有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2021年7月号がオンライン公開されました。
みなさまいかがお過ごしでしょうか。有機合成、楽しんでますでしょうか。
有機合成化学協会誌は今月号も充実の内容です。
キーワードは、「PoxIm・トリアルキルシリル基・金触媒・アンフィジノール3・効率的クリック標識法・標的タンパク質指向型天然物単離」です。
今回も、会員の方ならばそれぞれの画像をクリックすればJ-STAGEを通してすべてを閲覧することが可能です。
多用途な多官能基化環状カルベンPoxImの開発
*大阪大学大学院工学研究科応用化学専攻
NHCとホスフィノイル基を併せ持つ分子が示す回転挙動と、回転異性体どうしの立体的な差異をうまく利用した数々の機能が秀逸です。ぜひ、ご一読ください。
トリアルキルシリル基を変換するクロスカップリング反応
南 安規1*、檜山爲次郎2*
1*産業技術総合研究所材料・化学領域触媒化学融合研究センター
2*中央大学研究開発機構
有機ケイ素化合物と有機ハロゲン化物とのクロスカップリング反応には、これまでやや特殊な有機ケイ素試薬の利用が必要でした。本論文では、有機合成化学者にとって馴染み深いトリメチルシリル(TMS)基が利用可能なクロスカップリング反応の開発がまとめられています。合成化学者のみならず有機π共役系材料を研究している読者にもおすすめです。
価数の異なる金触媒の戦略的な利用: プロパルギルアルコールをテンプレートとする合成における多様性を指向した環化反応の開発
*昭和薬科大学薬学部
「金は安定で反応性を示さない」と考えられていたのは、今は昔。一価の金と三価の金を使い分けることで、プロパルギルアルコールから多彩な環状化合物への変換が実現できることを反応機構も含めて分かりやすく述べられています。ぜひ、ご一読ください。
アンフィジノール3の全合成
若宮佑真2、大石 徹1*
1*九州大学大学院理学研究院化学部門
2中外製薬株式会社創薬化学研究部
長年にわたり多数のグループがしのぎを削ってきたアンフィジノール3の初の全合成について、すべての工程をまとめた全合成屋必読の論文となっています。本天然物に含まれる繰り返し構造を巧みに利用した部分構造合成とそのカップリングが見どころとなっています。
実用的ながん診断・治療分子の創製を目指して -効率的クリック標識法の開発と放射線セラノスティクス-
*東京工業大学物質理工学院応用化学系
*理化学研究所開拓研究本部
日本人の生涯で2人に1人はがんになる時代となり、放射線化学療法にご興味をお持ちの方も多いのではないでしょうか?東工大・理研の田中克典先生・藤木勝将先生らは、連続的クリック反応を駆使して、放射線診断・治療と制がん剤化学療法(抗体医薬)との架け橋となる有機合成化学研究を展開されております。
標的タンパク質指向型天然物単離による天然物ケミカルバイオロジー
1*慶應義塾大学理工学部生命情報学科
2*千葉大学大学院薬学研究院
タンパク質と選択的に相互作用する低分子化合物を、ケミカルバイオロジーの手法により探索した総合論文です。タンパク質を磁気ビーズに固定させて磁石で選別したり、プレートに固定して蛍光で選別したりすることで達成しています。
Review de Debut
今月号のRebut de Debutは1件です。オープンアクセスなのでぜひ。
・N–保護アミノ酸を配位子として用いた炭素(sp3)–水素結合活性化反応 (大阪大学大学院薬学研究科) 吉岡祥平
Message from Young Principal Researcher (MyPR):分子の力を信じて
今月号のMyPRは、北海道大学触媒科学研究所 浦口大輔 教授による寄稿記事です。
分子合成に携わるひと全員に読んで欲しいです。私も愛をもって分子合成をするんだと気合いが入りました。オープンアクセスです。
感動の瞬間:研究に魅せられた平凡な女学生の話
今月号の感動の瞬間は、神戸薬科大学 宮田興子 学長による寄稿記事です。
“いずれの場面においても自分が知りたいという思いをすぐに実行し確かめるところから,新たな発見が生まれた”
多忙な日々の中で忘れがちなことですが、とても大切なことに思います。改めて自分の内なる声に耳を傾けたいと思いました。オープンアクセスです。
これまでの紹介記事は有機合成化学協会誌 紹介記事シリーズを参照してください。