接触還元は有機合成で汎用する反応の一つです。ニトロ基、オレフィン、アジドなどの還元やベンジル基・Cbz 基の脱保護など、非常に多くの使い道があります。特にパラジウム炭素 (Pd/C) を用いた接触水素化反応は接触還元のゴールデンスタンダードかと思います。
Pd/C と言えば発火性がよく問題になりますが、もう一つの問題は官能基選択性が低いことです。
近年、触媒毒により活性を低下させた不均一系パラジウム触媒 Pd/C(en)、Pd/Fib、Pd/PEI なども市販されています (関連記事: 不均一系接触水素化 Heterogeneous Hydrogenation)。しかしながら、芳香族ニトロ基は Pd/PEI 以外では容易に還元されてしまうため、分子内にオレフィンなどが存在する化合物のニトロ基→アミノ基の選択的還元は Pd 系触媒では難しいのが現実です。そんな時の第一選択はスズや鉄、亜鉛などの金属と酸を用いた Béchamp 還元 (関連記事: ベシャンプ還元 Bechamp Reduction) になると思いますが、実際は後処理がかなり面倒なことが多いです。
オスミウム活性炭素はニトロ基選択的還元のニュースタンダード?
どうしても芳香族ニトロ基だけを選択的に還元したい・・・しかもできるだけ楽チンに・・・
そんなアナタの悩みを解決してくれる触媒があります!
オスミウム活性炭素 (Os/C) です!!
オスミウムというと、cis-1,2-ジオールの合成に汎用される四酸化オスミウム (OsO4) のように毒性が高くハンドリングが煩雑なイメージがあります。しかし、オスミウム活性炭素は還元性オスミウムのため昇華性、毒性が少ないというメリットがあります1)。また、Pd/C と比べて発火性が少ないのも特徴です1)。
オスミウム活性炭素の還元能を以下の図に示します。
図1. 還元性官能基とOs/Cの反応性
(出典: https://labchem-wako.fujifilm.com/jp/category/00074.html)
アルケン・アルキンはもちろん、ベンジルやCbz、ハロゲンも落ちません。
さらに便利なのは、水素添加が不要というところです。
オスミウム活性炭素は還元剤として過剰量のヒドラジン (水和物でOK) を用います。
参考に挙げられている反応例を以下に示します。
図2. Os/Cとヒドラジン一水和物によるニトロ基の選択的還元
(出典: https://labchem-wako.fujifilm.com/jp/category/00074.html)
後処理としては、セライトでOs/Cを濾別後、メタノールをある程度減圧留去し、水/酢酸エチル等で抽出すればOKです。
筆者の経験では、カラム不要で次反応にそのまま用いることが多いくらいに綺麗に進行します。
欠点を挙げるとすれば、ヒドラジン由来のにおいが生成物に残ってしまうことくらいでしょうか (工程をこなしているうちににおいは消えます)。
オスミウム活性炭素は、富士フイルム和光純薬株式会社から購入できます (試薬サイト)。
¥5,950/1 g (2021年5月現在) と、価格もそこまで高くありません。研究室に常備しておけば、いざという時に便利かと思います。
実験例
2-ブロモ-4-ニトロ-1-ナフチルアミンの還元2)
2-ブロモ-4-ニトロ-1-ナフチルアミン (340 mg,1.27 mmol) をメタノール (20 mL) に溶解し、ヒドラジン一水和物 (5 mL) 及びオスミウム活性炭素 (50 mg) を加えて70˚Cで14時間撹拌する。反応液を室温まで放冷後、オスミウム炭素をセライトで濾別し、セライトを酢酸エチルで洗いこむ。濾液に水を加えて酢酸エチルで2回抽出後、有機層を合わせて飽和食塩水で2回洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥する。溶媒を減圧下で留去し、2-ブロモ-1,4-ジアミノナフタレン (271 mg、90% yield) を得る。
注: パラジウム炭素/水素添加条件では、ブロモ基が脱離し1,4-ジアミノナフタレンが生成する。
参考文献
1) 吉田雄一、和光純薬時報、2009、77(3).
2) Yasuda, D.; Nakajima, M.; Yuasa, A.; Obata, R.; Takahashi, K.; Ohe, T.; Ichimura, Y.; Komatsu, M.; Yamamoto, M.; Imamura, R.; Kojima, H.; Okabe, T.; Nagano, T.; Mashino, T., Bioorg. Med. Chem. Lett, 2016, 26, 5956-5959. DOI: 10.1016/j.bmcl.2016.10.083