概要
2021年11月、富士フイルム和光純薬の構造式検索がリニューアルされ、試薬の検索がさらに便利になりました!ぜひブックマークしてご活用ください。
突然ですが、皆さまは有機化合物の構造式にどんなイメージをお持ちでしょうか?有機化学に関わる方にとっては共通言語のようなものですので、深く考えたことはないかもしれないですが、テキスト表現のみでは困るケースも多いかと思います。機械的にデータを処理する場合にはSDFのような方式が適していますが、人間は空間や概念的なものを的確に把握する能力に長けていますので、化学構造式で表現したほうが立体や結合の形態を理解しやすい傾向があります。このような化学構造式で表現のメリットをいくつかあげてみます。
化学構造式のメリット
- 言葉では伝わりにくい置換基の位置や立体について、明確に表現できる
- 文字入力が面倒であったり、間違えやすい分子構造も正確に表現できる
- 類似体の比較、反応前後の構造の変化などをダイレクトに表現できる
そんなメリットがある構造式を描画して直接検索できるのが、試薬メーカーの「構造式検索」です。既にご理解されている方も多いと思いますが、改めてそのメリットを列挙してみます。
構造式検索のメリット
- 化合物名やCASが不明な場合でも、構造式を描画して検索できる
- 化合物名が複雑な時は、構造式入力のほうが短時間で検索できる
- おおまかな構造を描けば、部分一致検索で候補化合物群が検索できる
- 類似度や各パラメータなどの機能を使えば、詳細な絞りこみ検索ができる
構造式検索は直感的に使えるツールですので、基本的な方法であれば誰かに教えてもらわなくてもできるかもしれませんが、あまり知られていない便利な描画方法や機能も多いです。もっと効率的な方法を追求したい!自分にあった方法を見つけたい!とお考えの方に向けて富士フイルム和光純薬の構造式検索を例にして詳しく紹介していきます。
基本操作
一連の使い方に関する説明については、右上の「検索の使い方」のボタンから確認できます。また、各描画ツールアイコンの機能については、描画画面下の「描画アイコンの使い方」から確認していただけます。
便利な使い方① - ChemDrawからのコピー&ペースト
複雑な構造の描画にはそれなりに時間がかかってしまいます。そんな時に便利な方法が、MOL Textを使ったChemDrawからのコピー&ペーストです。報告書の作成や実験ノートを書くときなど、すでにChemDrawで描画したことがある構造式があれば、簡単に転記できます。
STEP 1:ChemDraw画面から対象の構造式を選択し、“EDIT”→“COPY AS”→“MOL Text”を選択します。
STEP 2:構造式検索画面情報で“CTRL+v”でペーストして、検索ボタンを押すと構造式が描画されます。
描画にやや手間がかかる場合であっても、目的の構造を一発で入力できます。その後で置換基の付け足しもできるので、よく検索する化合物の骨格は入力用のテンプレートをChem Drawで作っておくと便利です。
便利な使い方② - 官能基略語での入力
構造式の描画では官能基略語がよく使われます。描くときも見るときも分かりやすいこの方法は、構造式検索においても活用できます。
例として、L-トリプトファン(CAS: 73-22-3)にFmoc基とBoc基を導入したNα-FMOC-N’-BOC-L-トリプトファン(CAS: 143824-78-6)を描画してみましょう。
STEP 1:L-トリプトファンの構造を描画し、構造式検索画面の左下のアイコンをクリックします。
STEP 2:表示されたダイアログに略語を入力します。1,2文字入力すると候補が表示されますので入力したいものをクリックします。この状態で結合させたい部位にFmoc基とBoc基を導入します。
また、正式な構造に変換したいときは、略号を右クリックして“Expand”を選択すると、その骨格が表示されます。
官能基略語を使うと、置換基が多い化合物の描画作業を短縮できます。登録されている略語の種類はかなり多く、一般的な長鎖アルキル基やエステル基もありますので、結合を1つずつ伸ばしていくより効率的です。いろいろ試してみてはいかがでしょうか?
