有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2021年8月号がオンライン公開されました。
オリンピックを見て、アスリート魂に心打たれています。研究者にも通づるものがあると思います。
有機合成化学協会誌は今月号も充実の内容です。
キーワードは、「ナノチューブカプセル・ナノグラフェン・芳香環C-H変換・メタルフリー複素環合成・スピロシクロプロパン」です。
今回も、会員の方ならばそれぞれの画像をクリックすればJ-STAGEを通してすべてを閲覧することが可能です。
刺激応答性超分子ナノチューブカプセル
産業技術総合研究所ナノ材料研究部門
超分子ナノチューブとは、分子がチューブ形状に集合した中空ナノファイバーです。化学刺激や物理刺激に応答して構造が変化する官能基を分子に組み込むと超分子ナノチューブにカプセル機能が発現しました。ゲスト物質の包接や放出、反応性を制御することが可能に。
ナノグラフェンの有機合成化学による構造修飾と機能発現
広島大学大学院先進理工系科学研究科
黒鉛からトップダウン法で得られるナノグラフェンは、グラムスケールで調製できる魅力的な炭素材料です。本論文では、合成化学の手法を駆使してナノグラフェンを化学修飾し、光学特性や超分子集合状態の制御に成功した例をわかりやすく紹介しています。
不均一系触媒による酸素を用いた芳香環C-H結合の酸化的分子変換法の開発
1* 徳島文理大学薬学部薬学科
2 九州大学先導物質化学研究所
本論文では、筆者らが先駆的に見出してきた、酸性条件下におけるRh/C不均一系触媒を用いた酸素酸化触媒反応による芳香族分子の変換反応について紹介されています。反応機構の考察に基づく研究展開や、その後の国際的な関連研究も紹介されていて、研究の歴史を楽しく理解できます。
超原子価ヨウ素によるアルキンの活性化を利用したメタルフリーな複素環合成法
東京農工大学大学院工学研究院
本論文は、超原子価ヨウ素や分子状ヨウ素触媒によるメタルフリーな複素環合成法について、その発見の経緯から最近の研究成果まで丁寧にまとめられています。有機合成化学に携わる研究者にとって読み応えのあるものとなっています。ぜひご一読ください。
求核剤によるスピロシクロプロパンの開裂-環化反応の開発とその応用
*富山大学学術研究部薬学・和漢系
スピロ型に縮環したシクロプロパンのエレガントな連続反応です!筆者らは、非スピロ型では進行しない環開裂-環化反応を開発しています。保護基を全く使用しないルートで含窒素縮環骨格を構築できます!
Review de Debut
今月号のRebut de Debutは2件です。オープンアクセスなのでぜひ。
・ビスマス触媒を用いた酸化還元反応 (東京大学大学院工学系研究科)中間貴寛
・ヘテロ原子置換アルキンを用いるアトムエコノミックなアミドおよびエステル形成反応 (東北大学大学院薬学研究科)大澤宏祐
感動の瞬間:そのとき,理由(わけ)のわからない何かが起きた!
今月号の感動の瞬間は、東北大学 正田晋一郎 名誉教授による寄稿記事です。
これまでの紹介記事は有機合成化学協会誌 紹介記事シリーズを参照してください。