パラジウム触媒を用いた逐次的な分子内アザヘック/C–Hアリール化反応による含窒素多環式骨格の構築法が開発された。本反応を用いて(+)-pileamartine Aの初の全合成が達成された。
パラジウム触媒による1,2-カルボアミノ化を用いた含窒素多環式骨格の構築
カスケード反応は、速やかに複雑な環構造を構築できることから、全合成において重宝される。中でも天然物に頻出する含窒素多環式骨格の構築法としてパラジウム触媒によるオレフィンのアミノ化とC–C結合形成のカスケード反応(分子内1,2-カルボアミノ化)が有用である[1]。近年では分子内C–C結合形成時にC–Hアリール化を組み込んだ手法も開発された。Yangらは、酸素雰囲気下パラジウム触媒を用いてアニリド1の酸化的分子内syn-アミノパラデーション/C–Hアリール化により三環式化合物2の合成法を開発した(図1A)[2]。しかし、この反応はN–H結合の高い酸性度が必要であり、適用可能な基質はアニリド類に限られる。
近年、N–H結合のパラデーションに代わり、N–O結合の酸化的付加を起点とする分子内1,2-カルボアミノ化が報告された。N–O結合の酸化的付加を起点に反応が進行するため、酸化剤の添加が不要であり、N–H結合のパラデーション法の抱える基質制限を補完しうる。2021年にLiangらは、パラジウム触媒存在下オキシムエステル3に対する奈良坂–ヘック/C–Hアルキル化のカスケード反応を用いて環化体4の合成を報告した(図1B)[3]。今回Bower教授らは、ヒドロキシルアミン5のアザヘック/C–Hアリール化反応による三環式骨格構築法の開発に成功した(図1C)[4]。本反応では、まず5がパラジウム触媒に酸化的付加して中間体IM1を形成する。その後、IM1が分子内アザヘック反応して中間体IM2となった後に、C–Hアリール化が進行することで三環式化合物6を与える。また、本反応を用いて(+)-pileamartine A (7)の初の全合成も達成した。
“Complex Polyheterocycles and the Stereochemical Reassignment of Pileamartine A via Aza-Heck Triggered Aryl C–H Functionalization Cascades”
Jones, B. T.; García-Cárceles, J.; Caiger, L.; Hazelden, I. R.; Lewis, R. J.; Langer, T.; Bower, J. F.
J. Am. Chem. Soc. 2021, 143, 15593–15598.
DOI: 10.1021/jacs.1c08615
論文著者の紹介
研究者:John F. Bower
研究者の経歴:
2003–2007 PhD, University of Bristol, UK (Prof. T. Gallagher)
2007–2008 Postdoc, The University of Texas at Austin, USA (Prof. M. J. Krische)
2008–2010 Postdoc, University of Oxford, UK (Prof. T. J. Donohoe)
2010–2018 Royal Society University Research Fellow, University of Bristol, UK
2014–2015 Proleptic Lectureship, University of Bristol, UK
2015–2016 Senior Research Fellow/Senior Lecturer, University of Bristol, UK
2016–2017 Reader in Organic Chemistry, University of Bristol, UK
2017–2020 Professor of Chemistry, University of Bristol, UK
2020– Visiting Professor of Chemistry, University of Bristol, UK
2020– Regius Professor of Chemistry, University of Liverpool, UK
研究内容:アザヘック反応の開発、C–H, C–C結合活性化反応の開発、開発した反応を鍵反応とする天然物合成
論文の概要
著者らはPd2dba3/CgPPh触媒と触媒量のトリエチルアミンと安息香酸ナトリウム存在下、ヒドロキシルアミン5をnBu2O中130 °Cで反応させると三環式化合物6がジアステレオ選択的に得られることを見いだした(図2A)。窒素原子上にメトキシカルボニルやBoc、Cbz基をもつ5が反応し、中程度から高収率で6a–6cを与えた。オレフィン上の置換基R1がフェニル基(5d)やイソプロピル基(5e)であっても反応は進行した。様々なアリール基をもつ5が反応に適用でき、フェニル基上に電子供与基(5f, 5g)や電子求引基(5h)をもつものに加え、フラン(5i)やピリジン(5j)、インドール(5k)などのヘテロアレーンをもつ5が反応し、対応する6を与えた。
