有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2021年12月号がオンライン公開されました。
もう年の瀬ということに衝撃を受けつつ、今日も分子や研究室メンバーと戯れています。
有機合成化学協会誌は今月号も充実の内容です。
キーワードは、「人工核酸・Post-complexation functionalization・芳香環の触媒的不斉水素化・ルテニウムカーバイド錯体・無溶媒触媒反応」です。
今回も、会員の方ならばそれぞれの画像をクリックすればJ-STAGEを通してすべてを閲覧することが可能です。
巻頭言:「デジタル有機合成」〜研究環境・研究マインドの変革〜
今月号は九州大学大学院薬学研究院 大嶋 孝志 教授による巻頭言です。
新しく学術変革領域研究(A)「デジタル有機合成」が2021年9月に発足しました。大嶋先生の熱い思いを存分に感じられる巻頭言になっています。オープンアクセスです。
核酸医薬を指向したカチオン性側鎖を有する新規人工核酸の合成
核酸分解酵素への抵抗性・2本鎖安定性・膜透過性の向上を目指した人工核酸の開発研究に関する総合論文です。どのように人工核酸を設計・合成していくかがわかります。
Post-complexation functionalizationによるシクロメタレート型イリジウム(III)錯体の機能化と生命科学および材料科学への応用 ―金属錯体をビルディングブロックとする機能性分子の創製―
青木 伸1,2,3*、横井健汰1、Chandrasekar Balachandran3、久松洋介4
*1東京理科大学薬学部生命創薬科学科
2東京理科大学研究推進機構総合研究院
3東京理科大学研究推進機構生命医科学研究所
4名古屋市立大学大学院薬学研究科
シクロメタレート型イリジウム(III)錯体は、発光ダイオードや細胞イメージング材料として利用されている非常に重要な化合物です。今回、東京理科大の青木先生らは、Ir(III)錯体の配位子を自在に化学修飾し、薬剤・センサー等に応用可能な様々な機能性材料を生み出す研究を報告しています。
芳香環の触媒的不斉水素化
触媒的不斉水素化反応は、光学活性化合物の強力な合成手法である。本総合論文で述べられている芳香族複素環の不斉水素化反応は、多置換含窒素環状化合物を化学および立体選択的に与える優れた手法である。さらに、より芳香族安定化の度合いの大きな芳香族炭素環の不斉水素化は、この分野のさらなる可能性を感じさせる。ぜひご一読ください。
ルテニウムカーバイド錯体を起点とする炭素鎖成長反応
*大阪府立大学大学院理学系研究科分子科学専攻
天然ガスや石炭等から液体炭化水素を得るフィッシャー・トロプシュ反応、その炭素鎖成長メカニズムを著者らはユニークな二核ルテニウムプラットフォームを用いることにより可視化することに成功しました。是非、ご一読下さい。
無溶媒触媒反応を基軸とする環境調和型有機合成
2020年度有機合成化学協会企業冠賞 東ソー・環境エネルギー賞受賞
* 岡山大学学術研究院自然科学学域
反応溶媒を何にするか悩んでいるそこのあなた!無溶媒という選択肢がありますよ。有機合成化学では盲目的に溶媒を加えて反応をおこなっているのではないだろうか?本総合論文を読んでほんとに溶媒が必要なのか考えてみてはどうだろう?
Review de Debut
今月号のReview de Debutは1件です!オープンアクセスですのでぜひ。
キラル硫黄中心を利用した不斉転写型転位反応 (東北大学大学院理学研究科) 中西大志
ラウンジ:有機合成における発想とその展開 ―セレンディピティに恵まれて―
2020年度有機合成化学特別賞受賞
*名城大学農学部
DPPAやTMSジアゾメタンなど、多数の合成研究者が幾度となく使用してきた超有用試薬の産みの親、塩入孝之名誉教授の研究者人生の回顧録とも言える内容である。様々な先駆的研究テーマを着想したきっかけや、展開の経緯が丁寧に記載されており、初学者でも先生の偉大なキャリアを追体験できるような構成となっている。
感動の瞬間:有機合成42年―思い出すままに
今月号の感動の瞬間は、高知大学 小槻日吉三 名誉教授による寄稿記事です。ぜひご覧ください!
これまでの紹介記事は有機合成化学協会誌 紹介記事シリーズを参照してください。