日本で一番高いところにある化学の研究室はどこのグループだろうか。そんな誰もが思う疑問(そんな疑問を持つのはお前だけだろ!)について調べてみました。
きっかけと調べ方
ビルの高層階で、遠くの山々や眼下に広がる建物を眺めながらスタバのコーヒー片手に優雅に仕事を進める。そんな都会のサラリーマンライフを憧れることは誰しも一度はあるかと思います。では化学の研究室がそんなビルの高層階にあるのかというと、実験室が必要である限り極めて高い階にあることは安全上難しく、何階までなら化学の研究室が実在するのか気になっていました。また筆者は学生時代にそこそこの階の居室と実験室で研究を行っていて、最も高い位置にある研究室は何処なのだろうという素朴な疑問を持っていました。このような個人的な興味から日本で一番高いところにある化学の研究室を調べてみることにしました。
では調べるにあたって、本記事内での日本で一番高いところにある化学研究室の定義ですが、化学に関する研究を行っているグループの実験室・居室とし、教授室や教員のみの部屋は含めないことにしました。実験室に限定して調べようとしましたが、居室と実験室を明示しているグループのサイトが少なかったので、学生が日常的に研究実務を行っている場を調査対象にしました。日本中の化学研究グループの所在地を網羅的に調べるには途方もない時間がかかりますので、「X階 化学 研究室」とGoogleで調べてヒットした研究グループを見ていき、ヒットがなくなった階層の一つ下で最も高い階の研究室として決定しました。
では早速8階から見ていきます。
8階
- 名古屋大学大学院工学研究科 理論・計算化学研究室:様々な分子集合系のシミュレーション技術の開発を研究内容とされています。メンバーの居室が工学研究科1号館8階にあります。
- 京都大学大学院理学研究科 集合有機分子機能研究室:π 共役分子やヘテロナノグラフェン系化合物の新輝合成と機能発現について研究されているグループです。研究室は理学研究科 6 号館北棟 8 階です。
- 九州大学大学院工学研究院応用化学部門分子教室・久枝研究室:錯体化学・有機合成化学を基盤とした人工酵素の開発に取り組んでいる研究グループです。研究室はウエスト3号館8階です。
- 九州大学大学院工学研究院化学工学部門 三浦研究室:バイオミメティック機能材料の開発を行っています。研究室はウエスト4号館8階で、実験室、居室、教員室の部屋番号よりすべてが8階にあることが分かります。
検索結果の上位を紹介しましたが、上記以外にも8階に研究室を構えるグループはまだまだあり、珍しくはないようです。
9階
- 九州大学大学院理学研究院化学部門 錯体物性化学研究室:金属錯体を使用して新しい機能を発現させる研究を行っているグループです。ウエスト1号館9階に居室を構えているようです。
- 名古屋大学大学院工学研究科 生命分子工学専攻 村上研究室:人工抗体や改変リボソーム・改変翻訳系、タンパク質化学合成に取り組んでいる研究グループです。居室と実験室が工学部1号館9階にあります。
- 大阪工業大学工学部応用化学科(9階から11階):9階から11階に科の研究室が集まっているようです。
8階同様、他にも9階で研究を行っているグループはいくつかあり、珍しくはない印象を受けます。
10階
- 九州大学大学院理学研究院化学部門 量子生物化学研究室:統計力学・量子力学を使って液相中の化学現象を研究しているようです。ウエスト1号館 10階に研究室があるようです。
- 近畿大学薬学部 創薬科学科 医薬品化学研究室:複素環骨格を構築する新しい有機合成反応の開発研究や環境負荷の小さい反応剤を用いた反応の開発を行っているグループです。38号館10階に研究室があります。
- 福山大学薬学部生体有機化学研究室:ペプチド、標的タンパク質に関連した創薬研究とカテキンの研究を行っているグループです。新しく建設された未来創造館10階に2021年に引っ越したそうです。
ほとんどのサイトには実験室がどこにあるかは明記されていませんが、同じ階か近くの階であると考えると、想像以上に高い階に化学系の研究室が設けられていて驚きました。
11階
- 大阪工業大学工学部応用化学科 物質生命化学研究室:9階で紹介した大阪工業大学の1グループで、 水中酸化反応システムや機能性界面活性剤、新規抗マラリア薬の開発やバイオディーゼル製造に関わる研究を行っています。10号館11階に研究室があります。
筆者調べの上記研究室に加えて、この記事を発表後にTwitterより11階の研究室の紹介がありました。
東京理科大学 先進工学部生命システム工学科 吉田研究室:有機金属化学やヘテロ元素化学における新規反応開発を行われているグループです。今年の4月にスタートした新しい研究室です。研究棟 11階に研究室があります。
東京理科大学 吉田研究室が11階にあります!研究室そばの廊下窓から見える景色もいいですよ!
