ポンコツシリーズ本編開始! 実験編と日常編をできる限り交互にして随想していきます。
ポンコツシリーズ一覧
国内編がプロローグとなっておりますので,こちらからお読みいただければ幸いです。
第1章 本編:ポンコツ博士の海外奮闘録
第1話:ポンコツ博士,米国に上陸す
筆者は,JALのお力を借りて乗り継ぎなしの直通便で世界を飛んだ。その機内でとんでもないことに気付いた。…乗客がほぼいないのだ。ライト兄弟の時代には考えられないほど飛行手段が発達した現代で「COVID-19」というたった1つの感染症がこれまでの世界をガラッと変えてしまったことを痛感させられた。
実際の機内は,搭乗前に座席の入札アップグレードがあった影響からビジネスクラスが満席で,ボンビーな筆者が搭乗するエコノミークラスはスッカスカだった(fig.1)。横の空席をちらちら見ているとキャビンアテンダント(CA)さんが気付いてくださり,ご厚意によってエコノミーのくせに丸々5席使って寝そべって快適なフライトを送ることができた。忙しくて見れなかった逃げ恥のスペシャルを観て感動した後,すやすや寝ていると知らぬ間に着陸2時間前になった。筆者は,朝食用の機内食を頂いてから初めてアメリカに上陸した。
ポンコツ渡航者,入国審査に苦戦する
そもそも筆者は海外渡航経験が1度しかないため,降りてからどうすればいいかさっぱりわからない。幸い,JALで来たこともあり,日本人っぽい方の動きをチラ見して行動することで入国審査場までたどり着くことができた。さあ,入国インタビューだ。事前に予習はしてきたのでどうにかなる…!と強い気持ちで挑んだ。
入国審査官「Wha#%#%&’?」筆者「???, Huh?」入国審査官「Please*$%%(‘)$」筆者「???, Passport?」入国審査官「Sigh(ため息)…Show me your passport and “$#%%&!(ゆっくりにはなった)」
…さっぱり分からなかった。マスクで口元わからんし,小声なうえ速すぎる…と思いながら,とりあえず一通りの書類を見せて「私はPh.Dを持っていて研究所へ働きに来たんだ!」と伝える事でどうにか通ることができた。次の荷物検査は比較的聞き取りやすい英語だったのですんなりいくかと思ったが,入国審査で研究分野は「Chemistry」だ!と言ったため,ここでも引っかかってしまった。DS-2019の渡航目的には「Biomedical, Biological Research」が書かれているのに焦りからテンパって違うことを言ってしまった影響で,化学試薬や危険物を持ってきたヤバい奴として疑われたようだ。
スーツケースの荷物確認で待ちぼうけしているとCAさんが続々と順番待ちになり,気付いたCAさんが通訳してくださったことでスムーズに進むようになった。出国前や飛行機内,入国後でちょこちょこお話することができ,ひたすらJALのCAさんに感動してしまった。いつか海外に羽ばたく読者も全然聞き取れないからといって入国目的を間違わないように気を付けていただきたい。
ポンコツ入国者,家にて刺激を受ける
滞在先まではUverを利用してスムーズに移動できた。社会はコロナ禍でも日々着実に進歩しており,何事も画期的な手法が開発されることはありがたい。到着後,ホストから軽く説明を受けた後,ルームメイトを紹介してもらうとガッツリ日本の現役理系大学生が居ることにビックリした。ずっとオンライン授業で自宅受講の時間が無駄なので,「どこで受けても良いのであれば,やることをプラスにしよう」と借金して留学しているようだ。
…凄い。多くの人がこのコロナでやる気を失って愚痴ばかりの後ろめたい社会の中でも,若干20歳の子が逆境から前向きに物事を考え,「実際に行動すること」ができるのか…!と心を動かされた。また「自分の20歳なんて宅飲み中,部屋でメントスコーラをやられて掃除で1日中授業をサボってたな…」と若い頃の自分と比較することで自身の気持ちを引き締めることができた。
