[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

「リチウムイオン電池用3D炭素電極の開発」–Caltech・Greer研より

[スポンサーリンク]

久々のケムステ海外研究記です。第40回はカリフォルニア工科大学(Caltech)材料科学科のPhD課程に在籍されている成田海さんにお願いしました。

成田さんは、東京工業大学材料工学専攻(小林研究室)にて修士号を取得後、カリフォルニア工科大学材料科学科のPhD課程に進学され、Greer研究室にて3Dプリンティングによるリチウムイオン電池電極の開発に取り組まれていました。 先日PhD課程を修了され、今後アメリカの企業にてリチウムイオン電池開発の研究を続けられるとのことです。

また、成田さんはXPLANEという団体にて、海外大学院留学を目指す人への支援もされています。海外大学院留学に興味のある人は、ぜひホームページやSlackを覗いてみてください。

それでは、インタビューをお楽しみください!

留学先ではどのような研究をされていますか?

カルテックでは、3Dプリント技術、特にvat polymerization(液槽光重合法)を利用した3Dプリンティングを用いて、リチウムイオン電池電極の開発に取り組んでいます。また、その開発された3次元電極を用いて、電極構造と電池性能の関係性の評価も行っています。

現在、商品化されているリチウムイオン電池の電極のほとんどは粉末形状で、ミクロに3D構造を制御することが困難でした。3Dプリントを応用した技術で電極を作製できるようにすることにより、リチウムイオン電池内でのイオンや電子の輸送、界面での反応といった現象を体系的に研究できる土台を作ったつもりです。

図 1. 3D炭素電極の作製プロセス。3D CADにて3D構造を自由にデザインし、vat polymerizationを利用したDLP (Digital Light Processing) 3D printingで3D構造のポリマーを作製、その後Pyrolysis(不活性化での熱分解)にて3D炭素へ変換させる。

 

なぜ日本ではなく、海外で研究を行う選択をしたのですか?

自分は博士課程から渡米したのですが、動機は、教授・学生ともに世界中から優秀な人が集まり、かつ研究施設も充実した環境で研究をしたかったからです。特に、カルテックは少数精鋭で研究環境もよく、コースワークも厳しく、サイエンスに力を入れている大学であるため、自分の基礎を作るのに適した環境だと思い、カルテックへの留学の選択をしました。

研究経験を通じて、良かったこと・悪かったことをそれぞれ教えてください。

良かったことは、世界で最先端を行く研究者や教授がどういう人かを見れたことです。カルテックの教授や、PhD卒業後、ポスドクを経てMITなどのトップスクールで教授になった先輩方と一緒に研究をしてきた中で、留学前までは際限なく上がいると思っていたアカデミアの天井を見ることができたのは自分にとっては一番の収穫でした。ただ、その一方、その優秀な研究者たちと自分を比べることで生まれる劣等感やストレスは最初はかなりつらかったです。研究をしていく中で、他の人には負けない自分の専門領域が構築されそれらは和らいでいきました。

現地の人々や、所属研究室の雰囲気はどうですか?

カリフォルニアの気候もあってか、カルテックの人は気さくな人が多いです。所属研究室もソーシャルな人が多く、コロナの影響でロックダウンする前はボードゲームをしたり研究室内外で活発に交流していました。

図 3. ラボメイトとのボードゲーム。

渡航前に念入りに準備したこと、現地で困ったことを教えてください

5年前になるので正確には覚えていないのですが、渡航前は準備をするよりも1カ月間、実家で家族と一緒にのんびり過ごしていました。現地で最初困ったのは英語です笑。授業もあまり聞き取れないし、研究室でも正確にはコミュニケーションが取れていませんでした。

海外経験を、将来どのように活かしていきたいですか?

このインタビューが行われた2021年6月にPhDを修了して、これからアメリカのインダストリで働く予定です。PhD開始時点ではアカデミア志望だったのですが、自分の研究している電池分野ではインダストリの規模が大きいというのもあり、一度インダストリを見てみようという思いが強くなりました。日欧米の電池業界にて就活をしていて感じたのですが、日本が電池産業に強いのもあって、日本語と英語が話せて、かつアメリカでPhDを取得しているのは欧米ではかなりユニークなようでポジティブに評価されました。

