アカデミアでの研究活動の後、民間企業の研究員へ転職したいという相談は数多く頂きます。きっかけは人それぞれですが、アカデミアのポストは限られており、任期付きの雇用が多いことも背景にあるように思います。日々研究活動をしながら、実験や論文執筆を行い、主要な業績を残してこそ、次のポストが見つけられるため、常に成果を出すことが求められます。そうした苦労の結果、新しい技術が生まれるのだと思うと、大変尊い仕事でありますが、全員が安定的なポストを得られる訳ではないのが現状です。ただ、そうした研究経験はアカデミアに限らず、民間企業でも十分に発揮できるフィールドがあり、実際に活躍している方が多数いらっしゃいます。これまでのアカデミアでのキャリアを生かした転職を成功させるために、押さえておくべきポイントについて考えていきたいと思います。
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民間企業がアカデミア出身者に期待していること
まず、アカデミアでの研究者に対して企業が一番に求めていることは、専門性です。それも、自社の研究員では不足している知見やノウハウを持ち合わせている方については、かなり高い期待を寄せていると思います。例えば、化学メーカーでは、原料の高騰の影響を受けて、従来のビジネスモデルでは収益があげづらくなっているのが現状です。また、環境に配慮した社会の転換期の中、脱プラスチックやエコカーへの転換などの流れの中で、新規事業への投資が活発に行われています。これまでの材料開発の技術を生かし、ライフサイエンス分野での培養器材や培地などの開発を行うなど、これまで取り組んでこなかった分野へ挑戦しています。そうした際、多くの企業は新分野での専門家が必要になります。自社での研究推進に加え、技術導入や研究促進のため、大学の先生との共同研究などを行うことが多いです。その際、自社には材料系の研究者しかおらず、専門領域が異なる先生との共通言語がなく、なかなか研究が進まないという課題に直面するケースは多々あります。そうした中、社内にも新規分野の専門家を採用し、大学や外部専門家と社内の連携を促進してほしいというニーズは今後も増えていくように思います。
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民間企業へのアピールの方法
このような企業ニーズも踏まえ、実際の選考の際、どのように実績を伝えるのが良いかみていきたいと思います。アカデミアでの研究成果を伝える際、論文や口頭発表などの実績を経歴書に記載することが一般的です。ただ、その分野の専門家でないと、実際にその論文の詳細やインパクトを把握しづらい場合が多く、せっかくの実績が伝えきれていないまま面接を終えてしまうこともよくあります。
そうした機会を有効に生かすためには、専門外の人にも分かりやすく内容を伝えることが重要です。この論文の目的、主要な成果について端的にまとめておくことをお勧めします。また、企業の面接担当者は「自社の事業にどう生かせるか」という視点で話を聞いています。そのため、これまでの研究内容がその事業やポジションにどう生かせるかという点にも言及できると望ましいです。そのためには、事前に応募する求人の募集背景や、その企業の事業計画などできる限りの企業研究を行い、何を伝えるべきか把握しておきたいところです。
面接を通過する候補者の方の場合、面接官から「よく弊社の事業を理解している」「入社後活躍してもらえるイメージがもてた」等のフィードバックがあり、相手が気になっているポイントを押さえて受け答えができている点が高評価に繋がっているようです。反対に通過できない候補者の場合、「ご自身の研究歴を一方的に話されたが、今回のポジションとどう関係あるのか分からなかった」、「専門性が高いことは分かったが、弊社事業についての関心が低く、一緒に仕事をしたいと思えなかった」など、企業への理解不足が原因のものは少なくありません。せっかくの高い専門性を正しく理解してもらうためにも、「専門外の人にも分かりやすく伝えること」「その会社の事業にどう生かせそうか」という2つのポイントを押さえて面接に臨むことをお勧めします。
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民間企業で活躍している方の具体例
次に、実際にアカデミアでの研究経験を活かし、転職を成功された方の転職例を紹介していきます。
AIベンチャーへ転職されたAさんの例:
Aさんは30代後半の男性で、大学院卒業後、大学で合成化学分野での任期付き研究員として従事されていました。プロジェクトが終了になることが分かり、新たなポストを探していらっしゃいました。そのとき、ご結婚が決まったタイミングとも重なったため、民間企業への入社を決意して転職活動を開始されました。化学メーカー含め、複数の企業を受けられましたが、最終的にはAI技術の開発を行うベンチャー企業に入社されました。その会社では自社のAI技術を創薬に応用する事業を推進しており、化学系の博士研究者を探されていました。入社当時、社内にはAIやプログラミングの専門家がほとんどで、化学系の専門家は数名しかいませんでした。現在、Aさんは創薬標的の探索や化合物・抗体等の設計・最適化、活性や毒性の予測・評価など、まさにこれまで研究していた分野で実力を発揮されています。また、これまでのアカデミアで培ったネットワークやローカルな情報も非常に役立っていると言います。というのも、AIに学習させるためのデータ収集や、共同研究の依頼、ユーザーへのヒアリングなど、協力してもらえるアカデミアの先生や研究者を探す必要があります。これまでは社内の学術担当や外部のコンサルタントに依頼し、研究者リストや学術調査を行って探していましたが、専門外の社員ばかりのため、どこからお願いしていけば良いのか判断に迷われていたそうです。Aさんは学会や研究会で知りあった教授や研究者との交流が豊富で、研究室のテーマや趣旨に合わせた提案や話ができるため、その点でも会社に貢献できているようです。
海外での研究経験を生かし、製薬メーカーの開発職へ転職されたBさんの例:
Bさんは国内の大学で勤務の後、アメリカのポスドク研究員として勤務されていました。40代に入り、親の入院などをきっかけに帰国することを決意。任期満了の半年以上前から日本で働いている友人や転職エージェントを利用し、オンラインで転職活動を開始されました。物理的な制約がありながらも、最終的には創薬ベンチャーと製薬メーカーの2社から研究職の内定を得て、製薬メーカーへの入社を決められました。入社を決めた会社はグローバルにビジネスを展開しており、アメリカやヨーロッパなどの海外拠点と英語でのミーティングが必須でした。さらに、アメリカの大学の研究室と共同のプロジェクトがスタートしたタイミングだったため、海外の研究現場をよく知り、国際学会での発表経験も多いBさんの知見が役に立ったといいます。他にも、部署を横断した戦略会議にも専門家として参加し、次のシーズになりそうな海外論文の技術評価や、先行研究についてのリサーチなどでも経験が生きているそうです。
このように、アカデミアでの研究経験と高い専門性を求めている企業は多くあります。自分のこれまでの専門性を生かせる場所を見つけるには、その企業がアカデミア出身者に何を求めているのかを理解し、自分の経歴をどのようにアピールするべきか、戦略を立てて臨む必要があります。今後、アカデミックから民間企業へ転職を考えるときの参考になれば幸いです。
*本記事はLHH転職エージェントによる寄稿記事です。これまでの寄稿記事はこちら
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