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一般的な話題

有機合成化学協会誌2021年5月号:『有機合成のブレークスルー』合成反応の選択性制御によるブレークスルー

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有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2021年5月号がオンライン公開されました。

今月号は特集号「『有機合成のブレークスルー』合成反応の選択性制御によるブレークスルー」です!これでもか!!というくらいの著名な研究者による豪華な特別号ですね。めちゃめちゃ読み応えあります。

多いに勉強になると思うので、この4月から研究始めたという人もぜひ!

今回も、会員の方ならばそれぞれの画像をクリックすればJ-STAGEを通してすべてを閲覧することが可能です。

巻頭言:気づいた時が考える時

今月号は、東北大学大学院薬学研究科 根東義則 教授による巻頭言です。

あることが問題だと思っていても、何も動かない、動けないことの多い毎日です。忙しさにかまけていないで、自分が何をすべきかということをきちんと問い直してみようと思いました。オープンアクセスです。

基質支配的アミド結合形成反応:ペプチド合成の新機軸

服部倫弘*、村松 渉*、山本 尚*

中部大学分子性触媒研究センター

ペプチド結合の形成反応において、従来の反応剤支配の反応から、ルイス酸触媒を用いてラセミ化の問題を克服した基質支配の反応への転換を志向した新しい化学の登場である。ペプチド合成化学の新展開となる可能性がある。

プロトン性官能基存在下での一価銅触媒による選択的結合形成反応

金井 求*

東京大学大学院薬学系研究科

有機合成化学における保護基の問題を、触媒開発から解決していきたい。触媒的に発生させるアリル銅や銅エノラートといった炭素求核剤が、プロトン性官能基の存在下でも分解することなく、触媒制御のもとに炭素-炭素結合形成をおこなえるようになってきたので、紹介したい。

多重選択性制御を可能にするキラルイミノホスホランの触媒作用:実験的および理論的考察

浦口大輔1大井貴史2*

1北海道大学触媒科学研究所

2*名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所

名古屋大学大井研究室の触媒開発におけるフィロソフィーから実践と理論までを、「多重選択性制御」をキーワードに学ぶことのできる大変優れた総説になっています。

ラジカル反応によるカルボン酸等価体およびカルボン酸の触媒的化学選択的α位官能基化

田中津久志、矢崎 亮*、大嶋孝志*

九州大学大学院薬学研究院

触媒によって化学選択性を制御できれば、有機合成化学の新しいフロンティアが開ける。本総合論文では、著者らの化学選択的なカルボン酸のα位官能基化反応の戦略が述べられています。酸性度のより高いカルボニル官能基共存下でのカルボン酸誘導体選択的な活性化は、有機合成化学にまだまだ多くの可能性が残されていることを感じさせます。ぜひ、ご一読ください。

シグマトロピー転位を活用するビアリール合成の新展開

柳 智征、依光英樹*

京都大学大学院理学研究科

本論文は、遷移金属触媒を用いる手法とは全く異なる原理に基づく新たなビアリール構築法について述べています。その発見の経緯から最近の研究成果まで詳細にまとめられており、有機合成化学に携わる研究者にとって読み応えのあるものとなっています。是非ご覧ください。

遷移金属/ルイス酸協働触媒によるサイト選択的アレーンC–H官能基化

中尾佳亮

京都大学大学院工学研究科

近年、大きく進展してきた C-H 官能基化において、サイト選択性のコントロールは、最後に残された大きな課題である。本総合論文では、遷移金属とルイス酸の協働触媒によって、置換ベンゼンやピリジンの C-H 官能基化のパラおよびメタ選択性を制御する手法について紹介する。特殊な配向基を用いることなく、触媒の選択によって、反応を加速しながらサイト選択性を制御できるのが、本協働触媒の特徴である。

Pd触媒の分子内移動を利用した非等モル下鈴木-宮浦重縮合による鎖状および環状芳香族ポリマーの合成

横澤 勉*、太田佳宏

神奈川大学工学部

横澤らは、パラジウム触媒の特性を巧みに利用することによって、重縮合における芳香族ポリマーの高分子末端官能基の精密制御を達成しました。鎖状および環状ポリマーの多様な設計と合成が可能で、原理や考え方が丁寧に紹介されています。ぜひ、ご一読ください。

求核的なアルミニウムアニオンが示す特異な反応

山下 誠*

名古屋大学大学院工学研究科

含13族元素化合物は,その空軌道に由来するルイス酸性を有することが知られている。一方,求核性や塩基性を示すホウ素アニオン種を初めて合成されたことで著名な山下先生らのグループは,最近,アルミニウムアニオン種を合成された。本論文では,直近3年間のアルミニウムアニオンの化学を,他のグループの研究も含めて網羅的にまとめて紹介している。

高周期14族元素低配位化合物が触媒する高選択的アルキン三量化反応の発見

笹森貴裕*

筑波大学数理物質系化学域

遷移金属触媒反応として知られるアルキンの三量化による芳香環生成反応を、遷移金属を使わずに触媒的に進行させる「典型元素触媒」となるゲルマニウム化合物を発見した。このゲルマニウム触媒反応では、高収率および完全な位置選択性で1,2,4-トリアリールベンゼンが生成することがわかった。

反応を選択的に促進する固体触媒の開発と連続フロー反応への展開

山田 強*、朴 貴煥、佐治木弘尚*

岐阜薬科大学薬品化学研究室

本論文では、さまざまな固体担持パラジウム触媒を調製してその解析および触媒活性評価を行っています。担持場を変えることで、触媒活性を制御して様々な選択的分子変換反応に適用し、さらにはその担持触媒を用いた連続フロー合成へと展開しています。ぜひご覧下さい。

高速合成化学における反応選択性の制御

玉木 孝、永木愛一郎*

京都大学大学院工学研究科

本論文は、マイクロリアクターを利用した高速かつ選択的な有機合成反応の開発についてまとめたものであり、高流量における混合効率が反応に与える影響について、詳しく述べられています。フロー合成に馴染みがなく、これからマイクロリアクターを用いた有機合成を検討している方に、利用方法の設定において参考となる総合論文です。ぜひご一読ください。

ボールミルの特徴を活かした新しい選択的反応の開発

久保田浩司1,2*、伊藤 肇1,2*

1*北海道大学化学反応創成研究拠点

2*北海道大学大学院工学研究院

筆者らが最近報告した固体メカノケミカル手法を用いた遷移金属錯体による触媒反応の開発についてまとめてある。従来の方法では実施困難であった分子変換反応について紹介している。有機合成化学者にとって必読の総合論文である。

 

これまでの紹介記事は有機合成化学協会誌 紹介記事シリーズを参照してください。

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博士(理学)。大学教員。娘の育児に奮闘しつつも、分子の世界に思いを馳せる日々。

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