最後にメッセージをお願いします。

アメリカへの大学院留学というと、ネットでの情報は多いものの、まだレールを外れる選択肢というイメージが強いかもしれません。実際は日本のPhD課程と大まかにはやることは同じですし、進路の選択肢もアカデミア・インダストリともに広がると思います。留学関連でもし何か困ってることがあれば気軽に連絡ください。海外大学院留学総合情報サイトXPLANEの運営も行っています。

関連論文・参考資料

  1. Narita, K.; Citrin, M.A.; Yang, H.; Xia, X.; Greer, J.R. 3D Architected Carbon Electrodes for Energy Storage. Adv. Energy Mater. 2021, 11, 1–13, doi:10.1002/aenm.202002637

研究者のご略歴

名前:成田 海(なりた かい)

所属:Caltech, Materials Science PhD課程 Greer研究室

研究テーマ:リチウムイオン電池の3D炭素電極の開発

海外留学歴:5年(アメリカ)

略歴:
2010-2014年 東京工業大学 金属学科 里・小林研究室(学部)
2014-2016年 東京工業大学 材料工学専攻 小林研究室(修士)
2016-2021年 Caltech, Materials Science, Greer研究室(PhD)

関連リンク

Avatar photo

kanako

投稿者の記事一覧

アメリカの製薬企業の研究員。抗体をベースにした薬の開発を行なっている。
就職前は、アメリカの大学院にて化学のPhDを取得。専門はタンパク工学・ケミカルバイオロジー・高分子化学。

関連記事

  1. ほぅ、そうか!ハッとするC(sp3)–Hホウ素化
  2. (-)-Cyanthiwigin Fの全合成
  3. ゲルのやわらかさの秘密:「負のエネルギー弾性」を発見
  4. 光学活性有機ホウ素化合物のカップリング反応
  5. 一人二役のフタルイミドが位置までも制御する
  6. マダンガミンの網羅的全合成
  7. ヒドロゲルの新たな力学強度・温度応答性制御法
  8. 光で脳/神経科学に革命を起こす「オプトジェネティクス」

注目情報

ピックアップ記事

  1. 旭化成ファーマ、北海道に「コエンザイムQ10」の生産拠点を新設
  2. ノーコードでM5Stack室内環境モニターを作ろう
  3. 化学のうた
  4. ステープルペプチド Stapled Peptide
  5. クリストフ・レーダー Christoph Rader
  6. 研究者の活躍の場は「研究職」だけなのだろうか?
  7. ジンクピリチオン (zinc pyrithione)
  8. ドミトリ・メンデレーエフの墓
  9. 文化勲章・受章化学者一覧
  10. 求電子的トリフルオロメチル化 Electrophilic Trifluoromethylation

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2021年6月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930  

注目情報

最新記事

第12回慶應有機化学若手シンポジウム

概要主催:慶應有機化学若手シンポジウム実行委員会共催:慶應義塾大学理工学部・…

新たな有用活性天然物はどのように見つけてくるのか~新規抗真菌剤mandimycinの発見~

こんにちは!熊葛です.天然物は複雑な構造と有用な活性を有することから多くの化学者を魅了し,創薬に貢献…

創薬懇話会2025 in 大津

日時2025年6月19日(木)~6月20日(金)宿泊型セミナー会場ホテル…

理研の研究者が考える未来のバイオ技術とは?

bergです。昨今、環境問題や資源問題の関心の高まりから人工酵素や微生物を利用した化学合成やバイオテ…

水を含み湿度に応答するラメラ構造ポリマー材料の開発

第651回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院工学研究科(大内研究室)の堀池優貴 さんにお願い…

第57回有機金属若手の会 夏の学校

案内:今年度も、有機金属若手の会夏の学校を2泊3日の合宿形式で開催します。有機金…

高用量ビタミンB12がALSに治療効果を発揮する。しかし流通問題も。

2024年11月20日、エーザイ株式会社は、筋萎縮性側索硬化症用剤「ロゼバラミン…

第23回次世代を担う有機化学シンポジウム

「若手研究者が口頭発表する機会や自由闊達にディスカッションする場を増やし、若手の研究活動をエンカレッ…

ペロブスカイト太陽電池開発におけるマテリアルズ・インフォマティクスの活用

持続可能な社会の実現に向けて、太陽電池は太陽光発電における中心的な要素として注目…

有機合成化学協会誌2025年3月号:チェーンウォーキング・カルコゲン結合・有機電解反応・ロタキサン・配位重合

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年3月号がオンラインで公開されています!…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー