ここ一年ほどの間、病院や薬局で「いつものお薬が品薄で…」と言われたことはありませんか。定期的に病院を受診されている人の中には、これまで処方されていた薬が別のものに切り替わった、という方もいるかもしれません。医薬品業界では今、ジェネリック医薬品を中心に波乱が巻き起こっているようなのです。気管支喘息のために定期的に病院に通っている筆者も、何が起こっているのか、一患者として気になるところです。
ジェネリック医薬品(後発薬)が全国的に品薄となっている。後発薬メーカーの不正などで供給が減っていることが原因。
後発薬メーカーの不正とは、いったいどういうものでしょうか。
2021年12月3日には日本経済新聞のWebサイトに「睡眠剤混入の小林化工、サワイに後発薬全工場を譲渡」という記事が掲載されました。
睡眠剤混入。そういえば昨年、「水虫薬に睡眠薬が混入」というニュースが話題になっていたような…。小林化工株式会社といえば、ジェネリック医薬品(後発医薬品)の大手製造メーカーです。
そもそもジェネリック医薬品って何?
筆者の幼少期には「ジェネリック医薬品」という言葉はまだほとんど世の中に出回っていなかったと思います。日本で行政がジェネリック医薬品の普及を促進しだしたのは、2000年過ぎ頃です。
医薬品には、一般の薬局・薬店で販売されている「一般用医薬品」と、医療機関で診察を受けたときにお医者さんから処方される「医療用医薬品」があります。さらに、「医療用医薬品」は、先発医薬品と後発医薬品とに分かれていて、後発医薬品はジェネリック医薬品とも呼ばれています。
先発医薬品(新薬)は、医薬品メーカーによって独占的に製造・販売できる特許期間等があります。しかし、その特許期間等が終わると、有効成分や製法等は国民共有の財産となり、厚生労働大臣の承認を得れば、他の医薬品メーカーでも製造・販売することができるようになります。先発医薬品の特許等の期間満了後に販売される医薬品がジェネリック医薬品です。
厚生労働省 Webサイト より
特許が切れた薬の成分を用いて各メーカーがそれぞれに製剤して販売するため、もともとの医薬品(先発医薬品)よりも安価に製造販売できるーというのがジェネリック医薬品の特徴です。
何が起きたのか?
2020年12月、小林化工株式会社が製造した水虫の治療薬「イトラコナゾール錠」に、本来であれば含まれていないはずの睡眠導入剤の成分が混入しており、服用者にふらつきや意識消失などの健康被害が発生していることが明らかになりました。錠剤の製造過程で原料を追加する際に、容器の取り違えがあったということです。死者も出たことから事態は非常に重く受け止められることとなりました。
小林化工によると、担当者は7月ごろ、製造過程で原料を継ぎ足す際、本来入れるべき成分が入った小型缶と、睡眠導入剤成分が入った大型容器を取り違えた。
ただし、そもそも「途中の継ぎ足し」という工程そのものが厚生労働省に認められたものではありません。
小林化工では、立入検査に備えた偽物の帳簿が用意されていたことなど、複数の不正があったことが明らかになりました。
県などによると、睡眠導入剤が混入した薬イトラコナゾール錠50「MEEK」の製造に関する法令違反としては、厚労省の承認外の手順による工程があったほか、新たに、立ち入り調査に備えて適切な工程を装った裏帳簿をつくったことや出荷前の品質検査で結果の捏造(ねつぞう)があったとした。
さらにその後、複数のジェネリック医薬品製造メーカーの法令違反が相次いで明らかになりました。もっとも衝撃的だったのは、業界最大手の一つである日医工株式会社の違反が明らかになったことです。
まず、2020年12月、小林化工(福井県あわら市)が製造したジェネリックの皮膚病薬の服用者から健康被害が報告された。
(中略)
同じ頃、業界最大手の一角、日医工(富山市)でも同様の違反行為が見つかった。20年2月、富山県による立ち入り調査で最初の違反が判明。県は調査をさらに進め、翌年3月に発表した。不正は少なくとも10年前から行われていたという。
日医工が犯したGMP省令違反は大きく2つある。[1]不適正な廃棄回避と[2]安定性試験などの不実施――である。
小林化工株式会社は福井県から製造業務に対する116日間の業務停止命令(2021年2月10日から2021年6月5日まで)を受け、日医工株式会社は富山県より32日間(2021年3月5日から2021年4月5日まで)の業務停止処分を受けました。
これら2社の処分によって、代替薬の必要性が急速に高まったものの、他社も急な出荷量増加は困難であり、市場に医薬品が不足。
そしてこの流れの中でさまざまなジェネリック医薬品メーカーが独自の自主点検を実施した結果、小林化工と日医工を含む多数の企業が製造する複数種類のジェネリック医薬品について、各メーカーでの自主回収が現在も次々と実施される事態となっています。例えば最近では2021年11月25日付で、気管支喘息の治療で汎用されているテオフィリン錠の自主回収が、日医工とサワイの2社から発表されました。
各社での製造停止や自主回収により、さまざまな医薬品が不足する事態となってしまっているようです。新型コロナへの対応で医療関係者が疲弊する中、現場の混乱に歯止めがかからない状況です。
火事の影響は?
医薬品不足が叫ばれる中、2021年11月29日に大阪で起こった医薬品を保管する物流倉庫の火災によって状況がより深刻化するのではないかという危惧もあるようです。
この火災の影響がどの程度あるのかは現時点では不明です。
終わりに
医薬品の不足は、一朝一夕で解決する問題ではなさそうです。
一部の医薬品では後発品だけでなく先発品も不足しているとのことで、医薬品不足をホームページで案内する病院も出てきています。
各地の薬局では、「出せる薬が毎回変わってしまう(その時々で、入荷できるジェネリック医薬品が変わってしまっており、毎回異なるメーカーの製剤を出さざるを得ない)」という状況になっているようです。説明事項が増えるのはもちろん、そもそもはっきりした原因がわからず(問題は製造なのか?流通なのか?)、説明したくても説明できない、とか。患者側からしても毎回薬の見た目が変わることで不安感が生まれたり、薬の管理が大変になったりするといったデメリットがあると考えられます。
患者としては、その時処方された薬について正しい知識を得ることくらいしかできないのが歯痒いですが、とにかく、今後の動向には気をつけていたいと思います。
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