NMRメーカーである日本電子のイギリス法人、JEOL UKが6月、WindowsとmacOSの両方で動作する新しいNMRデータ処理ソフトウェア「JASON」を発売しました。JASONとは「JEOL Analytical SOftware Network」の頭文字を取って命名されたソフトウェアとされています。ジェイソンというと、日本では13日の金曜日のイメージが付き纏いますが、それは日本だけで欧米にはそんなイメージは全く無いのだそうです。普通の男の子の名前であるJasonのもとになったのは、ギリシャ神話に登場するイアーソーンという英雄の英語読みで、アルゴー船と呼ばれる巨大な船でコルキスという国の黄金の羊の毛皮を手に入れる冒険をしました。JASONのアイコンはそのアルゴー船を表しています。
サブスクでつかうNMRデータ処理ソフト
JASONはNMRデータ処理ソフトウェアとしては珍しい、サブスクリプション型の販売方式をとっています。
サブスクリプションの更新頻度は、1ヶ月毎、3ヶ月毎、1年毎の3パターンが用意されています。また、アカデミックとインダストリーの2種類が用意されており、最も安いアカデミックの1年更新が£19.99とされており、だいたい年間3千円程度ということになっています。常に最新のソフトウェアに更新して利用できるという、サブスクリプションのメリットを併せて考えると、10年間使ったとしても総額3万円程度で、理化学系のソフトウェアとしてはかなりの低価格と言えるのではないでしょうか。
JASONには45日間のお試し期間が用意されていますので、購入前にじっくりとソフトウェアを試すこともできます。
気になる機能は?
JASONは1次元や2次元のNMRデータ処理について標準的な処理機能が搭載されています。NMRのデータ処理ソフトですからその辺りは当然として、JASONには特徴的な機能がいくつか用意されています。特にJASONならではの特徴として挙げられるのが「Canvas(キャンバス)」です。キャンバスといえば油絵などに使われる画布ですが、その名の通り非常に広い作業領域に様々なNMRデータなどを配置して、それらを連携させながら解析していくことができるようになっています。化学構造式とスペクトルが連動するので、帰属も簡単ですし、1次元や2次元データをリンクして、拡大領域や注目点が連動させたりすることもできます。
ピークのマルチプレット解析も、波形分離との組み合わせにより精度の高い自動解析機能が用意されています。自動的に樹形図が描かれ、全体について論文書式を書き出すことも自由自在です。
化学構造式は.molファイルや.sdfファイルなどを読み込めますし、JASON内にも構造を描きやすいツールが搭載されています。構造からは即座に推定化学シフトが算出され、1Hと13Cの両方について予測値を示してくれます。各信号の帰属もドラッグアンドドロップするだけです。
Deltaはどうなっちゃうの?
日本電子といえば、NMR装置付属の標準データ処理ソフトウェア「Delta」を2007年から無料配布しており、広く利用されてきました。ただここ数年、macOS版の「Delta」が新しいmacOSで正常に動作しなくなっており、macOS v10.15 CatalinaやmacOS v11 Big Surのユーザーは「Delta」を利用できなくなってしまっています。日本電子はmacOS版の「Delta」の開発をやめたわけではないとのことですが、現時点で解決の見通しが立っているわけでは無い模様です。そんな中、最新のOSにも対応した「JASON」が発売されたことは喜ぶべきことかもしれません。
ちなみに日本電子は標準データ処理ソフトウェア「Delta」を「JASON」に置き換えようとしているわけではなく、また「JASON」の発売に伴って「Delta」の無料配布をやめることは無いとしています。「JASON」には「Delta」には無い機能を持たせて付加価値を高めていくソフトウェアという位置付けで、今後もデータベース機能やその他の拡張モジュールが順次発売されていくのだそうです。
JASON一度試してみてはいかが?
JASONはSNSなどに開かれたユーザーコミュニティが用意されています。不具合の報告や機能の改善要求などにも積極的に応じてくれるとされています。これまでのソフトウェアは、ユーザーの意見が反映されるのにも長い時間を要し、アップデートにも費用がかかったりすることがありました。JASONはソフトウェアの供給がサブスクリプション形式であるため、開発が製品に直結し、あたかもユーザーは開発に携わっているかの様な体験をすることになるかもしれません。
JASONに注目です。
関連動画