[スポンサーリンク]

一般的な話題

【ケムステSlackに訊いてみた③】化学で美しいと思うことを教えて!

[スポンサーリンク]

日本初のオープン化学コミュニティ・ケムステSlackの質問チャンネルに流れてきたQ&Aの紹介シリーズです。第3段も、化学者ならではの考え方を知れる質問を紹介します。

Q. みなさんの、化学で美しい・きれいだと思うことを教えてください! 反応の様子でも、物質でも、化学反応式でも化学ならなんでも教えて頂きたいです(,,> <,,) ちなみに私は ビスマス結晶と、信号反応の戻るところが好きです

筆者(副代表)もビスマス結晶にはえも言われぬ美を感じます。毒性もほぼないので、普通にそこらで宝石として売られていて不思議ではないかも? 実はAmazonで原料が買えたりします。欲しい!自分で作って見たい!自由研究にしたい!という人はこちらこちらの記事などを参考にしつつトライしてみてはどうでしょう。

[amazonjs asin=”B00KPPMOEA” locale=”JP” title=”ビスマスチップ(純度:99.99%)1kg”]

信号反応はその名の通り、黄→赤→緑に色を3パタン変えていく不思議な化学反応です。百聞は一見にしかず、動画をご覧あれ。綺麗ですね~。原理が知りたい方はこちら

さてこの質問に対して、どんな回答が飛び交ったのでしょうか?とても興味が持たれますね。

A1. d軌道とか美しいなって思います。特に節(node)!

おっといきなり濃厚化学者テイストな回答が。電子の飛び交う原子周りの空間を模式化したものが軌道ですが、d軌道はこんな感じの形をしてます。なんでこんなところに電子が存在することを自然界は選んだのか、一種のミステリーですね。

画像はこちらより引用

 

A2.  植物二次代謝物のフラボノイドとかテルペノイドの生合成経路が美しいと思います

これも実物を見てみれば、美しいと感じられる気持ちは分かる気がします。フラボノイドの原料(ヒドロキシシンナモイル-CoA)は実はアミノ酸から作られていたりもします。

Wikipediaより引用

テルペノイドの生合成も非常に良く出来ていますね。5炭素原料から直鎖に繋げ、あとで一挙に環化させることで本当にいろんな化合物が出来上がります。多くのテルペノイドで炭素が5の倍数になるのはこのためです。

こちらより引用

A3. 光化学ですが、発光性分子の発する光が綺麗で好きです。特に好きな波長は460 nm(スカイブルー色)です。

発光材料・蛍光材料は、学生たちに化学の魅力を感じて貰うため、毎度持ち出される王道ですね。460nm?って言われてもピンとこないかも知れませんが、画像で見れば一目瞭然!

こちらより引用

A4.  美しい、ではないですが、水とアセトニトリルを混ぜると吸熱するのが、エントロピー駆動の化学?変化を感じられて感動しました。その一方で水とメタノールの混合は発熱反応なのもとても興味深いと思ってます。

これも実験してみると非常に不思議に思うことの一つですね。原初体験というのは魅力を持続させる駆動力にもなり、やっぱり「感動の瞬間」は重要です!

この話題に関する日本語解説記事はこちらをご参照ください。

A5. 元反応屋の意見ですが、たしかに結晶や振動反応は巨視的な”目で見える”美しい現象と思います。でも私は反応液をフラスコ内で撹拌するだけで芸術的に複雑な化合物が組み上がるのことが美しいと思います。フラスコを見て、フラスコ内で起こる微視的な”目で見えないもの”をイメージ出来るのは化学者の醍醐味かと思います。

合成化学/反応化学の凄いところは、目に見えないはずの分子・原子でも、人間の手でかなり自由にいじれるとこですね。個人的に凄いなと思っている一つは、インフルエンザ薬・タミフルの中間体がワンポットで組み上がっていく下記反応です。

原著論文より引用

 

A6. 「反応式の美しさ」ですが,モンサント酢酸合成プロセスです. メタノールと一酸化炭素から酢酸を作るプロセスで,一見単純な反応に見えます.しかし,実は中では色々な反応が起こっていて,これがうまく組み合わさってゴミゼロのプロセスになっています.

