[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

二量化の壁を超えろ!β-アミノアルコール合成

[スポンサーリンク]

アルデヒドとイミンからβアミノアルコールを合成するアザピナコールカップリングが開発された。ヨウ化アセチルを用いてイミン共存下アルデヒドを化学選択的にαアセトキシラジカルへ変換する。

アザピナコールカップリング

β-アミノアルコールは天然物や医薬品に頻出する重要な骨格であり、不斉補助基や配位子にも汎用される。カルボニル化合物とイミンのアザピナコールカップリングは、直截的にβ-アミノアルコールを合成できる有用な手法である(図1A)。しかし、イミンの還元により生じるα-アミノラジカルの二量化が併発するため、クロスカップリング体を選択的に合成することは挑戦的な課題である[1,2]
一方、本論文著者であるNagibらは、穏和な条件で脂肪族アルデヒドからα-アセトキシラジカルを生成する手法を開発した(図1B)[3]。アルデヒドとヨウ化アセチルからα-アセトキシヨージドを調製し、Mn触媒によるヨウ素引き抜きによって、α-アセトキシラジカルを与える。生成したラジカルがアルキンと反応した後、Mn上のヨウ素を奪うことでZ体のアルケニルヨージドが合成できる。
今回、Nagibらは、このα-アセトキシラジカル生成法をアザピナコールカップリングに応用することで、化学選択的にクロスカップリング体を得ることに成功した(図1B)。Mn触媒によるα-アセトキシヨージドのヨウ素引き抜きにより生成したα-アセトキシラジカルが、イミンと反応することでβ-アミノアルコールを与える。

図1. A) アザピナコールカップリングの課題B) 先行研究と今回の研究

 

Cross-Selective Aza-Pinacol Coupling via Atom Transfer Catalysis
Rafferty, S. M.; Rutherford, J. E.; Zhang, L.; Wang, L.; Nagib, D. A.  J. Am. Chem. Soc. 2021, 143, 5622–5628. DOI: 10.1021/jacs.1c00886

論文著者の紹介

研究者:David A. Nagib
研究者の経歴:
–2006 B.S., Boston College, USA (Prof. Scott J. Miller)
2006–2011 Ph.D., Princeton University, USA (Prof. David W. C. MacMillan)
2011–2014 NIH Postdoctoral Fellow, University of California, Berkeley, USA (Prof. F. Dean Toste)
2014–2020 Assistant Prof., The Ohio State University, USA
2020– Associate Prof., The Ohio State University, USA
研究内容:ラジカルを利用したC–H官能基化反応の開発

論文の概要

本反応は、アルデヒド1に対してヨウ化アセチルを作用させた後に、Mn2(CO)10触媒、Zn、Cy2NMe存在下、イミン2と反応させることでβ-アミノアルコール3を与える。まず、本反応の基質適用範囲を調査した(図2A)。エステルやニトリル、ハロゲンをもつアルデヒドについてもクロスカップリング体3が得られた(3a3d)。またイミンの基質適用範囲も広く、酸性条件に弱いアセタールやベンゾフラン、還元されやすいベンゾフェノン存在下でも本反応は進行した(3e3g)。
次に、Mn触媒の再生機構を調査した(図2B)。まず、紫外可視分光法を用いてMn触媒のスペクトルを比較した。Mn(CO)5IにZnとCy2NMeを添加した場合にMn2(CO)10由来のピークが回復したことから、触媒再生にはこの両者が必要だと考えられる。また、CV測定ではCy2NMe添加時にMn(CO)5Iの還元ピーク電位が正電位にシフトした。より還元されやすい電荷移動錯体[Mn]–I:NCy2Meの形成がMn触媒の再生を容易にすることが示唆された。その他の機構解明実験は本文を参照されたい。
著者らは次の推定反応機構を提唱した(図2C)。まずアルデヒド1がヨウ化アセチルと反応し、α-アセトキシヨージド4を生成する。続いて、可視光照射によって開裂したMn触媒がヨウ素を引き抜くことで5を与える。α-アセトキシラジカル5がイミン2に攻撃して生じる6は、ZnとCy2NMeによる一電子還元、またはCy2NMeのα-アミノ位C–H結合の水素引き抜きを経て、カップリング体3を与える。ヨウ素化されたMn触媒はCy2NMeと電荷移動錯体を形成し、Znにより還元されて再生する。
以上、ヨウ化アセチルを用いてクロスカップリング体を選択的に合成するアザピナコールカップリングが開発された。α-アセトキシラジカル生成法を応用した新規反応の開発が期待される。

