2021年度科学研究費助成事業 学術変革領域研究(B)に採択された『糖鎖ケミカルノックインが拓く膜動態制御(略称:糖化学ノックイン)』について、研究チームのメンバーにお話を伺いました。
インタビュー第2回は、京都大学大学院工学研究科材料化学専攻・助教の浅野圭佑先生のインタビューです!
純粋化学からケミカルバイオロジーへの挑戦
浅野
有機化学、反応化学が専門で、主に触媒反応を研究しています。
先日発表されたノーベル化学賞の受賞テーマが有機触媒でしたが、正にその有機触媒を使った反応開発です。例えば、不斉合成反応などで医薬品を供給するための「ものづくり」の化学ですね。
浅野
最近は炭素で構築されたオレフィンという官能基を触媒の活性部位として利用したものに興味を持って独自で触媒開発をしています。
浅野
今回の領域は生命科学寄りのゴールを設定していて、私としては未知の領域への挑戦なんです。膜とか細胞、タンパク質すらも触った経験がないので、他のメンバーの方々に教えを請いながら研究を進めています。
浅野
新たに触媒として開発したトランスシクロオクテンというのはこれまで触媒として使われたことがなかったんですが、そのもの自体が反応する”イメージングのタグ”としてはよく使われている分子なんです。つまり生体適合性が非常に高いということが既に広く認められている。
このような分子で触媒としての機能を見出すことによって、ケミカルバイオロジーの新しいツールになるんじゃないかというのがアイデアの出発点になっています。
浅野
これから研究を進めていく部分ではありますが、光を当てることによって非活性のオレフィンから活性のあるオレフィンへの構造変換ができる。つまり、光を当てるタイミングや場所で選択的に触媒活性を生み出すことができるので、時間や空間の制御ができるという話が成り立ちます。
浅野
私は糖が付いたタンパク質の挙動を「みる」グループを担当しています。
独自に開発してきた有機触媒で、膜に刺さっている糖タンパク質が相互作用することで周りにいるもうひとつの生体分子をそのタイミングと場所だけで選択的に標識するような反応や触媒のシステムを開発しようと計画しています。
新しい分野に挑戦するときは「ハードルを上げすぎない」
浅野
似たもの同士だけで集まるよりも、純粋化学をやってきた立場から新たな切り口を見つけて、違う視点でケミカルバイオロジーの研究に参加できればという思いで参加しています。
浅野
実際にバイオロジーに直結するものを触ってないので、技術的な難しさをまだ実感していないというのが正直なところです。
既に実感していることとしては、純粋な化学をずっとやってきたので背景的な知識が乏しく、思いついたことに対して具体的に何をやれば良いかというアイデアを組み立てるところに最初はハードルがありました。
浅野
アイデアを作る段階でこれが面白いことなのか、新しい技術になり得るのかということをメンバーに相談して、たくさんのことを教えていただいてます。それがなければ具体的なアイデアを設定するところまで行けなかったと断言できます。
これまで二年ぐらい話し合いをしてきて、私自身は確実に方向性に対する理解が少し進んだと思います。
浅野
今のところは合成をやってきたときと同じ感覚で触媒を開発したり、モデル反応で検証をしたりしているんですけど、生態系や細胞系に持っていく段階で、おそらく何度も返り討ちにあうことになるだろうと思っています。
浅野
ただ最近ディスカッションしていて思うのが、知らない分野に入って行くときにハードルを上げすぎているところもあるのかなと。
すごい理想的なことを実現しないと、こういう所に入っていけないのかなと想像しているけれど、今できている技術でやれることは探せるといったアドバイスをしてもらったりしています。
浅野
私は留学のチャンスにあまり恵まれなかったのですが、今回のような機会を得たことはちょっとした留学みたいに感じています。新しいことをこの二年間ぐらいで勉強させていただいてるので、すごくありがたいですね。
反応化学の分野をもっと面白く
浅野
この科研費種目ができた際に挑戦したいなということでこちらからお声がけしました。
これまでに取り組んできた合成反応の研究はそれなりに一段落できたので、自分の研究をこのあたりで動かしたい、ちょっと冒険したいというタイミングでした。
浅野
新しい分野に行こうと思ったら、自分から声をかけるしかないというのを今回実感しました。受け身だとどうしても狭くなってしまう。
他の先生方には教えてもらってばかりなんですけど、そういう経緯で入らせていただいています。
浅野
こういう仕事を選んだ以上、難しいことにトライする姿勢は持ち続けたいと思っていますが、今回の領域はそれにぴったりなので頑張りたいです。
今までの流れで続けたい研究もありますが、せっかくなので色んなことにも挑戦したいなという思いがあります。
浅野
だからといって純粋な反応化学をやってきた人間がケミカルバイオロジーに鞍替えするというイメージでは捉えていなくて、反応化学をもっとおもしろくしたいと思っています。
浅野
今までやってきた反応化学という領域がもっと活躍できる場があるはずだし、もっと広がりがあるはず。反応化学の立場で反応化学をもっと面白くするためにも、新しいことにトライしたいという考え方ですね。
浅野
従来の反応化学を私の言葉で表現すると、合成化学のパンフレットの中に反応化学があるという感じなんです。反応化学は、「ものづくり」の化学としてはかなり成熟してきているので、今までのやり方の踏襲だけでは分野が閉じていってしまうと思っています。
反応化学の活躍できる場をもっと広げることによって、反応化学の中に合成化学があったり、ケミカルバイオロジーの技術に繋がるものがあるという風に捉え方を変えたいと思っています。
常識にとらわれず面白いと思う研究を
浅野
言葉には出来ていなかったのですが、受験生の頃からこういう仕事をしたいなと思っていました。だから博士課程に進学することも迷いはありませんでした。
浅野
なぜそう思ったかというと、概念の構築をしたいと思ったんです。個々の研究はそれを実証するための実例。そういうところが好きでこの道に進みました。
今回の領域がすごくいいなと思うのは、概念的なところを大事にしているところですね。研究に対するスタンスとしても非常に面白いと感じています。
最後になりますが何かメッセージがあればお願いします。
浅野
最近は早い段階からたくさんのことを勉強できる環境がある一方で、これまでの研究で分かっている情報が多いために、その中でものを考えてしまうことも増えているように思います。
浅野
常識というのは”今の”常識であって、未来はもっと色んなことができるようになっているかもしれない。だから、今の常識に合わせてしまうと可能性が閉じてしまうように思うんです。
常識が変わった場合を想定して、「こういう研究しておくといいよね」というように、周辺技術は後から追いついていけばいいんじゃないかと楽観的に考えることを最近は意識するようにしています。
浅野
こういう捉え方はメンタリティーとして大事にしておかないと自分達のポテンシャルを抑え込んでしまうことになりかねない。
常識を変えるために研究をやってるので、今の常識にあまりとらわれすぎないで面白いと思うことをやっていくのがいいんじゃないかなと思います。
*本記事は研究室が発信するブログメディア「Hey!Labo」(運営:株式会社ロフタル)による寄稿記事です。
Hey!Labo記事URL:https://hey-labo.com/labo/glycan-chemical-knockin/blog/622
インタビュー担当:株式会社ロフタル
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