2021年度科学研究費助成事業 学術変革領域研究(B)に採択された『糖鎖ケミカルノックインが拓く膜動態制御(略称:糖化学ノックイン)』について、研究チームのメンバーにお話を伺いました。
インタビュー第3回は、大阪大学大学院理学研究科 化学専攻・助教の真鍋良幸先生のインタビューです!
糖鎖の意味、グリココードを解明したい
真鍋
今のポジションになってから10年くらい糖の化学合成をやっています。今回のメンバーの中では僕が一番糖について研究しています。
真鍋
糖鎖は、核酸やタンパク質に続く第3の生命鎖と言われています。
糖鎖が持つ情報は、遺伝子コードとなぞらえてグリココードと言われたりするのですが、それぞれの構造の糖鎖がどういう情報や意味を持っているか全然分かっていない状態なんです。
真鍋
糖はOHが様々な形で繋がっていて、非常に構造の多様性が高いんです。
例えば遺伝子だとGCとかATとかがペアになって鋳型として作られていくんですが、糖鎖は鋳型になるようなものがない。体の中のたくさんの酵素でどんどん作られていくので、かなり複雑な構造となります。
真鍋
遺伝子については、それを欠損させたり、編集したりして、どういう機能が出るかを見るというのが一般的なアプローチなんですが、糖鎖については、構造を改変する技術は確立されておらず、その機能が見えてきていない。これをきちんと化学の力で解明しようという研究をやっています。
真鍋
3つのグループの中では「つくる」がメインです。
糖鎖を使って膜タンパク質の動きを制御するためには、まず均一な糖鎖を化学の力できちんと作ることが重要だと考えています。
そして、糖鎖が付いたときにタンパク質の動きがどうなるかを「みる」ところも担当しています。
真鍋
泥臭いところですが、糖鎖合成のための反応開発、合成ストラテジーをしっかりと確立したいと考えています。
糖鎖を作ったら、その先には糖タンパク質を作る。それぞれの糖鎖が膜ダイナミクス制御に果たす役割を見ていくためのものづくりを担当しています。
チャレンジングな課題に真正面から挑む
真鍋
化合物を使って生命科学をやるケミカルバイオロジーという分野で、生命科学寄りの研究をしています。
化学にしかできない、化合物の構造に基づく厳密な議論を大事にしてやっていきたいなと思っています。
糖鎖については、生物学の主流である遺伝子からのアプローチが有効でない場合が多いので、まさに良い対象だなと感じています。
真鍋
今回のメンバーだと生命科学寄りではあるのですが、ずっと化学を使って生命科学にアプローチする研究に携わってきたので、抵抗はありません。学生のときからそのような研究に携わっていましたので。
他のメンバーの方々と連携する中で、刺激などはありますか。
真鍋
そうですね。化学も生命科学もある程度は分かるのですが、それぞれを専門とする方とは、視点も異なりますので、そのような方々とディスカッションするのは楽しいです。
今回のメンバーは世界でもトップレベルの人達が集まっているので、皆さんそれぞれの武器を持っていて非常に刺激的です。
意気込みなどはいかがでしょうか。
真鍋
糖が大事だと叫ばれ始めてからずいぶん経ちますが、なかなか分かっていないことが多いです。今回のテーマはかなりチャレンジングなテーマだと思います。
そういう難しい課題に真正面から挑み、第3の生命鎖である糖鎖に関しても核酸やタンパク質と同じようなレベルで議論できるようにしていきたい。その第一歩になるような研究にしたいなと思っています。
真鍋
思ったよりスムーズにできているかなと思います。むしろオンラインだからこそ気軽にディスカッションできるというメリットも感じています。お互い集まって勉強会を月一ぐらいでやっていたりするので。
それと同時に直接会ってお酒飲みながら話したいですね。(笑)そのような場から研究が深くなっていくところもあるかなと思っています。
目に見えないものが生き物を制御する不思議に魅力を感じて
真鍋
もともと天然物化学という分野にいたのですが、目に見えない小さな分子が生き物の動き全体を制御するということに対して、不思議だなと思い大きな魅力を感じました。
真鍋
自然の中にあるものから薬だったり毒になるようなものを見つけてきて、それがどのように効いてるか調べるという分野ですね。構造がちょっと変わるだけで、全然違う活性になったりする。化合物で大きな現象を制御できるのが本当に不思議で面白いなと感じています。
真鍋
今は糖を研究していますが、それも構造に多様性があり、それぞれの構造がさまざまな活性と結びついている。どういう構造のものが、どういうおもしろい活性を出せるんだろうというのが一番のモチベーションですね。
真鍋
僕個人としては、やっぱりものづくりができるというところが面白いと思っています。
多様な生命現象を制御できる分子を設計して作ることができるというのは化学の魅力だと思います。実験は大変ですが。(笑)
最後に学生に向けてのメッセージなどございますか。
真鍋
特に化学は時間が掛かって泥臭いところはありますが、実験化学は予想もしなかったことが起こったりします。
狙い通りにいかないことも楽しめるといいのかなと思っています。
なかなか思い通りにいかないところも含めて面白いと思えることが大事な気がします。
*本記事は研究室が発信するブログメディア「Hey!Labo」(運営:株式会社ロフタル)による寄稿記事です。
Hey!Labo記事URL:https://hey-labo.com/labo/glycan-chemical-knockin/blog/626
インタビュー担当:株式会社ロフタル
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