図2. A) 基質適用範囲 B) 紫外可視吸収スペクトルとサイクリックボルタンメトリー (論文より引用) C) 推定反応機構

 

参考文献

  1. Bergmeier, S. C. The Synthesis of Vicinal Amino Alcohols. Tetrahedron 2000, 56, 2561–2576. DOI: 1016/S0040-4020(00)00149-6
  2. Nakajima, M.; Fava, E.; Loescher, S.; Jiang, Z.; Rueping, M. Photoredox-Catalyzed Reductive Coupling of Aldehydes, Ketones, and Imines with Visible Light. Angew. Chem., Int. Ed. 2015, 54, 8828–8832. DOI: 10.1002/anie.201501556
  3. Wang, L.; Lear, J. M.; Rafferty, S. M.; Fosu, S. C.; Nagib, D. A. Ketyl Radical Reactivity via Atom Transfer Catalysis. Science 2018, 362, 225–229. DOI: 1126/science.aau1777

本著者の他のケムステ記事

Avatar photo

山口 研究室

投稿者の記事一覧

早稲田大学山口研究室の抄録会からピックアップした研究紹介記事。

関連記事

  1. マテリアルズ・インフォマティクスのためのSaaS miHub活用…
  2. 【書籍】化学探偵Mr. キュリー
  3. 酵素触媒によるアルケンのアンチマルコフニコフ酸化
  4. 直接クプラート化によるフルオロアルキル銅錯体の形成と応用
  5. 青いセレンディピティー
  6. 2010年日本化学会年会を楽しむ10の方法
  7. 相田卓三教授の最終講義をYouTube Live配信!
  8. 準結晶的なナノパーティクルスーパーラティス

注目情報

ピックアップ記事

  1. 【サステナブルなものづくり】 マイクロ波の使い方セミナー 〜実験例・実証設備などを公開〜
  2. テトラセノマイシン類の全合成
  3. プロトン共役電子移動を用いた半導体キャリア密度の精密制御
  4. Purification of Laboratory Chemicals
  5. 機械的刺激による結晶間相転移に基づく発光性メカノクロミズム
  6. ピロティ・ロビンソン ピロール合成 Piloty-Robinson Pyrrole Synthesis
  7. アンモニアの安全性あれこれ
  8. アルデヒドからアルキンをつくる新手法
  9. 100年以上未解明だった「芳香族ラジカルカチオン」の構造を解明!
  10. ダイセルによる化学を活用した新規デバイス開発

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2021年7月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031  

注目情報

最新記事

第11回 野依フォーラム若手育成塾

野依フォーラム若手育成塾について野依フォーラム若手育成塾では、国際企業に通用するリーダー…

第12回慶應有機化学若手シンポジウム

概要主催:慶應有機化学若手シンポジウム実行委員会共催:慶應義塾大学理工学部・…

新たな有用活性天然物はどのように見つけてくるのか~新規抗真菌剤mandimycinの発見~

こんにちは!熊葛です.天然物は複雑な構造と有用な活性を有することから多くの化学者を魅了し,創薬に貢献…

創薬懇話会2025 in 大津

日時2025年6月19日(木)~6月20日(金)宿泊型セミナー会場ホテル…

理研の研究者が考える未来のバイオ技術とは?

bergです。昨今、環境問題や資源問題の関心の高まりから人工酵素や微生物を利用した化学合成やバイオテ…

水を含み湿度に応答するラメラ構造ポリマー材料の開発

第651回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院工学研究科(大内研究室)の堀池優貴 さんにお願い…

第57回有機金属若手の会 夏の学校

案内:今年度も、有機金属若手の会夏の学校を2泊3日の合宿形式で開催します。有機金…

高用量ビタミンB12がALSに治療効果を発揮する。しかし流通問題も。

2024年11月20日、エーザイ株式会社は、筋萎縮性側索硬化症用剤「ロゼバラミン…

第23回次世代を担う有機化学シンポジウム

「若手研究者が口頭発表する機会や自由闊達にディスカッションする場を増やし、若手の研究活動をエンカレッ…

ペロブスカイト太陽電池開発におけるマテリアルズ・インフォマティクスの活用

持続可能な社会の実現に向けて、太陽電池は太陽光発電における中心的な要素として注目…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー