有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2021年11月号がオンライン公開されました。
11月ですね。日本化学会年会での発表に向けて色々とスパートをかけています。みなさまいかがお過ごしでしょうか。
有機合成化学協会誌は今月号も充実の内容です。今月号は、年に一度の英文特集号です!全てオープンアクセスですのでぜひご覧ください。
研究室に入りたての学生さんも、英文に慣れてきましたでしょうか。
今回も、会員の方ならばそれぞれの画像をクリックすればJ-STAGEを通してすべてを閲覧することが可能です。
Diversityは昨年特に化学分野で話題になりましたね。研究に強く関わる要素だと思います。必読です。
Development of a High-Throughput Strategy for Functional Enhancement and Alteration of Antibacterial Natural Products
異常アミノ酸を含む複雑な天然由来抗菌ペプチドから医薬品として最適な化合物を導く研究で、lysocin Eとgramicidin Aの2例を紹介している。ライブラリーの構築にはone-bead-one-compound(OBOC)法を採用しているが、複雑なペプチド性天然物への初めての戦略的かつシステマティックな適用例と言える。
Carbocation Generation by Organophotoredox Catalysis
長尾一哲、大宮寛久(金沢大学医薬保健研究域)
「可視光フォトレドックス触媒」と「ラジカル-極性交差反応」、一粒で二度おいしい有機分子触媒を巧みに用いた、非酸性条件下におけるカルボカチオンのエレガントな発生法を鍵とする種々の炭素-ヘテロ元素、および、炭素-炭素結合形成反応がまとめられています。是非、ご一読下さい。
Pseudo Base Pairs that Exhibit High Duplex Stability and Orthogonality through Covalent and Non-covalent Interactions
樫田 啓、浅沼浩之(名古屋大学大学院工学研究科)
DNAやRNAでは、相補的塩基対の間にはたらく水素結合やスタッキングによって二重らせん構造が安定化されています。本論文では、様々な分子設計指針に基づいて塩基対部位を非天然型構造に改変し、二重らせん構造をより安定化した研究成果を紹介いただいています。
Fluorescent Probes for Quantification of Labile Metal Ions in Living Cells
小和田俊行、水上 進(東北大学多元物質科学研究所)
細胞内の様々なオルガネラ内に存在する特定の金属イオン濃度を、長時間にわたって可視化・定量できる蛍光プローブの開発が解説されています。金属イオン濃度の蛍光イメージングに必要な要件が、基礎的な部分から紹介されていて、専門外の読者でも分野の状況を概観できるお勧めの論文です。
Amphiphilic Peptides with Flexible Chains for Tuning Supramolecular Morphologies, Macroscopic Properties and Biological Functions
ゲル化特性を持つ自己集合性ペプチドの、美しい構造物性相関が味わえます。多彩な構造解析法や物性測定、理論計算に基づき、徹底的な検討をされている様子も必見です。また、この手の材料に対し、どのような測定をすれば良いかの勉強にも最適です。
Theoretical Views on Catalytic Reaction Pathways for Nitrogen Fixation by Dinitrogen-Bridging Dimolybdenum Complexes
東京大学の西林教授らによってPNPピンサー配位子をもつモリブデン(0)錯体では、常温・常圧で、アンモニアに還元されることが明らかになった。量子化学理論の大家である著者らは分子軌道の概念を用いてMo-NN-Mo錯体の高い反応性を大変美しく説明した。
Nanocars based on Polyaromatic or Porphyrinic Chassis
西野智雄、C. J. Martin、安原主馬(奈良先端科学技術大学院大学)
Gwenael Rapenne(CEMES–CNRS・奈良先端科学技術大学院大学)
2016年に「分子マシン」でノーベル化学賞を受賞されたJean-Pierre Sauvage先生の系譜を継ぐ、Gwenael Rapenne先生の、「ナノカー」開発に関する総合論文です。詳細な研究内容のみならず、研究過程における思考の経緯まで伝わってくる熱い内容となっておりますので、是非ご一読を!
How to Install Boron into Aromatic Scaffolds ~Chemistry of Diazadiborinines~
ベンゼン環の炭素を窒素およびホウ素で置き換えるとどうなるでしょう?見た目はベンゼンと同じ構造ですが、その反応化学にはベンゼンとは別次元の豊かさがあります。「炭素2,窒素2,ホウ素2」のジアザジボリニンについてまとめた本論文は、新しい分子変換法につながるアイデアを沢山与えてくれるでしょう。
Enantioselective Cooperative Catalysis within Frustrated Lewis Pair Complexes
和佐雅幸、A. Yesilcimen (Boston College)
Boston CollageでPIとして活躍する和佐雅幸博士の出世作Frustrated Lewis Pair錯体の精密制御によるエナンチオ選択的協奏触媒のコンセプトと発展の歴史がコンサイスに紹介されています。
ラウンジ:How to explain an SN2 reaction?
久々のラウンジ!今回は村上正浩先生と田中一義先生の寄稿記事で、SN2反応について記されています。
これまでの紹介記事は有機合成化学協会誌 紹介記事シリーズを参照してください。