これも工業反応化学の最大傑作の一つですね。我々の世界にはもはや無くては成らない物質を、いとも簡単に、しかもゴミを出さずに作るというのは触媒化学のチカラあってこそです。改めて眺めても、その巧みさには驚くしかありません。

monsanto_2.gif

A7. ちょっと値は張りますがこういう本を個人的に買って持ってます(笑)

こんな本があるのか!と筆者自身驚いたので、タイトルだけ見て衝動買いしてしまいました。パラパラ眺めるだけでも自然界と化学界の美しさにため息がでます。

[amazonjs asin=”B00S16SSOA” locale=”JP” title=”Beauty in Chemistry: Artistry in the Creation of New Molecules (Topics in Current Chemistry Book 323) (English Edition)”]

化学のオープンコミュニティ・ケムステSlack

これらの例が示すまでもなく、化学と芸術はかなり親和性が高そうな気はしています。「機能美」という言葉が示す通り、優れた機能をもつ物質は構造も美しかったりします。こればかりは流石に自然界の深遠さと形容するほか無く、畏敬の念を抱くしかありません。筆者自身もARchemisTというコミュニティに関わりながら、両者の関係性を自分なりに咀嚼していけないものかと考えています。あまりにも壮大な話なので、色んな方の意見を頂きたいところです。興味を持たれた方はこちらのケムステSlack解説記事をご覧いただき、是非チャンネルで意見交換していただければと思います!

ケムステSlack参加はこちら

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 室温固相反応で青色発光物質Cs₃Cu₂I₅の良質薄膜が生成とその…
  2. アルカリ金属でメトキシアレーンを求核的にアミノ化する
  3. 化学者だって数学するっつーの! :シュレディンガー方程式と複素数…
  4. 化学と株価
  5. 水素化反応を効率化する物質を自動化フロー反応装置で一気に探索
  6. 単一細胞レベルで集団を解析
  7. YMC-DispoPackAT 「ケムステを見た!!」 30%O…
  8. 生合成を模倣しない(–)-jorunnamycin A, (–)…

注目情報

ピックアップ記事

  1. マスクの効果を実験的に証明した動画がYoutubeに公開
  2. 博士課程と給料
  3. モンサント、住友化学 雑草防除で協力強化
  4. 未来の車は燃料電池車でも電気自動車でもなくアンモニア車に?
  5. GRE Chemistry 受験報告 –試験対策編–
  6. 不斉アリルホウ素化 Asymmetric Allylboration
  7. 計算と実験の融合による新反応開発:対称及び非対称DPPEの簡便合成
  8. 学術論文を書くときは句動詞に注意
  9. 合同資源産業:ヨウ素化合物を作る新工場完成--長生村の千葉事業所 /千葉
  10. 新海征治 Seiji Shinkai

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2021年5月
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31  

注目情報

最新記事

7th Compound Challengeが開催されます!【エントリー〆切:2026年03月02日】 集え、”腕に覚えあり”の合成化学者!!

メルク株式会社より全世界の合成化学者と競い合うイベント、7th Compound Challenge…

乙卯研究所【急募】 有機合成化学分野(研究テーマは自由)の研究員募集

乙卯研究所とは乙卯研究所は、1915年の設立以来、広く薬学の研究を行うことを主要事業とし、その研…

大森 建 Ken OHMORI

大森 建(おおもり けん, 1969年 02月 12日–)は、日本の有機合成化学者。東京科学大学(I…

西川俊夫 Toshio NISHIKAWA

西川俊夫(にしかわ としお、1962年6月1日-)は、日本の有機化学者である。名古屋大学大学院生命農…

市川聡 Satoshi ICHIKAWA

市川 聡(Satoshi Ichikawa, 1971年9月28日-)は、日本の有機化学者・創薬化学…

非侵襲で使えるpH計で水溶液中のpHを測ってみた!

今回は、知っているようで知らない、なんとなく分かっているようで実は測定が難しい pH計(pHセンサー…

有馬温泉で鉄イオン水溶液について学んできた【化学者が行く温泉巡りの旅】

有馬温泉の金泉は、塩化物濃度と鉄濃度が日本の温泉の中で最も高い温泉で、黄褐色を呈する温泉です。この記…

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP