先日お知らせしたように、今回から日本薬学会医薬化学部会の部会誌、MEDCHEM NEWSを紹介いたします。
今回は30-3号です。本号オープンアクセスでどなたでも閲覧可能です。タイトルおよび画像にリンクが張ってありますのでぜひご覧になってください!
創薬関連の話題が満載となっております。個人的にも本号は著者に知り合いが多く楽しく拝見させていただきました。
■巻頭言
デジタル創薬分子の設計
山本 尚*
*中部大学総合工学研究所長 分子性触媒研究センター長 教授・理事
中部大学 総合工学研究所長 山本 尚先生による巻頭言です。小分子(低分子)が「アナログ型」なのに対し、ペプチドなど中分子は「デジタル型」であり、その設計手法も粘土細工とレゴブロックのような違いがある、と新たなアプローチを説かれています。
■創薬最前線
アカデミア創薬を牽引する大阪大学の創薬研究体制
辻川和丈*
*大阪大学大学院薬学研究科
大阪大学に設置されているアカデミア創薬を推進する研究体制の紹介です。国の創薬事業や製薬企業の創薬研究者とも連携して、アカデミアの研究者が見出した創薬の標的分子に対し、保有する化合物ライブラリーを用いたハイスループットスクリーニング、スクリーニングで得られたヒット化合物からの誘導体合成等,創薬研究を支援する体制が整っています。
■WINDOW
世界最大級の医療研究都市Texas Medical Centerでの出会いと学び
直井智幸*
*協和キリン(株)
Houston Methodist Research Institute(HMRI)のEnnio Tasciotti教授のラボに1年半留学された直井先生による留学体験記です。ヒューストンとTexas Medical Centerの圧倒的なスケールを感じながら、HMRIにおける最先端のBiomimetic研究に触れることができます。これから留学される方のお役に立ちそうな情報も満載です。ぜひご一読下さい。
■DISCOVERY
第37回メディシナルケミストリーシンポジウム 優秀賞 (3件)
新規レニン阻害薬SPH3127の創製 ~次世代レニン阻害薬を目指して~
飯嶋大輔*, 須釜 寛*, 平井未希*, 高橋陽一*, 飯嶋 徹*
*田辺三菱製薬(株)
本稿は、レニン阻害薬の大きな課題であった薬物動態の改善を達成した創薬のサクセスストーリーです。経口投与で強力な有効性を発揮する化合物を目指し、非ペプチド性構造で低分子量化を図る中で、いくつかのブレイクスルーを経て臨床試験に進む化合物を創出しています。ぜひご一読ください。
レボドパプロドラッグ(ONO-2160)の創製
小久保雅也*, 木下 淳*, 小寺泰代*, 小柳孝史*, 丸山 透*
*小野薬品工業(株)
治療効果が高いパーキンソン治療薬として使用されているレボドバは、血中半減期が短いため頻回投与が必要です。本論文では、少ない投与回数で血中の有効濃度を維持するため、エステル基を2つ有する「二重プロドラッグ」を着想し、合成した候補化合物のイヌでの体内動態試験を行いました。その結果、最も優れた持続性が期待されたレボドバプロドラッグONO-2160を見出した創薬について紹介されています。
新規経口型HSP90阻害剤TAS-116の創製
宇野貴夫,* 大久保秀一*, 北出 誠*
*大鵬薬品工業(株)
熱ショックタンパク質(HSP90)は、がん関連タンパク質を安定化する作用を有します。第III相臨床試験が実施されているHSP90阻害薬TAS-116の創製研究について、構造展開や薬理活性を中心にまとめられています。
第37回メディシナルケミストリーシンポジウム 優秀賞/JMC特別賞
AJICAP™:位置選択的ADCの次世代化学合成法の開発
山田 慧*, 松田 豊*,**, 關 拓也*, Brian A. Mendelsohn**, 奥住竜哉*
*味の素(株)バイオ・ファイン研究所
**Ajinomoto Bio-Pharma Services
抗体のFc領域に親和性を持つペプチドを利用して位置特異的に抗体を修飾するAJICAPTM法の基礎と応用についての解説記事です。本手法を用いることで抗体中の特定のリジン残基が薬剤分子(ペイロード)によって修飾されたADC (antibody-drug conjugate)を得ることが可能です。
第37回メディシナルケミストリーシンポジウム JMC特別賞
電解化学に基づく不活性C(sp3)-H結合のフッ素化反応の開発
星川 環*, 澁口 朋之*, 黒川 利樹*, 吉村 光*, Phil S. Baran**
*エーザイ(株)
**スクリプス研究所 化学科
第37回メディシナルケミストリーシンポジウムJMC特別賞を受賞した研究内容です。産学連携による共同研究により、電解反応によるC-H結合の新規フッ素化反応を開発し、フッ素導入が鍵となる創薬研究に上手く応用した一例が紹介されています。
■SEMINAR
低分子創薬で活用される物理化学解析の動向と最新技術
長門石 曉*, 津本 浩平**
*東京大学医科学研究所
**東京大学大学院工学系研究科
生物活性低分子の作用機序や特異性を評価するために、生体分子と低分子の相互作用を解析することが重要であり、なかでも物理化学的解析技術が注目されています。本稿では、様々な物理化学的解析手法が紹介されていますので、皆様のご研究に役立つものと期待します。
■COFFEE BREAK
小さき命(微生物)に感謝して
掛谷秀昭*
*京都大学大学院薬学研究科
微生物が合成する天然物は人類にとって大変有用です。本稿では、天然物化学者の視点から微生物への感謝の気持ちが述べられ、醗酵・醸造の権威である坂口謹一郎先生の短歌や、筆者の研究室で行われている曼殊院門跡(京都市左京区)への菌塚参拝行事が紹介されています。