本反応のジアステレオ選択性について、著者らは次のように考察した(図2B)。結論から述べると、IM1の可逆的なアミノパラデーション[5]によりcis–IM2が生成し、cis–IM2のC–Hパラデーションを経て6が得られる。アミノパラデーションではフェニル基が立体障害となるためtrans-IM2の生成が優先するものの、trans–IM2のC–Hパラデーションは大きな立体歪みを伴うため起こらない。これら二つの素反応においてC–Hパラデーションが反応の支配段階となるため、熱力学的に不利なcis-IM2を経由して反応が進行し、Curtin–Hammettの原理により本ジアステレオ選択性が発現した。
著者らは、本反応を(+)-pileamartine A (7)[6]の全合成に適用した(図2C)。五工程で得られるキラルな二級アルコール8と9との光延反応でヒドロキシルアミン10を合成した。10を本アザヘック/C–Hアリール化条件に付すことで三環式骨格11を構築した。このとき、切断されるC–H結合の位置異性体が1:1で生じた(単離可能)。その後、二工程を経て7の合成を達成した。なお、7が(–)-pileamartine Aと提唱されていたが、合成した7の旋光度は正の値を示した。このことから、本合成を通じて7が(+)-pileamartine Aであり、7のエナンチオマーが(–)-pileamartineAであると構造訂正がなされた。
以上、パラジウム触媒を用いたアザヘック/C–Hアリール化によるヘテロ環形成反応が開発された。類似のカスケード反応へと展開できれば、様々なアザヘテロ環をあざとく合成できそうである。
参考文献
- (a) Yip, K.-T.; Yang, M.; Law, K.-L.; Zhu, N.-Y.; Yang, D. Pd(II)-Catalyzed Enantioselective Oxidative Tandem Cyclization Reactions. Synthesis of Indolines through C–N and C–C Bond Formation. J. Am. Chem. Soc. 2006, 128, 3130–3131. DOI: 10.1021/ja060291x (b) Du, W.; Gu, Q.; Li, Z.; Yang, D. Palladium(II)-Catalyzed Intramolecular Tandem Aminoalkylation via Divergent C(sp3)–H Functionalization. J. Am. Chem. Soc. 2015, 137, 1130–1135. DOI: 10.1021/ja5102739
- Yip, K.-T.; Yang, D. Pd(II)-Catalyzed Intramolecular Amidoarylation of Alkenes with Molecular Oxygen as Sole Oxidant. Org. Lett. 2011, 13, 2134–2137. DOI: 10.1021/ol2006083
- Wei, W.-X.; Li, Y.; Wen, Y.-T.; Li, M.; Li, X.-S.; Wang, C.-T.; Liu, H.-C.; Xia, Y.; Zhang, B.-S.; Jiao, R.-Q.; Liang, Y.-M. Experimental and Computational Studies of Palladium-Catalyzed Spirocyclization via a Narasaka–Heck/C(sp3 or sp2)–H Activation Cascade Reaction. J. Am. Chem. Soc. 2021, 143, 7868–7875. DOI: 10.1021/jacs.1c04114
- Hazelden, I. R.; Carmona, R. C.; Langer, T.; Pringle, P. G.; Bower, J. F. Pyrrolidines and Piperidines by Ligand-Enabled Aza-Heck Cyclizations and Cascades of N-(Pentafluorobenzoyloxy)carbamates. Angew. Chem., Int. Ed. 2018, 57, 5124–5128. DOI: 10.1002/anie.201801109
- White, P. B.; Stahl, S. S. Reversible Alkene Insertion into the Pd–N Bond of Pd(II)-Sulfonamidates and Implications for Catalytic Amidation Reactions. J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 18594–18597. DOI: 10.1021/ja208560h
- Thuy, A. D. T.; Thanh, V. T. T.; Mai, H. D. T.; Le, H. T.; Litaudon, M.; Chau, V. M.; Pham, V. C. Pileamartines A and B: Alkaloids from Pilea aff. martiniiwith a New Carbon Skeleton. Tetrahedron Lett. 2018, 59, 1909–1912. DOI: 1016/j.tetlet.2018.03.070