便利な使い方③ - and検索/not検索
部分構造検索で誘導体を検索する場合、同じ結合位置に複数の官能基を持つ化合物が候補になる場合があります。例えばハロゲン化アリールであれば、ハロゲン種は問わない場合とか、複素環化合物でヘテロ原子を変えたい場合などです。
1つの化合物を描画して検索し、その後で変更して再検索という操作が面倒と感じたことはありませんか?その場合におススメしたいのが“and検索”を用いた一括検索です。逆に特定の置換基を入れたくないという場合には、“not検索”も活用できます。
それでは、ハロゲン化アリールの検索でCl, Br, Iの3種類全てを候補として検索したい場合を例として、and検索の使い方をみていきましょう。
STEP 1:複数の官能基を選択したい部分で右クリックし、“Atom propaties”を選択します。
STEP 2:プルダウンメニューから”List/Not list“を選択します。
STEP 3:List typeを“Atom list”として”Elements“に複数の元素をカンマつなぎで入力し、OKを押します。
STEP 4:[Cl, Br, I] というように表示されれば、複数の置換基が選択された状態となります。
逆に特定の元素を含む置換基を含めない条件も設定できます。例えばN, Sが結合した置換基を除外したい時は、List typeを“Atom list”から”Not/List“として、N, Sと入力し、OKを押します。図のように Not[N, S] と表示されれば、この元素との結合がある候補化合物は除外されます。
誘導体の検索では、その目的によって方法を工夫すると効率的です。候補化合物を全て網羅したいケースもありますし、候補が多すぎたり予め不要な構造が分かっている場合は、最初から条件を付けて除外しておくケースもあります。詳細な検索条件が設定できますので、ぜひお好みの方法を開発してみてください。
便利な使い方④ - 特注合成依頼フォーム
検索の結果、市販の試薬がなかった、、、でもどうしてもこの試薬が欲しいという場合は、特注合成の依頼をご検討ください。ここでは描画した構造式を保持したまま見積依頼画面に移動しますので、前の画面を見返す必要はありません。また、SMILES情報も自動で入力されますので、見積作業までスムーズに移行できます。
検索結果がなかった場合、ご自身で合成する選択肢も当然ありですが、化合物によってはそう簡単にいかないケースもあります。特注合成を活用すれば、発注から納期までの間は別の検討に全集中できますので、研究も捗るのではないでしょうか?
便利な使い方⑤ - 候補化合物の効率的な絞り込み
“部分構造検索”では、件数無制限で該当する化合物を表示します。画面をスクロールしながら1つずつクリックして詳細を確認する繰り返し作業は面倒ですし、表示された順番が離れていると紙にメモしたり、前の画面に戻って見直したりと何かと手間がかかります。このような作業では抜け漏れも発生しがちです。ご自身で選んだ候補化合物だけをリスト化して並べて比較したい。そのように思ったことはありませんか?ここで試していただきたいのが、2段階の絞り込み機能です。
では、1,4-ジブロモベンゼンの誘導体の中から、必要な候補化合物を選んでリスト化する場合を例にしてみていきましょう。
STEP 1:構造式描画画面で描画後、部分構造検索を選択して検索ボタンを押します。
STEP 2:検索結果として390件(※2021年11月現在)の構造式一覧画面が表示されました。例として、この化合物群から「芳香環にNH2基が結合した化合物」のみを候補としていきます。該当する化合物をクリックすると、選択した化合物が赤枠になります。選び終えたら画面下にある製品検索ボタンを押します。
STEP 3:選択した化合物のみを対象とした詳細な検索結果が表示されます。構造式の下にある「化合物情報を表示」にマウスオーバーすると、名前、SMILES、分子式、分子量の情報が表示されます。同一化合物で複数の取り扱いメーカーがある場合は、メーカーごとに表示されます。下にスクロールしても構造式の表示も追随して動いて常に表示されますので、化合物名と構造式を同時に確認できます。
まずは検索でHITする候補化合物を全て確認してみたい場合や、基本骨格だけ決まっていて、どんな置換基を持つ試薬があるか確認したい場合は特に使いやすいです。ご自身で選択した化合物に絞り込むので、抜け漏れがない検索ができます。
便利な使い方⑥ - 過去の検索結果を有効活用
検索履歴はブラウザの機能で保存されますので、同じ端末、同じブラウザであれば過去に描画した構造式を呼び出すことができます。例えば、過去に検索した化合物を少しだけ変更して再検索したい時に便利です。この機能を使えば、空白の画面にゼロから描画しなくても検索できます。
この機能のもう一つの利点は、検索回数が多くなるほど保存される構造も増え、使えば使うほど類似化合物の描画時間が短縮されるというものです。よく使う試薬が決まっている場合も有効です。
STEP 1:構造式描画画面で、「検索履歴から検索」を押します。
STEP 2:過去に検索した化合物の履歴が表示されます。この中から呼び出したい化合物をクリックします。マウスオーバーで赤色になります。
STEP 3:構造式描画画面に移動すると同時に、選択された描画情報が追記・変更可能な形式で転記されます。
おわりに
今回、構造式検索の色々な機能をご紹介しました。いかがだったでしょうか?構造式を用いればCASや化合物名が分からなくでも、類似化合物までは一括で検索できます。論文を執筆する際、数種の基質を用いて収率を比較したい場合や、創薬研究におけるスクリーニングの場面など、複数の試薬を購入するケースでは今回のような一括検索が便利です。ここで紹介したテクニックを参考にしていただければ、検索の効率アップが期待できます。
関連サイト
富士フイルム和光純薬 『構造式検索』 ブックマークが便利です!