この化学者のためのエレクトロニクス講座では半導体やその配線技術、フォトレジストやOLEDなど、エレクトロニクス産業で活躍する化学や材料のトピックスを詳しく掘り下げて紹介します。
今回は電解ニッケルめっきを取り上げます。
ニッケルは卑金属でありながら比較的耐食性に優れており、拡散しにくいという利点もあります。そのため、電子機器における銅の配線層と貴金属の間のバリア層として広く用いられています。そのほか、磁性材料や装飾用途もあります。近年では無電解めっきでの加工も主流となりつつありますが、ここでは従来の電解めっきを見ていきます。
ニッケルめっき浴
代表的なニッケルめっき浴にはO.P.Wattsによって開発されたワット浴と、スルファミン酸ニッケルを主体とするスルファミン酸浴があり、これらと別に、下地層形成に用いられるストライク浴があります。
ワット浴はもっとも古典的なニッケルめっき浴です。その主成分は硫酸ニッケルで、これにニッケルアノードの溶解を促進する塩化ニッケル、カソードでのHERを抑制するホウ酸のほか、必要に応じて光沢剤が添加されています。
一方のスルファミン酸浴は主成分のスルファミン酸ニッケルのほかにホウ酸と必要に応じた光沢剤が添加されています。得られる被膜の残留応力が少なく、均一に析出しやすいことが利点です。
ニッケルストライク浴は、塩酸に少量の塩化ニッケルを溶解した希薄な浴で、HERが優先してニッケルの析出効率を低下させ、粗雑な被膜を作ることを目的としています。
光沢剤の原理
ここで、光沢剤は平滑な表面を与えることでめっき被膜に光沢をもたらす作用のある試薬で、皮膜の金属結晶を微細化する一次光沢剤と、さらに細かい凹部を埋める(レベリングする)二次光沢剤に大別されます。光沢剤を加えない浴を無光沢めっき、一次光沢剤のみの浴を半光沢めっき、一次光沢剤と二次光沢剤を加えた浴を光沢めっきと呼びます。
また、一次光沢剤、二次光沢剤と加えていくごとにめっき被膜は平滑となり、光沢が増しますが、皮膜の硬度が増大することで割れやクラックなどの不良も増加します。特にスルファミン酸浴ではもとからやや光沢気味に仕上がることから注意が必要とされます。
一次光沢剤にはベンゼンスルホン酸などの芳香族スルホン酸や芳香族スルホン酸アミド、サッカリンなどの芳香族スルホン酸イミドが用いられています。サッカリンを例にとってみると、ニッケル表面に吸着して還元され、ニッケル被膜中に硫黄を受け渡して自身はベンズアミドとなります。
C6H4CONHSO2 + 6H+ + 6e– →C6H5CONH2 + NiS + 2H2O
一方、二次光沢剤にはホルムアルデヒド(ホルマリン)などのアルデヒド、アリルスルホン酸などのアリル化合物や、2-ブチン-1,4-ジオールなどのアセチレン誘導体が用いられています。代表的な2-ブチン-1,4-ジオールはカソード上で還元されてブタンジオールとなりますが、この反応は極めて速く、拡散律速となるためにめっき皮膜は平滑になります。
HOCH2C≡CCH2OH + 4H+ + 8e– →HO(CH2)4OH + 2H2O
なお、一次光沢剤中の硫黄原子はめっき被膜に共析し、その電位を卑に傾けるため腐食しやすくなる欠点もあります。
用途と今後の展望
ニッケルめっきはバリア層としての用途が極めて重要ですが、ワット浴をはじめ従来のめっき液ではピンホールなどの不良が生じやすいという本質的な問題もありました。ピンホールがあるとそこから銅原子は拡散して表面で酸化されてしまうため、腐食などの不良につながります。しかし、近年の微細化要求の高まりと金属価格の高騰はめっき膜厚の低減を求めており、ますますこれらの課題が顕在化することとなります。めっき不良を起こさずに膜厚を低減するための添加剤研究は日夜続けられており、近年では低濃度のニッケル浴を用いた省資源化・省エネルギー化も進展しています。今後の進展に期待が高まりますね。
関連書籍
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