筆者は,研究所の海外担当事務や教授に到着したことを連絡して一安心した直後,東京御礼巡りと長期フライトの疲れからか急激な疲労感と眠気に襲われ,その日はシャワーを浴びる前に意識が落ちてしまった。
ポンコツ滞在者,時差ボケに絶望する
次の日,変な時間に起きてしまった。フライト中の機内食で体内時計が変わり始めたが,結局,日本時間に合わせて真昼間に寝てしまったので中途半端なリセットがかかったようだ(カリフォルニアとの時差は17時間)。また,長時間のバタンキューによって喉がカラカラになっていたので,家にセットされてある浄水器を使用して水をたくさん飲み始めた。そしてその数時間後,筆者は急激な腹痛に襲われ,節子と化した。
浄水器はきれいになってるだけで中身は硬水なの…?と悩みながら,時差ボケによる気持ち悪さと相まってトイレ↔寝室間の行き来しかできなくなった。部屋の外に出る気力さえない瀕死状態だったが,日本人留学生がヨーグルトを分け与えてくれたことで生きていくことができた。本当に,初回のルームメイトが日本人というのは筆者にとって僥倖だった。
研究所が指定するPCR検査日まで自宅待機中であったが,最初の5日間は時差ボケと下痢でほぼ動けず,時差ボケ完治も追加で3日程度かかったので,1週間程度の非常食(袋麺やうどん)はあればよいかもしれない。
ポンコツ科学者,アメリカに圧倒される
自宅待機中の筆者は日常生活の充実を図り,生活用品の入手や移動の準備を整えた(Tips参照)。時差ボケもほぼ回復した次の週,予約していたPCR検査のため研究所に向かった。ホストがガッツリ寝坊したり,家を出る直前に子犬(♀2ヶ月)の○んちトラップを踏んだりしたせいで,検査終了1分前に駆け込むことになったが,なんとか無事終了した。結果がnegativeならば,2日後にID発行手続きや担当事務との面談が決まっていたので,ラボへの挨拶をグッとこらえて帰宅することにした。
しかし,帰りのバスが全然来なかった。到着時間を15分すぎても全く来ないので「アメリカって時間にアバウトなの?」と思いつつ,待ちぼうけしても勿体無いので周辺をウロウロすることにした(後日分かったが研究所近辺のみバスの往来が少なく,時間もルーズなようだ)。
しばらく歩いていると非常に美しいハイキングコースを見つけた。本当に綺麗で,このような所に来れたことに感動した(Fig.2)。いつか色々な所をゆっくり放浪してみたいと思っていたが,アラサーになって自然と戯れたのは,仕事のフィールドワークと釣り場への命懸けアスレチックぐらいだった。
物事に根を詰めることは極めて重要だが,一方で自分の人生をより豊かにするために「忙しくてもあえて外の世界を向く」ということも非常に大切なことだと感じた。物事に真剣に没頭することは非常に美しいことで,自分の世界を悩みながらも開拓できる人は本当に尊敬に値する。しかし,飽きやすい筆者にとって自分の考えている概念から全く新しい世界を持ち込まないと,研究にすらすぐ飽きがきてしまうので,こういった時間を確保することはメリハリとして必須であると再確認した。サボりたいだけではない。
最近,悟りを開いた筆者の価値観ではあるが,生命科学の本質である「自然」と向き合うことは,自身の人生に対する姿勢を引き締めてくれる材料だと考えている。何が人生に大切かは個々に違いがあると思うので,私のモットーはコレだ!というものがあれば,本記事のコメント欄やSlack, Twitter,インスタ等で是非教えていただきたい。それを聞くだけでも刺激になりそうだ。
ポンコツ研究者,研究準備を始める
PCRの結果が陰性だった筆者は,海外事務担当との面談を済ませてIDカードを発行して貰い,ついに研究所メンバーの仲間入りをした。筆者の研究所到達日は12/15で,クリスマスウィークが始まった影響から教授と研究室のメンバーが帰省してほぼ居なかったが,自分のデスクと実験場所を確認することができた。
─さぁ心機一転,海外研究の始まりだ!と心を躍らせ,早速,鉄パイプを切りはじめた─
〜〜続く〜〜
関連リンク
いらすとや :アイキャッチ画像の素材引用元。