近赤外光(NIR-II)色素:①単層カーボンナノチューブ
  4. 異なる“かたち”が共存するキメラ型超分子コポリマーを造る
  5. 向山酸化還元縮合反応 Mukaiyama Redox Condensation
  6. 芳香環交換反応を利用したスルフィド合成法の開発: 悪臭問題に解決策
  7. 1,2-/1,3-ジオールの保護 Protection of 1,2-/1,3-diol
  8. 細胞の中を旅する小分子|第三回(最終回)
  9. 100円で買えるカーボンナノチューブ
  10. 光触媒で人工光合成!二酸化炭素を効率的に資源化できる新触媒の開発

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2022年3月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031  

注目情報

最新記事

乙卯研究所 2025年度下期 研究員募集

乙卯研究所とは乙卯研究所は、1915年の設立以来、広く薬学の研究を行うことを主要事業とし、その研…

次世代の二次元物質 遷移金属ダイカルコゲナイド

ムーアの法則の限界と二次元半導体現代の半導体デバイス産業では、作製時の低コスト化や動作速度向上、…

日本化学連合シンポジウム 「海」- 化学はどこに向かうのか –

日本化学連合では、継続性のあるシリーズ型のシンポジウムの開催を企画していくことに…

【スポットライトリサーチ】汎用金属粉を使ってアンモニアが合成できたはなし

Tshozoです。 今回はおなじみ、東京大学大学院 西林研究室からの研究成果紹介(第652回スポ…

第11回 野依フォーラム若手育成塾

野依フォーラム若手育成塾について野依フォーラム若手育成塾では、国際企業に通用するリーダー…

第12回慶應有機化学若手シンポジウム

概要主催:慶應有機化学若手シンポジウム実行委員会共催:慶應義塾大学理工学部・…

新たな有用活性天然物はどのように見つけてくるのか~新規抗真菌剤mandimycinの発見~

こんにちは!熊葛です.天然物は複雑な構造と有用な活性を有することから多くの化学者を魅了し,創薬に貢献…

創薬懇話会2025 in 大津

日時2025年6月19日(木)~6月20日(金)宿泊型セミナー会場ホテル…

理研の研究者が考える未来のバイオ技術とは?

bergです。昨今、環境問題や資源問題の関心の高まりから人工酵素や微生物を利用した化学合成やバイオテ…

水を含み湿度に応答するラメラ構造ポリマー材料の開発

第651回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院工学研究科(大内研究室)の堀池優貴 さんにお願い…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー