有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2021年6月号がオンライン公開されました。
新年度のバタつきも少しではありますが落ち着いてきました。こんなときこそ有機合成化学協会誌をじっくり読みたいものです。
有機合成化学協会誌は今月号も充実の内容です。
キーワードは、「SGLT2阻害薬・シクロペンチルメチルエーテル・4-メチルテトラヒドロピラン・糖-1-リン酸・新規ホスホジエステラーゼ阻害薬」です。
今回も、会員の方ならばそれぞれの画像をクリックすればJ-STAGEを通してすべてを閲覧することが可能です。
巻頭言:非常識への挑戦から新たなサイエンスの扉を開け!
今月号は、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 近藤 裕郷 所長による巻頭言です。
「常識のわかる人は非常識もわかる」というフレーズに打たれました。オープンアクセスです。
SGLT2阻害薬C-アリールグルコシドの合成法
村形政利
2015年度有機合成化学協会賞(技術的なもの)受賞
中外製薬株式会社製薬本部製薬研究部
糖尿病治療薬であるSGLT2(Sodium-glucose cotransporter 2)阻害薬の合成について、様々な方法がわかりやすくまとめられています。これからC-アリールグリコシル化反応を学びたいと思う研究者が最初に読むべき総説です。
シクロペンチルメチルエーテル(CPME)および4-メチルテトラヒドロピラン(4-MeTHP)の基本有機化学特性と反応溶媒としての応用
大阪工業大学工学部応用化学科
本総合論文では、日本発の疎水性エーテル系溶媒であるCPMEと4-MeTHPの基本有機化学特性と反応溶媒としての適応性について述べられております。安定性や詳細な分解機構についても紹介されており、プロセス化学分野における溶媒選択の指針として活用されることが期待されます。
糖-1-リン酸繰り返し構造およびその化学修飾アナログの合成
東京理科大学薬学部生命創薬科学科
糖のアノマー位水酸基が、他の分子の水酸基とリン酸ジエステル結合を介して縮合した糖-1-リン酸構造は、その安定性や立体選択性の問題から、繰り返し構造を高純度で合成する事が難しい分子です。本論文では、リン酸の化学修飾を駆使した、精密な糖-1-リン酸繰り返し構造とそのリン酸部誘導体の合成について紹介しています。
新規ホスホジエステラーゼ10A阻害薬バリポデクトの創製および合成法開発
吉川真人*、福田直弘
PDE10A阻害薬バリポデクト(TAK-063)の創製について述べられた総合論文です。HTSヒットからSBDDを利用した活性向上、中枢移行性の改善による臨床開発化合物獲得、短工程での大量合成を可能にしたプロセス合成まで、合成化学者にとっての創薬研究を網羅した内容です。
高活性・高選択性・高い中枢移行性を示す新規ホスホジエステラーゼ2A阻害薬TAK-915の創薬研究
味上 達*
PDE2A阻害薬TAK-915の創製について述べられた総合論文です。化合物-タンパク複合体構造情報を利用して巧みに活性向上と選択性改善を達成し、臨床開発化合物を獲得しています。合理的な化合物デザインにより化合物を仕上げていく様は、メディシナルケミストの醍醐味です。
Review de Debut
今月号のRebut de Debutは1件です。オープンアクセスなのでぜひ。
イオン対相互作用による芳香族C(sp2)–Hホウ素化反応の位置選択性制御 (名古屋工業大学大学院工学研究科)安川直樹
感動の瞬間:アルカロイドの探索研究(物取りと合成)で学んだこと
今月号の感動の瞬間は、千葉大学 高山廣光 名誉教授による寄稿記事です。
これまでの紹介記事は有機合成化学協会誌 紹介記事シリーズを参照してください。