AK https://t.co/fgBKt3dG36 pic.twitter.com/o0VmFzU74G— 吉田(優)研究室 (@S_Yoshida_Lab) October 30, 2021
12階
- 早稲田大学理工学術院創造理工学部環境資源工学科 大気・水圏環境化学研究室:大気・降水、自然環境に関する研究を行っているグループです。51号館12階11号室に研究室があります。
自分の検索ではこちらの研究室より高い階の研究室は見つからず、大気・水圏環境化学研究室が化学系では最も高い場所にある研究室としていましたが、より高い階の研究室の情報をコメント欄より頂きましたので下記更新させていただきました。
13階
- 大阪大学大学院工学研究科・応用化学専攻・物質機能化学コース・佐伯研究室(物性化学領域):機能性有機・ハイブリッド材料の新規開発とその物性評価を行っている研究グループです。GSEコモンイースト棟13階に研究室があります。
14階
- 大阪大学大学院工学研究科応用化学専攻物質機能化学コース・櫻井研究室(物理有機化学領域):有機分子やナノ金属材料の触媒活性、結晶性などを研究されています。GSEコモンイースト棟14階が研究室の所在地です。
Our lab OB, Artur’s paper has been published! About new aromatic dendrimers and their application in photocatalysis and OLEDs. https://t.co/pqp1rHCxF8
— 櫻井研究室/Sakurai lab. (@Sakurailab_OU) April 23, 2021
13階と14階の研究室は、共に大阪大学大学院工学研究科応用化学専攻の研究室で、どちらの研究室のホームページも都心の美しい眺めの写真を公開しています。ただ、この眺めは研究室の方だけでなく誰でも楽しめるスポットがあり、それは工学研究科GSEコモン・イースト棟の最上階・15階にあるレストラン「ラ・シェーナ」です。ランチとディナータイムに営業をされており、美味しい食事を景色とともに楽しむことができます。アラカルトメニューはお手ごろな価格ですので、学生さんのデートスポットなのかもしれません。
14階の上記研究室が最も高い階だとして記事を更新しましたが、またまたコメントを頂き、16階の研究室を追記ました。
16階
- 東京工業大学物質理工学院応用化学系 和田研究室:ナノ材料の合成・評価とその応用を化学と物理の融合領域で研究されているグループです。J3棟 16階が研究室の所在地です。
コメントによりますと、東工大すずかけ台キャンパスのJ2棟J3棟は20階建てで、他にも10階以上に化学系の研究室がいくつかあるそうですので、情報をお待ちしております。Twitterには大学の標高を考慮に入れた場合、どこが一番高いのだろうかという質問があり、標高を調べるサイトで各建物の標高を調べました。すると16階の東工大すずかけ台キャンパスと14階の大阪大学吹田キャンパスがほぼ同じ標高で、12階の早稲田大学西早稲田キャンパスは2キャンパスより少し低い標高なので、標高で見てもこの順番は変わらないようです。ということで化学系の最も高い位置にある研究室は、16階にある東京工業大学物質理工学院応用化学系 和田研究室ということになりました。
自分の経験から言えば高い階の研究室にもデメリットはもちろんあり、タワーマンション同様朝のエレベーター待ちにはまってしまうこともあります。また、溶媒や液体窒素などは地下や一階に保管されていることが多く、補充のために都度下に降りる必要があります。大型で振動に弱い機器は、低層階に別途設置されていることもあり、NMRを測定するために地下と研究室を一日に何度も往復していました。研究室の部屋割は、建物自体の建て替えや新設でない限り変更はなく、研究グループが着任されたときも空いているところに入ることになり、自由に選べる余地はないと予想できます。研究室の選択を階で選ぶ人はいないと思いますが、研究室の雰囲気の要素の一つだと思いますので、少しだけ気にしてみてはいかがでしょうか。
こちらは、Zeoliniteの調査に基く内容ですので、より高い階に位置する研究室の情報をご存じでしたらコメント欄までお願い致します。